第7話「永遠の園」
私の意識は、もう戻らない。
かつて人間だった記憶が、無数の花の中に散りばめられている。それぞれの花が、私の一部を永遠に留め続ける。苦痛も、絶望も、すべてを。
「素晴らしい出来ね」
シャネルのスーツに身を包んだ明美が、新しく咲いた花々を愛でている。その指先が花びらに触れるたび、私の意識の断片が悲鳴を上げる。
地下室の壁という壁に、失敗作たちが這い蹲っている。彼らの歪んだ姿が、私の未来を暗示していた。永遠に終わらない苦痛。決して解放されない意識。
「でも、まだ足りないわ」
別の明美が、ディオールのドレスに身を包んで現れる。
「もっと美しい花園にしなければ」
鏡の中の母は、永遠に血の涙を流し続けている。その涙が地面に染みこむたび、新たな花が咲き誇る。美しくも、おぞましい光景。
突然、地上から物音が聞こえてきた。
「あら、お客様?」
明美たちの瞳が、獲物を見つけた猛獣のように輝く。
私の花の一つが、その来訪者の姿を捉えていた。
若い女性。カメラを持っている。
失踪した私を探しているのだろう。彼女もまた、新たな花となる運命。
私は叫びたかった。
逃げて。
ここから離れて。
しかし、私の声は、もう届かない。
花の中で、永遠に閉じ込められたまま。
階段を上がっていく明美たち。
彼女たちは既に、最新のブランドに着替えていた。
完璧な美の仮面の下に、狂気を隠して。
「いらっしゃいませ」
甘い声が響く。
「素敵な庭園をご案内させていただきます」
新たな悲鳴が響く前に、私の意識はまた千々に分かれていく。
それぞれの花の中で、永遠の責め苦を味わいながら。
これが、光庭園の真実。
美という名の拷問の園。
そして今、新たな花が咲こうとしている。
(終)
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