クリスマス・クリスマス(愛の時間)
モグラ研二
第1話
米山源蔵は今年で96歳だ。
彼は、一度も、友達を持ったことがなく、同時に、恋人も持ったことがない。
今や、すっかり干からびたカラダ、皺だらけ、頭髪は欠如しているが、顔中に、まばらなヒゲが、生えていて、実に、汚らしく、圧倒的によぼよぼの、衰えた存在になっている。
「おーおーおー」
ボロイ、臭い服を着て、クリスマスの街を、米山源蔵96歳は、歩いている。
クリスマスの街には、もちろん、若いカップルが、溢れている。
みんな、お互いをキラキラした目で見つめ合い、他は、眼中にもない。
米山源蔵は今年で96歳だ。
彼にも、幸せな時期があった、だろうか?
いや、ないのだ。
一度も、ないのである。
(俺は家族にも捨てられた。親戚に呼び出され、高さ数十メートルの橋から、落とされたこともある。川に流され、死ぬかと思ったものだ。幸い、野性のクマに、ケツを噛みつかれ、陸に放り投げられ、一命をとりとめたのだが・・・)
「おーおーおー」
口から、意図しない奇声が、漏れる。
これは、もう50年以上続く、米山源蔵のクセである。
クリスマスの街には、もちろん、カップルが、溢れている。
男は、女の腰に手をやり、女は、男の顔を、見上げている。
まばゆいイルミネーション。
雰囲気を作り出すクリスマスソング。
クリスマスツリー。熱心に叫ぶサンタ姿の店員たち。
クリスマスムードは、頂点に、達している。
「おーおーおー」
米山源蔵は、ボロイリュックサックから、文化包丁を取り出すと、
目の前、2メートルほど先を歩いている、恐らく20代前半であろう男女カップルに、96歳とは思えないスピードで突進していった。
「おーおーおー」
グサッ!
グサッ!
グサッ!
グサッ!
何度も、若いカップルの肉体を刺した。
カップルは、悲鳴をあげる間もなく、その場に倒れた。
「えっ、まじ?なんだこれ」
そう言いながら、目撃したサラリーマン、近藤和彦45歳が、スマホで撮影を開始。
「おーおーおー」
米山源蔵96歳は、倒れたカップルの、若い男の方の、ジーンズを脱がし、黒いボクサーパンツを脱がす。毛深い下半身が露出。萎えた、黒ずんだチンポコを、米山源蔵は掴むと、文化包丁で、えやっ!と切断した。血が、吹き出る。
(俺は、クリスマスの夜に、近所の不良たちに呼び出され、全裸にされ、四つん這いになれと命令され、ケツに、鉄パイプを、突っ込まれたこともあるんだ・・・)
***
もちろん、間もなく警察が到着、米山源蔵96歳は、その場で逮捕された。
よぼよぼすぎて、歩くのも覚束ない。
「おじいちゃん、しっかりして、ね、ね?」と、優しく、若い警察官が、声をかける。
その様子も、サラリーマン、近藤和彦45歳は、スマホで撮影していた。
(2話へ続く・・・)
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