第4話
「じゃあ、お爺ちゃん、気を付けて帰るんだよ?いいね?」
若い警察官が、優しい声で、言った。
「あーあーあー」
米山源蔵96歳は、虚ろな目をし、その痩せ衰えた体を揺らしながら、言った。
米山源蔵96歳は、30分の事情聴取の後、警察署から出されたのだった。
聴取は、まったく成立しなかったのだ。米山源蔵は、何を尋ねても「あーあーあー」という奇声しか発さなかった。
仕方なく、若い警察官たちは、米山源蔵に、昆布のおにぎりをあげたのだ。
米山源蔵は、美味そうに食べた。
***
そうして30分後、米山源蔵96歳は、警察署から出たのだった。
***
まだクリスマスの夜は続いている。
多くのカップルが、駅前を歩いている。腕を組んで、キスをして、
実に、幸せそうな様子をしている。
***
(俺には、友達がいない。恋人もいたことがない。家族にも捨てられたし、親戚も今やほとんどが死んだ。俺は、とてつもなく、ロンリーなんだ・・・)
***
ふらふらとした足取りで、米山源蔵96歳は、歩いていく。
多くのカップルたちの目には、グロテスクな汚らしいクリーチャーのような老人など、映ることはない。存在自体が、認知されていないのだ。
***
「あーあーあー」
米山源蔵96歳は、意図しない奇声を出し続ける。
そうして、汚れたリュックサックから、文化包丁を取り出すと、目の前を横切って来た20代くらいの男女カップルに突撃し、めった刺しにした。
グサッ!
グサッ!
グサッ!
「キャー!」
「殺人だ~!」
「やべ~ぞ!やっべ~!!」
混雑する駅前広場での、唐突な殺人事件に、多くの人々が叫び声をあげた。
みんな混乱した様子で、スマホを取り出し、撮影を開始。
殺人事件を撮影できるチャンスなど、そうそうあるものではない。
男女カップルは全身数十か所を刺され、大量の血を流して、倒れている。救急車を呼ぶまでもない。もう、死んでいた。2人とも仰向けで、白目を剥いている。
***
「あーあーあー」
米山源蔵はクリスマスの本日2回目の通り魔殺人を達成した。
彼は、カップルの男の方に近づくと、ジーンズを脱がし、黒いボクサーパンツを脱がす。毛深い下半身が露出した。そうして、萎んだチンポコを摘まみ、文化包丁で切断した。
その後、スムーズな動作で、カップルの女の方に近づき、上半身を裸に剥いて、二つあるおっぱいを、包丁で切除した。
「チンポコと、おっぱい。チンポコと、おっぱい」
***
そこを、酒でも買いに行こうと、コンビニへと向かう、サリーマン、近藤和彦が、通り掛る。
血まみれで座り込んでいる米山源蔵96歳を見る。
「あれ、あの爺さんさっき見た気がするな」
(5話へ続く)
クリスマス・クリスマス(愛の時間) モグラ研二 @murokimegumii
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