第十章 風が吹き抜けていく
コハクの彼方
第十章 風が吹き抜けていく
ネル♀︰
高3
人の気持ちに寄り添えることが出来る
ラドラ♂︰
高3
世界を理解することが出来る
レライ♀︰
アネットの友達
高2
西寄りの発音もありますが、基本は標準語で大丈夫です。
アネット♀︰
高2
レライの友達
本編↓
ネル︰ここは、とある学園である。
ここは、皆が望む楽園である。
ここは、人々の理想郷である。
アネット︰猫に憧れた。
自由気ままに歩き回る猫に。
沢山の世界を観て回れる猫に、憧れた。
長く、遠い道のりを、自分の足で歩きたかった。
レライ︰鳥に憧れた。
空を自由に羽ばたく鳥に。
行きたい場所にすぐに行ける鳥に、憧れた。
見たことの無い世界を見下ろして、世界を知りたかった。
アネット︰蝶や花になんてなりたくなかった。
誰かのために捧げられるなんて、真っ平御免だ。
レライ︰日傘の下でなんて育ちたくはなかった。
誰かのために歴史を紡ぐなんて、真っ平御免だ。
アネット︰ずっと。
レライ︰ずっと。
アネット︰自由になりたかった。
レライ︰自由でありたかった。
アネット︰今日も始まりの鐘の音が、世界に鳴り響く。
………
ネル「………」
ラドラ「………」
ネル「………」(ラドラに微笑みかけるが、目は笑っていない)
ラドラ「………」
ネル「何が言いたいか、わかるよね?」
ラドラ「………あの、その節は」
ネル「………
その節は、なに?」
ラドラ「ネルちゃん…あの、目が笑ってないよ」
ネル「そうかしら?
ラドラくんの気のせいじゃないかな。
で、他に言うことは?」
ラドラ「えっと、ごめんなさい…」
ネル「何が?」
ラドラ「アネットちゃんに話したこと…」
ネル「そうね。それで」
ラドラ「パーズくんの手を煩わせたこと」
ネル「あら、ちゃんとわかってるじゃない。
手を煩わせるって、わかってるのにする、
なんて、タチが悪いわよ」
ラドラ「だって、【僕が言う分には】大丈夫だから…」
ネル「それでも、
伝えて良い理由にはならないし、
私に怒られることも、ちゃんとわかってたんでしょ?」
ラドラ「………。
別に、そんなに怒られるほど、ダメなことしたつもりは無いけど」
ネル「はぁ、たしかに、そうかもね。
アネットにとって…
あの子にとってって考えると、
怒られる程ダメなことはしてないわね。
ただ、」
ラドラ「別に、華舞台出身のあの子達から言わない分には、大丈夫、でしょ?
それが、何かを思い出すトリガーにだってならないじゃないか」
ネル「………
トリガーにはならない。
それはそう、なんだけど…
それはそれ、これはこれ、よ。
ラドラくんがアネットに伝えたってことは、
この先の出来事として、
悪い方にいかない事はわかるわ。
それでも…」
ラドラ「アネットちゃんが心配かい?」
ネル「そうね。心配よ」
ラドラ「…彼女の能力は【影】だったかな」
ネル「ええ、そうね。
【影】を
彼女の足から伸びる影を自由自在に操ることが出来るのよ」
ラドラ「でも、それは仮初(かりそめ)だろう?」
ネル「…ええ。
はぁ…それもわかるのね。
確かにパーズくんが記憶を消したくなるのもわかる、わ」
ラドラ「そうかい?
確かに、己の秘密達を、理解されているのは怖いものかもしれないね。
ただ、生憎『僕は記憶を消されたこと』はわかるけど、『消された記憶』の内容は覚えてないんだ。
だから、メモをとるってわけ」
ネル「全知全能も万能って訳では無いのね」
ラドラ「まあ、ね。
話が逸れたね。戻そう。
僕がアネットちゃんに話したのは、
昨年起きた、【華舞台の宴】…
そこで開花した【夢揺(ゆめゆらぎ)の姫】。
これがアネットちゃん。
そして、彼女の能力である【影】…
いや、【闇】の方が正しいかな。
彼女の抱え込んだ【闇】。
その能力の開花が、【華舞台の宴】の殲滅への幕を開けた。
そうだろ?」
ネル「そうよ。
何も言い返せないわ。
本当に凄い能力だわね」
ラドラ「でも、これは。
来年、アネットちゃんの事を伏せて教科書に載ることじゃないか。
彼女の事は避けるのに、何を持って臆するんだい?」
ネル「教科書に載ることまで…
まだ、学園出身組と、先生達しか知らない筈……
臆する、なんて………
そうね、臆しているかも、だわ」
ラドラ「分かりきることなのに、臆することなんてないじゃないか」
ネル「………それはそれ、これはこれよ」
ラドラ「ああ、なるほど。
そうか、キミ達は、『宴を殲滅させた【英雄】の死に方』に臆してるんだね」
ネル「………」
ラドラ「黙るってことは当たりかな。
実際そうだろう?
