推しにめっちゃ嫌われたんですが!?
「レイナさん。少しお時間いいかしら? 二人で話したいことがあるの」
ヒロイン去って、またヒロイン。
サリアに学園を案内して貰ったあと、教室に戻ると、ミーシャから声をかけられた。
わーい、推しと二人でお話しだー!
……なんて、素直に喜べればどれだけよかったことか。
絶対そんな穏やかな案件じゃないだろ。
できればついて行きたくないけど、そもそも拒否権なんてないに等しい。
ミーシャのお願いでもあるし、ここは承諾一択。
「わかりました。案内してください」
で、連れていかれたのは人気が全くない個室。
大貴族は内緒話にもお金がかかるのね。
お付きのメイドすらいないし、かなりガチなヤツだ。
私が蛮行にでたらどうするつもりなのだろうか。
そんなことは絶対にしないけどさ。
なんてことをぐだぐだ考えていたら、ミーシャが口を開いた。
「単刀直入にお聞きしますが、あなた、ミリアルド様に好意があるそうですね?」
は? 誰があんな偏屈王子を好きなものかよ。
私が好きなのはあなただけです。
なんて言えればいいんだけど、そんな勇気もないし、言える雰囲気でもない。
だって睨み殺さんばかりの目つきをしているから。
てか、マジで心当たりがないんだけど?
「あの、どういうことでしょうか? そんなこと言った覚えがないのですが……」
「ふむ。あくまでシラを切るおつもりですか?」
「いえ、本当に心当たりがなくて……」
本当に、どこからそんなデマが流れたんだ?
不思議に思っていると、ミーシャは魔族の首を取ったかのように高らかと告げてきた。
「先ほどグランツ家のご令嬢に、『ミリアルド殿下へ告白しに行く用事がある』と言ったそうではないですか」
グランツ……? グランツ……。
あー!
サリアを撒くための嘘か!
え、あれ、ミーシャの耳に入っちゃったの!?
あんまり人がいないから大丈夫だと思ったのに!
取り巻きの諜報能力はどれだけ優秀なんだよ。
ってか、これ誤解を解かないとまずいことになる。
「あれは違うんです! サリアさんがしつこくて、逃げるために嘘をついただけなんです!」
「……そのあと、仲良くしてるところを見た方がいらっしゃるようなのですが? それはどう説明するおつもりですか?」
あーん。サリアのお願いを承諾したのが裏目に出てるー!
おのれ、疫病神め……死亡フラグへ近づけるに飽き足らず、ミーシャの好感度まで下げるなんて。
自業自得の部分はあれど、恨まずにはいられない。
サリアへの怨嗟を飲み込みながら、ミーシャの気を鎮めるために、言葉をこねくりまわした。
「私も好きで仲良くしてるわけじゃないんですよ! 雰囲気に流されて仕方なくと言うか……本当は関わりたくなかったんですが、強く言ったら泣かせちゃったから、周りの目が怖くてですね……」
「あくまで義務で一緒にいて、本当は仲良くするつもりなんてない、と」
「そうですそうです! だから、告白の件も逃げるための嘘なんですよ!」
強めに説得すると、ミーシャは一瞬黙り込んだ。
納得させられたか、と思った瞬間、吐き捨てるように言葉が飛んでくる。
「……最低ですわね」
「えっ」
今、めっちゃ蔑まれた?
ミーシャから告げられた言葉を信じられないでいると、追撃が来た。
「逃げるための方便といえ、王族への告白をかたるにはじまり、あなたを信頼した方を愚弄する言動……人として、最低ですわ」
「そ、そうは言われても、初対面の方に変な頼み事をされては、誰でもそうなるのでは?」
「それでも矜持を持ってやり通す。それが貴族の嗜みです。あなたも聖女になるのですから、それくらいの気概は持ったらどうです?」
「で、でも苦手な人に世話を焼くのは――」
「――グダグダうるさいですわね。一度引き受けたのなら潔くしたらいかがですか」
強い言葉でキッパリ断言された。
ミーシャはそういうキャラだって分かっているけど、でも、こっちの事情を知らないくせに、とも思う。
死ぬかもしれないんだから、誰だって嫌に決まっている。言っても分かってもらえないかもしれないが、どうしても言いたくなった。
「関わったら最悪死亡、よくて廃人になるかもしれないのですよ? そんな相手と関わり合いになりたいと思いますか?」
「グランツ家のご令嬢があなたにそんな酷い扱いをすると?」
ミーシャが訝しげな目で見てくる。
それもそうだろう。
初めて会う人間にそんな評価を下すなんて正気じゃない。
でも本当だから。なんとか信じてもらうしかなかった。
「そうです。聖女の能力なのか、未来の可能性がわかるんです。それによると、関わると死ぬかもしれなくて。本人もとっつきにくいですし、正直嫌なんですよ」
都合のいい嘘も交えながら、真意を告げる。
が、ミーシャはばっさりと切り捨ててきた。
「ならきっぱり断ればよろしいのに。それもしないで取り繕って、なにがしたいのか分かりませんわ」
「……周りの目が怖かったんです。断ったら立場が悪くなると思って」
ミーシャは興味が失せたのか、私に背を向けて扉へ向かい、部屋を出る間際に冷たく言葉を吐いてきた。
「もう一度言わせていただきますが、最低ですわね。先ほどはよろしくさせていただきましたが、もう二度と私に関わらないでくださいませ」
え。友情ENDとかそういう話じゃないくらい拒絶されてない……?
こんなに否定し尽くされるの、ゲームでもなかったんだけど? こっから挽回しろって言うの!?
なんでこんなことになっちゃうんだろう……。
一番仲良くなりたいキャラには遠巻きにされ、関わりたくないキャラと距離が近くなる……。
うわーん。やることなすこと空回りしてる気がするよー。
保身に走ったら、推しにめっちゃ嫌われたんですが!?
もう生きていけないよ……。
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