なんでこいつがここに!?

 先輩にお仕事を教えて貰って、いざ実務。

 貸し出し業務はそんなに難しいことでもなさそうだった。

 魔道具で管理されてるみたいだから。


 便利だな、魔道具。

 魔道具って言っておけばなんでも解決するみたいな謎の力を感じる気がしないでもないが、まぁ実際にあるんだから享受するに限る。

 元々ゲームの世界だしな。

 そういう細かいところは全部魔道具の便利ワードで解決されるんだろう。


 だからまぁ、お仕事もあまりやることがない。

 基本的に本を読んで、人が来たらさっと貸し出し作業。

 これだけだ。

 貸す方も借りる方も本好きしかいないから、変なことも起こりにくい。


 彼らは貴族だから、家に本があるだろうしな。

 家にない本をわざわざ借りに来るほどの本好きしかいないわけだ。

 そういう人たちだから、大人しくてしっかりしてる人が多い。

 はっきり言って癒しの時間だ。

 すさんだ心の清涼剤になる。


 まぁ、月金はサリアと一緒だから、こんなのんびりはできないかもだけど。

 うーん。サリアとだけ仲良くなっていって、ミーシャとは交流を持てていない。


 今日も全然話せなかった。

 近づこうとすると、取り巻きがブロックしてくるんだもの。

 おかげでミリアルドとも話せない。

 やつと話す理由もないんだけど、将を射らんとすれば馬からとも言うし。

 ミリアルドと話していれば、ミーシャも加わってくるかなー、と思ったけど、基本的に二人は一緒にいるからな。

 正直に言うと、ミーシャルートは詰んでる。


 まぁ、完全拒絶だから、これ以上ルートが進みようもないというか。

 死亡フラグを避けると言う点では願ったり叶ったりなのだけど。

 でもミーシャに嫌われてるからなー。


 好きなキャラに嫌われっぱなしは悲しい。

 できれば仲良くなりたい。

 それは現状難しいんだけど。


 どうにかできないかなー、と考え込んでいたら、目の前に人影。

 どうやら本を借りる人が来たらしい。

 顔もろくに見ずに本を手に取って貸し出し業務を行なっていると、なぜか声をかけられた。


「次期聖女が本の貸し出しとは、またなんとも言えない味わいがあるな」


 なんだいきなり失礼な、と思って顔を見れば、そこにはミリアルドがいた。

 え、なんでこいつがここに!?


「ミ、ミリアルド様? なぜここにおられるのですか?」

「本を借りに来たに決まっているだろう。俺がいたら悪いのか」


 むっとした様子のミリアルド。

 まずい。来ると思ってなかったから、余計なことを言ってしまう。

 なんとか取り繕わないと。


「いえ、めっそうもございません! ただ、お城に本が沢山ありそうなのに、と思っただけでして……」

「まぁ沢山あるが、ここには家にないのもありそうだからな。実際見つけたから借りているわけだし。それに、家の本はちょっとな……」


 なんだろう。何かあるんだろうか?

 ここで聞くのは不躾だとは分かっているんだけど、今しか接点がない。

 ならば、多少無理矢理でも覚えてもらうべきか。

 そうしないと、ミーシャとまた話すなんて無理だろう。

 そう思って、踏み込むことにした。


「お城の図書室に行きにくい理由があるのですか?」

「……随分踏み込んで来るのだな。そこまで許した覚えはないぞ」


 ひぃっ。こわい! でもめげるな。ここでくじけたらただ機嫌を悪くしただけで終わっちゃう。


「私は元貧民ですので、遠慮がないのです。それに、誰かが困っていたら助けになりたい。そう思うのはいけないことですか?」

「……ミーシャから聞いたが、グランツ家のご令嬢の頼み事は嫌そうにしていたらしいな? 俺に取り入りたい理由でもあるのか?」


 うっ。随分嫌なところをついてくる。

 そうだよ。ミーシャに近づきたい下心でいっぱいだよ。

 でも、それの言い訳は立つもんね。


「ミーシャ様に言われたのです。次期聖女なら、他人の悩みも受け入れるべきでは、と。その言葉に感銘を受けて、行動を変えるように心がけているのです。例えミリアルド様でなくても、お声がけはしましたよ。現に、サリア様とは仲良くしています」


 ま、ミリアルドじゃなくても声かけたってのは嘘だけどな。言ったからには今後そう言う風にするけどさ。

 だから嘘じゃなくなるんだ。

 私の言葉を信じたのか、ミリアルドは一つ頷いてから、さぐるように聞いてきた。


「ふむ……ならば聞いて貰ってもいいか?」

「もちろんです」

「まぁ、そんなに深刻なことでもない。弟の方が出来がよくてな。城の本をいつも読んでいるのだ。あいつがいると近寄りにくくて。俺も学ばねば追いつけないから、こうしてここにいるわけだ」