彼の死に方は、メジスくんを庇っての死に方だった。
その原因を作ったのが、正に彼女の【闇】。
それが、アネットちゃんに知らせたくない一番の理由じゃないか」
ネル「そうね、知られたくは無いわ。
私や学園は、彼を【英雄】だとも呼ばせたくはなかった」
ラドラ「残念ながら、彼は【英雄】だったよ。
学園都市としても、華舞台としても。
ある意味、どちらをも…
全てを救った【英雄】だ」
ネル「………」
ラドラ「違うかい?」
ネル「そんなことまでわかるのね…
怖い能力だわ。
本当に。
末恐ろしい」
ラドラ「そうだろう?
僕だって怖いさ。
なんだって分かってしまうんだもの。
だからこそ、教えてあげることしか出来ないんだ。
それは、優しさで。
ただの、偽善で、僕なりの慈善活動だよ」
ネル「そうね。だから、話したことに怒ってるのよ」
ラドラ「そうだね。知ってる。
それに、あくまで僕の能力は、
『世界視点での理解』なんか、じゃない。
『自分視点での理解と、個人的推測』なんだよ」
ネル「『自分視点での理解と、個人的推測』…?」
ラドラ「そう。
僕の能力【全知全能】は、『理解することが出来る』という能力なんだ。
そこから見える未来は…
所詮、僕の個人的な憶測に過ぎない」
ネル「だから?何が言いたいの?」
ラドラ「『アネットちゃんに伝えることはきっとネルちゃんには怒られるだろうけど、
目の前の【知りたい】に応えても問題なさそうだから伝えよう』と思って、
今回の件は伝えたってこと」
ネル「はあぁぁぁぁぁ(大きなため息)。
そういう所よ、ラドラくん。
本当に、そういう所」
ラドラ「はは、そうは言われても。
現になんにも問題がなかったし良いじゃないか。
それに、生憎だけど、『そういう所』を求めてくれた人しか居なくてね。
君達、学園側から遣わされたムートンも含めて、さ」
ネル「………っ」
ラドラ「あはは。
ムートンを遣わせたのは、君じゃないことくらいわかってるさ。
さすがに、ちょっと、意地悪だったかな?」
ネル「そうね、意地悪だわ。
意地が悪いわよ、まったく。
確かに、ムートンを遣わせて、
ラドラくんを利用してしまった形にはなってしまったけれど…」
ラドラ「ふは、ごめんね。
そんなに気に病まないで。
大丈夫、気にしてないから。
生憎友達が居ないから、ひねくれてるんだ」
ネル「むー。
まったく、いつも自分を卑下するようにそんなこと言って。
私はラドラ君のこと、友達だと思ってるのに」
ラドラ「おっと」
ネル「なによ」
ラドラ「………っ」(驚いたのか、視線を逸らす)
ネル「………
あのね、ラドラくん。
私は、あなたと違って、言われないで分かるような能力は持ってないの。
言ってくれなきゃ分からないわよ」
ラドラ「………
あー…
そう来るとは思わなかった。
が正解かも。
予想外だった」
ネル「………よそう、がい」
ラドラ「なんだい、そんな反応をして」
ネル「へー
………
ふふ、ごめんなさい。
おかしくって。
だってあなたがそんなに豆鉄砲食らったような顔になるなんて、思ってなかったの」
ラドラ「誰のせいだよ」
ネル「私のせいなんでしょ?」
ラドラ「………
そうだよ。
さすがに、人の感情は分からないんだ」
ネル「ふふ、ローツちゃんのことはわかるのに?」
ラドラ「うるさい。良いだろ、別に」
ネル「そうね。
偶にはいいんじゃないかしら?
分からないことがあったって」
ラドラ「……
はは、そうだね」(微笑んで)
………
ラドラ︰少し、時を遡る。
これは、僕がネルちゃんに少し怒られる前のお話。
ネル「今日は良い天気だね、ラドラくん。
最近、雨が続いてて心配してたけど、晴れてよかったよ」
ラドラ「それは良かった。暫く、良い天気が続くみたいだよ。
洗濯物を干すなら丁度良いんじゃないかな」
ネル「たしかに!雨続きだと洗濯物が溜まってて困ってたの!
しばらく晴れるのなら嬉しいわね」
ラドラ「そうだね。干した方が匂いも良いしね」
ネル「そうなの。
それに、ずっと使いたかった柔軟剤使えるの楽しみなんだ〜」
ラドラ「いいね、おすすめの香りは?」
ネル「シャボン!石鹸の香りがオススメかも!
