第7話 原石は輝く
「私立聖ウルスラ高等女学校。元々は、島根のさる
――知らなかった。
そもそもお父様の勧めで半ば嫌々ながら入学した
「かつてあそこに建っていた屋敷は、それは大層なものだったようですね。島根から出てきて才覚豊かに商いを成功させていった……、とここまでは良いのですが、ねぇ」
「――手短に」
無惨に話を叩っ切る。
ヒノエの冷たい冷たい
「この
ミエコの脳裏を
「
「――
ああ――、ミエコは得心した。
「なるほどね。屋敷も会社も全て崩れ落ち、資産を失った素封家が売れるのは土地だけ。広大な屋敷跡、二束三文の地――、そういうこと?」
「そうです。しかも、まぁご丁寧に神様をお迎え出来るよう、池を造り蛙を放ち祠を建てた訳ですね」
「……
「
さも当たり前のように伊沢が胸元から扇子を取り出し、パチンと乾いた音を響かせた。
「打ち捨てられ、
「まぁ恨み辛みを持つのも神様ですからね。蛙の神様の悪意が転じて妖怪となり、
精気を吸う。
確かに「寄越せ」と言っていた。
「でも、どうして
「そりゃあ……、ねぇ」
「
滲み出る敵意にミエコは眉を顰めた。
「でも、願ってる本人達は一生懸命なのよ」
「――
情け容赦の欠片もない。
身を切る冷たい言葉が返ってきた。
「元いた神様も知らずに、どうせ現世利益に
「あ……、あなたねぇ……!」
語気を荒げかけた所で、伊沢が「まぁまぁ、落ち着いて」と軽やかに仲裁に入った。いつの間にか
「――さて、とりあえず怪異はそういう事情です。鏡はあくまで怪異の表象の一つに過ぎませんから、
慇懃、余計に弁を重ねる伊沢に辟易しながらも、ミエコは僅かに得心し、もう一つの謎に話を振った。
「じゃあ、……その、国を影ながら支える怪異対処機関たる貴方達が、なんで私達を助けたの?」
――磯子は宙に舞って落ちたはず。
どう救ったかはこの際置いておいても、救出は絶対偶然ではない。私を監視していなければ即応なんて出来ないはずだ。胸中に広がる警戒心が、僅かばかりの敵意となってミエコの視線に滲み出た。
伊沢は冷めきったコーヒーを音も立てずに啜ると、僅かに目を細めてミエコを睨んだ。
「
「……え?」
片目を
「貴女のその力。見えない怪異を目にして、掴めない怪異を掴んで、殴りつけた――
芝居がかった響きながらも念を押す。隣の少女――ヒノエが「強くない」と言っていた、この力。ミエコは不思議そうに自分の掌を見つめた。
「私達『羅刹』は異能を持つ者達の集まりです。
――
「ヒノエさんは
まぁ、監視を始めたのはつい最近の出来事ですがね、と補足気味に伊沢は頭を掻いた。
「ですからね――、今すぐに答えを出す必要なんてありませんが、……我々は貴女を迎える準備は出来ている、とだけ伝えておきましょう。もし今答えを出さなくても、いずれまた会うこととなるでしょう。力が
ミエコは呆然と二人の顔を見つめた。
――冗談じゃないの?
――でも、確かに見て、殴った。
――その力が求められている?
努めて冷静を保ちながらも、ミエコの心の奥底、誰も知らない乙女の衝動が密かに揺らぎつつあった。
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