 やっぱり弟関係か。

 薄々そんな気はしていた。

 まぁ、そんなの知ってるのはおかしいから、知らない体で話を進めるんだけど。

 

「第二王子様とはご関係がよろしくないのですか?」

「……俺が一方的に劣等感を抱いている。ヤツは気にしていないだろうな」


 そうだよね。やっぱり第二王子に対する思いは変わらないよね。

 ゲームではもっと先だけど、私にこれを打ち明ける場面がある。このシーンが入ると、ミーシャのバッドエンドはほぼ確定。ミリアルドは私にゾッコンになって、妃の立場を奪われるのだ。

 

 でもあれは、ミリアルドとゲームの私の関係がある程度深くなっていたからだ。

 今言ったとしても、せいぜい良い相談相手くらいにしか思われないだろう。

 だから、ゲームの言葉を借りることにした。ゲーム内容はあんまし覚えてないけど、ミーシャのルートは覚えているから。


「ミリアルド様はミリアルド様ですよ。誰かの代わり、なんてことはありえません。第二王子様に特筆すべき点があるように、ミリアルド様にもいいところがあるはずです。でなければ、なぜミーシャ様はミリアルド様に惹かれているのですか? ご自分を卑下なさるのは、今のミリアルド様を好きなミーシャ様に対する裏切り行為ですよ」


 長ゼリフだからところどころ補完しているが、確かこんなだったと思う。

 ってか、ミーシャに惚れられてるって自覚させてるのに、私に惚れるのってありえなくない?

 普通に浮気でしょ。

 まぁ、ゲームキャラになにか言っても仕方ないんだけどさ。

 リアルではもうちょっと意思を強く持って欲しいものだね。


「……そうだな。俺を好いてくれる者がいるのだ。確かに、そんな自分を嫌いだなんて言うのは、ミーシャに示しがつかない。ありがとう、レイナ。君のことを少し誤解していたようだ」


 よし。良い具合に好感度調整できてる。

 して、誤解とな?

 

「なにか変な印象を与えるようなことをしたでしょうか……?」

「いや、なに。王族や高位貴族としか関わっていないから、権力に惹かれた強欲な者かと思っていてな。大変失礼なことを考えていた。申し訳ない」


 そう言って頭を下げるミリアルド。

 待て待て! あんまり間違ってない評価はこの際どうでもいいとして、お前が頭を下げるのはまずいだろ!

 次期聖女とはいえ、ただの貧民だぞ!

 私に頭は下げちゃダメだって!


「あ、頭をあげてください! ミリアルド様に謝られるなんて恐れ多いです! ただでさえミーシャ様に嫌われているのに、これが耳に入ったらどうなってしまうことか!」


 ただでさえ残ってない好感度がゼロ通り越してマイナスになるぞ。

 あぁ恐ろしい!

 慌てているのが伝わったのか、ミリアルドは頭をあげて、あっけらかんと言った。


「なんだ? そんなにミーシャが恐ろしいのか? 先ほどの今でこう言うのはおこがましいが、俺が言えばミーシャは考えを改めてくれるはずだ。レイナのことは口添えしておこう」


 ひぃーっ。そんなことされたらどうなっちゃうんだ。

 ……でも、考え用によってはラッキーかもしれない。

 ミーシャとの仲を取り戻すチャンスだからな。

 ここはもう少し押しておくか。


「でしたら私、ミーシャ様ともっと仲良くなりたいです」

「それはミーシャが高位貴族だからか?」

「いいえ。この学園で最初にお話ししていただいたのがミーシャ様だからです。貧民である私にも、分け隔てなく接していただきました。なので、私としては、もっと仲良くしたいのです」

「……そうか。ならば明日から、俺たちと一緒に過ごすといい。きっと、ミーシャはレイナのことを勘違いしているんだ。きちんと自分の目で確かめさせるから、明日からこっちに来い」


 やった。願ってもない申し出だ。

 死亡フラグに突っ込む危険性はあるが、ここでノーというやつはただのビビリ。

 ミーシャと仲良くなるためには行くしかない。

 

「本当ですか? それはぜひお願いしたいです」

「よし。では、明日からよろしく頼む。さて。俺はそろそろ行く。悪いな、騒がしくして。それでは、また明日」


 周りの先輩たちも気遣いながら去っていくミリアルド。

 ゲームではクソ男とか思ってたけど、リアルになると気遣いのできる良い男なんだな。

 こういうところにミーシャは惹かれたのかもしれない。

 ミリアルドの評価を、ちょっと改めなければいけないな。

 



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る