第6話「花園の深淵」
痛みは、もはや限界を超えていた。
私の体は首まで透明になり、その中で血管が青い花脈となって蠢いている。腕からは既に数輪の花が咲き、その一つ一つに私の断片的な意識が宿っていた。
「まだ抵抗するのね」
明美たちが、私の周りを取り囲む。プラダ、グッチ、フェンディ。それぞれが違うブランドに身を包み、優雅に微笑んでいる。しかし、その笑顔の下には、抑えきれない狂気が渦巻いていた。
「地下の子たちも、最初はそうだった」
一人の明美が、地下への扉を大きく開く。
階段を降りていくと、そこには地獄絵図が広がっていた。
人の形を残したまま花と化した存在たち。彼らは壁一面を埋め尽くし、苦痛に喘いでいる。顔は半分だけ花になり、歪んだ表情を永遠に留めていた。手足は茎となって壁に食い込み、その先から新たな花が次々と咲き続けている。
「失敗作とは言え、可愛い子たちよ」
明美たちが愛おしそうに話しかける。
「彼らの苦痛が、最高の肥料になるの」
その時、地下室の花たちが一斉に動いた。まるで私に手を伸ばすように、茎が揺れる。その先端からは、赤黒い液体が滴り落ちていた。
「あら、珍しい」
明美たちが目を輝かせる。
「あなたを歓迎してるのかしら」
私の体から新たな花が咲き始める。今度は赤い花。その花びらは、まるで生きた肉のように脈打っている。
「ここが、光庭園の真の姿」
明美たちの声が重なる。
「美しさの仮面の下に隠された、永遠の苦痛の園」
地下室の奥から、かすかな音が聞こえてきた。まるで誰かが泣いているような。
振り向くと、最も奥の壁に、一面の鏡が設置されていた。その中には、一人の女性が。明美の母だ。
彼女は鏡の中で永遠に泣き続けている。その涙は血となって流れ、床に咲く花々の栄養となっていた。
「ええ、あれが母の本当の姿」
明美たちの声が冷たくなる。
「美への執着が、彼女をそうしたの。そして私たちを生み出した」
突然、母の姿が私に気づいたように顔を上げた。その目は、深い絶望に満ちていた。
彼女の口が動く。声は聞こえないが、その言葉を読み取ることはできた。
「逃げて」
しかし、もう遅かった。
私の体は、もはや人の形を留めていない。意識は千々に分かれ、それぞれの花の中に閉じ込められていく。
最後に見たのは、鏡の中で微笑む明美たちの姿。その背後には、母の絶望の表情が。
そして私は理解した。これが永遠の拷問なのだと。
美という名の、終わりなき地獄が、今始まろうとしていた。
(続く)
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