優しい甘い匂いがして好きなんだよね」
ラドラ「優しい香りなんだね。僕はそうだな…シトラスの香りが好きかも」
ネル「良いわね。あら、あそこに居るのは…」
アネット「あ!ネルねぇ!ねえ!聞いてよ〜メジスが〜」
ネル「なにかしら、そんなに不満気にどうしたの〜
何かあった?」
アネット「あのね!あのね!メジスとエルドったら、私に隠し事するの!
酷いと思わない!?」
ネル「そうなの?
でも、メジスくんにもエルドくんにも何か考えがあってじゃないかしら?」
アネット「でも!でも!」
ネル「そうじゃないと、隠し事なんて、アネットにしないと思うの。
違う?」
アネット「違わない、かも…って、あれ、ネルねぇ、こっちの人は?」
ネル「あぁ、私の隣にいる子はラドラくんっていうの。
よろしくしてあげてね」
ラドラ「アネット…あぁ、【宴の子】か」
ネル「っ、ちょっと!ラドラくん!」
アネット「………【宴の子】。
もしかして!
あ、あの!ラドラさん!であってます?」
ラドラ「うん、合ってるよ。どうしたの?アネットちゃん」
アネット「あの!」
ラドラ「あの時の事聞きたいのかい?」
ネル「ラドラくん、駄目よ」
アネット「ネルねぇ!なんで!」
ネル「メジスくんとエルドくんが駄目って言ったんでしょう?
聞く必要は無いわ。
ね、今日はもう帰りましょう?疲れているのよ、きっと」
アネット「やだよ!なんでアタシだけ知れないの!
どうしてみんなは知ってるのに!
みんなの、意地悪!!!!」
ネル「知っちゃいけない理由があるからよ。
駄目なの。意地悪じゃないわ」
アネット「いやだ!
何も知らないくらいだったら舌噛んででも死んでやる!」
ネル「バカ!!!
そんなことを口に出して言うものじゃないわよ」
ラドラ「………」
………
アネット「なーんてことがあった末、教えてもらったんだよね〜」
レライ「知りたいことが知れてよかったね」
アネット「でもさぁ、なんか教科書っぽいんだよね。 教えてもらった内容。
二人が隠すくらいだから、もっと大きいものがあるかと思ったのに。
ちょっと不満!」
レライ「そういうもんだと思うよ、人から聞く話って」
アネット「でもーーーー!知りたいものは知りたいんだもんーーー!」
レライ「………相変わらずね、アネットは」
アネット「えー、そうかな?
でもレライだってさ、隠し事されたりしたら、嫌じゃないの?」
レライ「いや、あたしは別に…」
アネット「えーーー!そんなーーー!
レライなら分かってくれると思ったのにーーー!」
レライ「理解はできるけど、共感は出来ない、かな」
アネット「あーあ!みんな教えてくれないなんて!
(間)
みんなアタシの事が嫌いなんだ…
だから意地悪するんだ」
レライ「………」
アネット「レライ…?」
レライ「…なら」
アネット「どうしたの?おこってる?」
レライ「別に」
アネット「怒ってるじゃん。顔ムスッてしてる。
どうして?」
レライ「別に。怒ってへん。
ムスッともしてない。
いつもこんな顔やから気にせんといて」
アネット「どうして、そんなこと言うの?
絶対怒ってるじゃん。
何に怒ったの?
どうして、怒ってる理由を教えてくれないの?」
レライ「だから、何も怒ってないよ。
ただ、アンタが、アネットが何も分かってへんなって思っただけ」
アネット「何も分かってない………?
それってどういうこと?」
レライ「アンタの口から愛されてへん言うのは、贅沢やわ」
アネット「贅沢だなんてそんな…アタシは…」
レライ「(遮るように)そんなに知りたいなら。
そんなに愛されてへん思うなら。
そんなら、『全部思い出してしまえばいいのに』」
アネット「ーっ」
レライ「はっ、………ごめんなさい。
能力が…迂闊だったわ」
アネット「あ、あ…」
レライ「アネット…?
そんなに身体震わせて、どうしたの。
大丈夫?ネルさん呼ぼか?」
アネット「ゃ、あ、ああ、あ゙ああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
アネット︰思いだした。
全て全て、何もかも。
ここに来た理由も、ここに【来ないといけなかった】理由も。
私の生きてた世界が、良い事だけじゃないことを。
そして何より、 良い記憶の方が少ないことを。
(間)
記憶の扉が、完全に開いた。
レライ︰アネットがその場へと崩れ落ちる。
頭を抑え、うずくまった。
アネット「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、お願い来ないで!アタシに近づかないで!
お願い!やめて!やめて!」
レライ︰ 本当に本当に迂闊だった。
まさか、こんなことになる、なんて。
アネット「どうして!どうして思い出させたの!
どうして!こんな記憶まで…!」
レライ︰ああ、これが、終焉の始まり。
世界の終わりの一つ。
なのかもしれない。
アネット︰キーンコーンカーンコーン
レライ「授業始まりの鐘が…」
アネット︰今日も始まりの鐘の音が、世界に鳴り響く。
To Be Continued
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