第九章 きっとそれは青い夢

コハクの彼方


第九章 きっとそれは青い夢


メジス♂︰

高1

アネットを守りたい

西寄りの訛り


パーズ ♂︰

高3

全て(カイ)を守りたい


ラドラ♂︰

高3

世界の全てを知っていた


アネット♀︰

高2

好奇心は猫を殺す

知識の為なら死んでも構わない



本編↓


ラドラ︰ここは、とある学園である。

ここは、皆が望む楽園である。

ここは、人々の理想郷である。



メジス︰あの日、見た現実。

あの時の【あの人】の重み。

体温。

生臭い血の匂いも。

そして、夜空に光る星のまたたきも。

今でも鮮明に覚えている。

覚えていたくもないのに。


ああ、これが夢ならどれだけ幸せか。


パーズ︰大丈夫。

全部全部、夢物語…


なぁんて、そんなことあってたまるか。

そんな現実なんてクソ喰らえだ。

俺たちは、何よりも前に進まないと行けないんだぜ?


そうだろ?カイ。


(間)


あ、もう居ないんだった。



俺たちは、未だにあの青い空に囚われている。


アネット︰知りたくても知りたくても、知れないというのは、好奇心ではなく。

ただ、己が孤独だから。


知れないことは【孤独】だ。

  亡くしたモノを見つけたい。

それだけなんだ。

知らずにいるのなら。

知れずにいるのなら、死んだ方がマシだ。


猫は沢山の心臓があるらしい。

けれども、猫の心臓を全て失ったって構わない。


パーズ︰今日も始まりの鐘の音が、世界に鳴り響く。


………


メジス︰ここは、夢現(むげん)宅。

そして、俺の自室。

暗い闇夜の中。

部屋の電気もつけることなく、俺はぼんやりと窓の外を見つめていた。

泣いた涙は枯れ果てていて、

天気が代わりに泣いているかのように、雨が天から降り注いでいる。


メジス「何があっても、俺は…アネットを守らないとアカンのに…。

こんな場所で立ち止まれへんのに。

こんな弱いままじゃアカンのよ俺は…」


メジス︰コンコン、と扉を叩く音が聞こえる。

エルドか…いや、ちゃうな。

エルドやったら、ノックと一緒に一声かけてくれるはず。

それに…今の弱ってる状態の俺に、気遣いしいのエルドが声をかける筈がない。

一体、誰やろ…。


パーズ「よぉ、入るぜ。

お、割かし良い部屋に住んでんじゃん」


メジス「…!?

ぇ…」


パーズ「久しぶりだな、メジス。

ちょっと立て込んでてさ、来るの遅くなっちまった。

よぉ、元気してるぅ?」


メジス「え、ぁ…パ、パーズ兄さん…!?」


パーズ「よぉ、メジス!久しぶりぃ!

そんな泣いちゃって。

目そんなパンパンに腫らしてさ、せっかくのイケメンな顔アンタの顔が台無しだぜ?


さーーーて!

そんなメジスに!俺の渾身のネタでも…」


メジス「(即座に)いらへん。パーズ兄さんのネタ、おもろないもん」


パーズ「うっ!辛口ぃ!!!

今回な自信があったのにぃ!!!

ウッウッ、お兄ちゃん泣いちゃう!!!

そんな子に育てた覚えはありません!!!」


メジス「…ふふ、相変わらず変わらへんなぁ。

にしても、こんな時カイ兄さんやったら、パーズ兄さんの事どついてそうや」


パーズ「…そうね」


メジス「………」


パーズ「………」


メジス「…久しぶり、パーズ兄さん。

会いたかった」


パーズ「おう、久しぶり。

俺も、会いたかったぜ」


メジス「……にしてもどしたん?

こんな時間に来て…というか、こんなタイミングで…というか、むしろ、なんで今まで俺たちの前に顔出さんかったん?」


パーズ「まあまあまあ、待て待て待て。

聞きたいこと、山ほどあるんだろ?

