第7話 キスの練習

 その後、俺はリーフェを探す為に外へ。

 そしてホームの裏手に広がる森の入り口でリーフェを見つけ、迷わず俺は彼女へ声を掛けた。


「ここにいたか、随分と探したぞ」


 だが、リーフェは何も答えなかった。

 俺は何も答えずにだんまりを決め込むそんな彼女のすぐ隣に腰を降ろした。

 するとその瞬間、彼女が俺から距離を取って地面に膝を抱えて座り直す。


「あー、俺はもしかして嫌われてる……のか?」

「ち、違う!」

「なら、なぜ俺から距離を取る?」

「……だって、気恥ずかしいじゃない」


 膝に顔を埋めながら消え入りそうな声で彼女が呟く。その言葉を聞き取れずに思わず聞き直すと、顔を上げたリーフェに「バカ」と怒られてしまった。


「まぁいい、それより家に帰ろう。皆、お前の帰りを待ってる」

「やだ、今は帰りたくない」

「そいつは困ったな……」


 帝都は常に観光客で溢れている。

 今から宿を手配するのは色々と厳しいだろう。

 もし宿が取れなかったら、最悪の場合は野宿を覚悟するしかない。

 それだけは何としても避けたい所だ。


「いっその事、ここで本当にキスしてみるか?」


 リーフェがホームに帰りたくない理由は分かってる。

 キスに対する抵抗感と、セリナやアリシアにマウントを取られた事によるバツの悪さだ。

 ならば、どうすればそのバツの悪さが払拭されるか。

 簡単だ、キスに慣れてしまえば良い。


「はぁ!? いきなり何を言ってるの!?」


 とは言え、相手は『キス』と言う単語だけで過剰に反応してしまう程に初々しい《剣姫》リーフェ。

 一朝一夕には行かない相手だ。


「安心してくれ、リーフェの想像してるようなキスじゃない。まずは俺が実践する、それを見ててくれ」


 そう言うと俺は隣に座る彼女の手を取り、その甲に自分の唇を優しく押し当てた。


「……何やってるの?」

「何って、キスをしただけだが?」

「今のが、キス……?」

「あぁ、別に唇を重ね合わせるだけがキスじゃない。そっちの方がお好みなら俺も努力するが、リーフェはそっちの方がご希望か?」

「ぜ、絶対に今の方が良いッ!」


 彼女が頬を軽く膨らませて怒ったような、拗ねたような表情で俺の目を見つめる。

 俺は静かに彼女の手を離し、代わりに手の甲を見せるように自分の手を彼女の前へと差し出して見た。

 すると彼女の視線が俺の手へと注がれる。



「えっと、これに私の唇を触れさせれば良いんだよね……?」


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