第2話

「勇者よ。たしかマルコという名であったかな? どうした?怖気づいたのか?」


 気圧されている勇者を嘲笑あざわらうかのように言う魔王に、一歩前に出てキッと視線を向けた勇者は気迫を籠めて言う。


「その通りだ魔王! 俺の名はマルコ! お前を倒し、世界に平和を取り戻してみせる!」


 そう言った後、そういえばと勇者は思った。魔王、魔王と言われているが魔王の名前を聞いたことがなかった。


「魔王よ! 名を名乗れ!」


「えっ! な、なまえ? え、えっと~…… ま、魔王…… そう!ま、魔王プリティマーオだっ!!」


「ま、魔王、プリティマーオ!!」


 なんと恐ろしい響きの名前だろうと、勇者は冷や汗を流す。


「ふ、ふふふっ、互いに名を名乗ったところで始めようではないか。 だが、ここではな。場所を変えようではないか、勇者よ」


「なに?!」


 勇者は思った。戦う場所としてこの玉座の間は広さは申し分ない。なぜ場所を変えようと?

 と、そこでハッとした。自分は今、魔物たちに囲まれていると。


 ここまでずっと危害を加えてこず、むしろちょっとその存在に癒されていた魔物たちであるが魔王の手下である。ヤツの命令一つで凶悪なその牙を向けるかもしれない。


 なるほど。魔王とはなかなかに剛毅で誇り高い性格のようだと勇者は少し好感を持った。それならば……


「いいだろう! こちらとしても望むところだ!」


 勇者の答えに魔王は満足そうに頷くと「よろしい、ついて来るがよい」と玉座の更に奥にある扉に向かって歩く。


 勇者は魔王の後をついて行く。魔王は一度振り返り、確かに勇者がいることを確認すると「行くぞ」と言いニヤっと笑って光る扉に手を掛けた。


 ギギッ……


 開かれた扉の先から眩い光が漏れて玉座の間全体を包む。あまりの眩しさに目がくらんだ勇者は目を瞑る。そして光がおさまったあとに目を開けると勇者は驚きで言葉を失った。


 勇者は知らぬことながら、そこは一般的なマンションの一室。テレビと炬燵こたつに座椅子が二つ。


「ささ、勇者よ。 そこに座るがよい」


 魔王はキラキラした笑顔で楽しそうに言う。ワクワクした様子を隠しもせずにテレビ台の引き出しからゲーム機のswitchを取り出すとテレビと接続し始める。


 リモコンを手に取りピッと画面を表示させ、先ほど勇者に座るよう勧めた座椅子の前にコントローラを一つ置いて言う。


「桃鉄99年だ! さぁ遊ぶ―― じゃない、勝負だ!勇者よ」


「な、なんだと??! も、ももてつきゅうじゅうきゅうねん??」


「うん! あ、初めてだよね? ちょっとルールを説明するね!」


 そう言うと魔王はセーブデータを一つ選択し読みだすと、サイコロを振って列車を動かし始める。


「こうやって、サイコロを振ってね。目的地まで早く到着したらお金がもらえて――」


「……つまりは、アレか? すごろく……?」


「そうそう! すごろくみたいな感じ! さぁ勇者よ、一緒に遊ぼう!」


 目をキラキラさせながら今度はハッキリと遊ぼうと言う魔王に、勇者は激高して剣を抜く。


「ふ、ふざけるなっ!! 俺はお前を討伐に来たのだぞ!」


 勇者は剣を鞘から抜き、切っ先を魔王に向ける。それと同時に、この狭い空間では剣を使った戦闘は不利だと思った。やはり場所を変えるべきではなかったか、と。


 剣を向けられても魔王は一向に動じる様子はない。「ふふふ……」と笑いながら勇者に近寄る。


「しかたがない…… 最終奥義ではあるが、使わねばならないか……」


「な、なんだと!?」


 最終奥義と聞いて警戒する勇者に足元までやって来た魔王は両手を胸の前で組んで顔を上げて勇者を見上げる。そのクリクリした大きな黒い瞳はキラキラと潤んでいた。


「寂しいの、お兄ちゃん。 ……遊んで」


 それを聞いた瞬間、勇者は全身から力が抜けて膝を着いた。ガシャンっと剣が床に落ちる。


「くっ…… な、なんという……」


 なんという強大な魔法だ!と、勇者は魔王の恐ろしさを感じた。魔力の波動を一切感じさせず、それでいて決して抗うことの出来ないほどの精神的な強制力……


「わ、分かった…… お前の望む方法で勝負してやる」


 脂汗をかきながら、勇者は桃鉄で勝負することを了承した。

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