ゆっくり話そうぜ。

大丈夫、もう居なくならないからさ。

俺も…そして、カイも」


メジス「カイ兄さんも…でも、でもあの日、確かに俺の手の中でカイ兄さんは…」


パーズ「………

そうだな。

すまなかった、助けてやれなくて」


メジス「カイ兄さんが居らんなったのは、パーズ兄さんのせいやないよ。

あの時誰も守れなかったから。

エルドだって怪我して…

俺が、弱かったせいや…」


パーズ「メジスは弱くねぇよ。

メジスとエルドが頑張ってくれたおかげで、被害が最小限になったんだ。

俺があの日、間に合えば良かっただけの話だ」


メジス「………アネットには会ったん?」


パーズ「会ったよ。

元気に…無邪気にすくすくと過ごしているようで良かった」


メジス「やからこそ、何も知らんで欲しい。

何も、気にしないで欲しい。

幸せに生きて欲しいんや」


パーズ「おう、俺もそう思う。

だから俺はあの日、能力を使ったんだ。

アネットが幸せになるために」


メジス「おん…」


パーズ「俺の【終演】は【音波】。

音の波動。

波で相手の数分の記憶を消し去る事が出来るんだよ。


だから、あの日。

俺はアネットの記憶を消し去ったんだ。

いや、消し去ることしか出来なかった。

それしか、アネットを止める方法がなかったから…


本当は…」


メジス「本当は…?」


パーズ「俺の【終演】を使いたくなかったんだけどな。ははっ」


メジス「俺は…

俺は【終演】を使ってくれて良かった、って思っとる」


パーズ「そうか?」


メジス「その方が、アネットが幸せやから。

【幸せそう】やから」


パーズ「そっかぁ。

それなら、俺の行いは間違いじゃないってことか…」


メジス「大丈夫、間違いやないよ。

まちがってたら、今頃俺たちが殴っとる」


パーズ「ふは、なら良かった。

殴られちゃうのはやだなぁ。

まさか、あそこまで忘れてるとは思わなかったけどな」


メジス「大丈夫。

冷たくあしらうことはあっても、流石に暴力を振るうことはせんよ。

んー…パーズ兄さんの能力だけやなくて、アネットの能力の後遺症も、あるんやないかな」


メジス︰パーズ兄さんが窓の外を眺める。

空は満天の星空。

あの日見た星空の瞬きを思い出して、ついあの夜と重ねてしまう。


パーズ「なんだぁ、メジスぅ。

今にも泣きそうなくらいに、そんな陰気(いんき)臭い顔して。


アネットから聞いたよ。

アネットと喧嘩したんだろ?」


メジス「い、いや…別に喧嘩とかじゃ…」


パーズ「ふは、喧嘩くらい良いじゃないか」


メジス「え」


パーズ「喧嘩出来ることはいい事だって俺は思うぜ。

  だって、それだけ相手を愛して、信頼している証だろ?」


メジス「………

それは…そう、かもやけど」


パーズ「大丈夫。

アネットだってメジスのことが大好きなんだ。

心の底からメジスのことを悪い、嫌い、なんて思っちゃいないさ」


メジス「…おん、せやな」


パーズ「ほら、ゆっくりおやすみ。

ふっふっふっ!今日はパーズお兄ちゃんが特別に膝枕をしてあげよう!」


メジス「………なんかそれ、恥ずかしいんやけど」


パーズ「大丈夫、大丈夫。起きたらきっとスッキリしてるさ」


メジス「おん…わかった。今日はもう寝る」


パーズ「おやすみ、メジス。おやすみ、世界」


メジス「おやすみ、パーズ兄さん…」


パーズ︰ゆっくりとメジスが眠りに落ちる。


パーズ「会えて良かったよ、メジス。


………


『これは、全ての音、全ての波、全ての揺れ』


(間)


これでよし。

今日のことはもう忘れて、ゆっくりおやすみ、メジス。

アネットもエルドもまた。

どこかで、ね」



………


アネット︰メジスとの喧嘩から数日。

あの日から、私は弟達と言葉を交わすことが少なくなった。

何回言っても、お願いしても教えてくれないんだもん。


でも、あの日のことを知ってそうな人に出逢ったんだ。

だから、その人に今日はお話を聞きに行くの。

 


ラドラ「久しぶり。こんにちは、お嬢さん」


アネット「こんにちは、ラドラさん。

今日は時間を取らせてしまってごめんなさい。

空けてくれてありがとう」


ラドラ「いや、大丈夫だよ。

今日は、呼んでくれてありがとう。

天気が良くて良かった。

こんなにも天気が良かったら、ピクニック日和だね」


アネット「そう思ってお菓子を持ってきたの!

お饅頭です。

良かったら、どうぞ。

地元のお菓子なんだよね。


美味しくて、好きなんだ。

砂糖で煮詰めた甘いさつまいもが中に入ってるの」


ラドラ「砂糖で煮詰めたさつまいも…?

へぇ、さつまいもってお菓子にもなるんだね。

一つもらおうかな。

甘いさつまいもなんて、初めて食べるよ。」


アネット「ふふ、良かった。

早速本題で申し訳ないんだけど、この前の件…」


ラドラ「嗚呼、あの日の話しか」


アネット「この間はネル姉ぇに止められちゃったから…」


ラドラ「…」


アネット「…駄目ですか?」


ラドラ「好奇心は猫を殺すって言葉知ってる?」


アネット「うん、しってる」


ラドラ「例え死んだとしても知りたい?」


アネット「猫の心臓は一つじゃないから。

だから、大丈夫。

死ぬことなんて、怖くないわ」


ラドラ「………」


アネット「………」(真剣な眼差し)


ラドラ「…ふぅ、そっか。

その覚悟があるならいいよ」


アネット「わくわく、お願いします!」


ラドラ「困ったお嬢さんだ。

仕方ない。話すよ。


あーあ、後でネルちゃんに怒られる。

言い訳でも考えて、謝らなきゃな…」


アネット「ありがとう!たのしみ!」


メジス︰晴れ渡る空の下。

二人を見守る影一人。


パーズ「あ、あいつ…!また余計なことを…!」


………


メジス︰そして、夕暮れ時。

空にかかる青が、紅が色づく頃。


アネット「今日は!ありがとうございました!

は〜知れてスッキリした!」


ラドラ「ハハ。そんな感想が返ってくるなんて、思いもよらなかったよ」


アネット「知りたいことを知れたんです!

嬉しい限りですよ!

ありがとうございました!」


ラドラ「それなら良かった。

ねぇ、アネットちゃん」


アネット「なんですか?ラドラさん」


ラドラ「これから先、キミは……いや、やめとこう」


アネット「えーーー!なんでですかーーー?」


ラドラ「先が知らないことの方が、面白い事もあるよ」


アネット「た、たしかに?」


ラドラ「じゃ、僕はこれで」


アネット「今日は!

たくさん教えてくれて、ありがとうございました!」


ラドラ「どういたしまして。

今日は、帰ってゆっくり休むんだよ」


(間)


ラドラ「…無知は罪とは言うけれど。

本当に無知なのは、僕の方かもね…


さて、出てきなよ。ずっと居るんでしょ」


パーズ「さっすが〜【完全な知恵】。ラドラ。

ご名答〜

え〜いつからバレてたのー?

俺こういうのバレないと思ってたのにぃ。


で、どうだった〜?」


ラドラ「何が?」


パーズ「だからぁ、偽善活動だよ。

わかんないの?」


ラドラ「………わかってるさ」


パーズ「うんうん、分かってるよねぇ。

だってキミはそういう男だもんねぇ。

で、今回も偽善活動お疲れ様」


ラドラ「…何がお疲れ様だ。

キミがここに来たってことは、ボクの記憶でも消しに来たんだろ」


パーズ「そうだよぉ。

だってぇ、こっちが何年もかけて一生懸命守ってきたものがぁ。

キミのたった一言でおじゃん。

水の泡になっちゃったんだもん

かなしいよねぇ」


ラドラ「あっそ。

微塵もそんなこと思ってない癖に。

よく、そんな言葉が出るよ」


パーズ「キミの前じゃ嘘つけないことくらい分かってるよぉ。

分かってて勘違いさせてるんだよぉ。

でも、わかってることも理解(わか)ってるんだよね?(笑い)」


ラドラ「だから?僕がそれをわかってる上でやってるんだよね」


パーズ「でもさぁ、経験と知識って違うじゃない?

証言になり得る経験と、ただあるだけの知識。

どっちをみんなが信じるかなぁ?

キミの【終演】は感情を伴(ともな)わない。

だから、その時の知識があっても、どう思ったかなんて誰も知り得ないよね。

  キミ本人も、ね」


ラドラ「そっか、そうだね。

理解(わから)ないさ。でも、分かるんだよ。」


パーズ「でも、今回は、分からないからこんなこと、したんでしょ?


これは、身内の問題だ。

部外者が口出していいものじゃない。」


ラドラ「その身内が臆病者しかいなかったから、こんなことになったんでしょ」


パーズ「物事には順序ってあるの知らないの〜?」


ラドラ「生憎その手順を、教えてくれるような友達が僕には居なかったからね」


パーズ「そっかそっか〜ボッチくんには分からなかったか〜」


ラドラ「分かりたくもないさ」


パーズ「なら、口を挟まないでよね。俺は暇じゃないんだ。


『これは、全ての音、全ての波、全ての揺れ』」


ラドラ「グッ、ゥ」


パーズ「ついでに、暫く眠ってもらうよ?

おやすみ」


(間)


パーズ「ふぅ…【終演】を強めにかけた。

暫くは大丈夫だろう。


は〜〜〜全く…余計なことしやがって…

こっちは時間が無いのに。


…カイ。お前が守ろうとしたものは、絶対に俺がまもってやるからな」


メジス︰見上げた空は、しっかりと紅く色づいていた。

もうすぐ、夜が来る。

星が、降る。


パーズ「カイ、やっぱり俺は…俺たちは…

お前に…

いや、青い空に囚われているよ」


To be continued


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