第二章

海上異譚

《登場人物》

ダズト

闇の秘密結社「ダーク・ギルド」のエージェント。自己中心的な無頼漢。「神の欠片」に魅入られている。


リィナ

闇の秘密結社「ダーク・ギルド」のエージェント。決して善人ではないが、ノリの良い明るい女性。


ロキ

闇の秘密結社「ダーク・ギルド」の新人エージェント。常に紳士的で冷静な男。その槍捌きは神業である。




 心地良い潮風が吹き抜けていく。青い空に白い雲、そして何処までも続く水平線。その温暖な気候の爽やかな風を孕ませて、一隻の帆船が海上を航行していた。

 一行を乗せた帆船は東大陸東端の港から出ている、ホウオウ諸島への定期連絡船である。帆船のため基本的に速度は風任せになるが、予備動力として魔力エンジンも搭載されており、いざという時は乗組員の魔力で自在に航行する事も可能な最新型であった。


「風はそれなりにあるけど、波は割と穏やかね。この調子なら予定時間より早く着きそうじゃない♪……それにしてもいい天気ね~、仕事じゃなくてバカンスで来たかったわ」

船室から上がって来たリィナが、風に帽子を飛ばされぬように押さえながら、先に甲板に来ていたロキに話し掛けた。

「はい、ホウオウ諸島は観光地としても人気ですからね。こうも天候に恵まれると、そのような誘惑に駆られても致し方ないかと」

海を見ていたロキはリィナに気付くと柔らかな笑顔で応えた。

「……私もホウオウ諸島へ行くのは初めてですが、なる程……いつかは観光で来てみたいものですね」

微笑みながらもどこか遠い目をしながらロキは言った。ロキとしては一刻も早くアポロデアへ行きたかった筈だが、こうなってしまった以上は着実かつ迅速に目の前の任務をこなすつもりであろう。実にロキらしい気持ちの切り替えであった。

「あら、いいじゃない☆その時はご一緒してもいいのかしら?」

「勿論です。ダズトさんもお誘いして是非とも皆で行きましょう」

ロキは顎を摘まみながら頷いた。しかしふと「果たしてダズトさんが来るのか?」という疑問が頭をよぎる。それを察してリィナが口を開いた。

「ふふ、安心して。例えことわろうが嫌がろうが……引き摺ってでも連れて行くわ」

それを聞いて何となくそのシーンを想像したロキが小さく吹き出す。

「……所で、そのダズトは何処かしら?なんか暫く前から姿が見えないのよね。部屋にも居ないし」

おそらく甲板に上がって来たのもダズトを捜していたのであろう。リィナはキョロキョロと辺りを見回した。

「はて?私も見ておりませんね。それ程捜して居ないのであれば、入れ違いになってしまったのではないでしょうか?」

「あ~……そうかもしれないわ。もう一度部屋を訪ねてみようかしら」

リィナは立てた人差し指を唇の下に当てて、船内の出入り口に目を向ける。

「ふむ、では私も同行致しましょう。可能性は低いとは思いますが、ホウオウ諸島に在る『神の欠片』とダズトさんの欠片が共鳴する……という事も考えられますからね」

「そうよね、もしこんな海上でドカンとされたら、それこそたまったもんじゃないものね」

ロキの一抹の不安にリィナも同調した。


「やっぱり居ないわ、何処へ行っちゃったのかしら」

ノックをして返事が無いのを確認するとリィナはダズトの部屋へ入っていったが、やがて戻って来るとロキにそう告げた。

「比較的大きい船とはいえ、我々乗客が入れる所は限られていますから後は……」

「何の用だテメェら」

二人が声のした方を振り向くと何処から現れたのか、何時になく渋い顔をしたダズトが廊下に立っていた。

 姿を確認しただけで安堵した様子のロキとは違い、すかさずリィナはダズトに駆け寄る。

「用っていうか、姿が見えないから捜してたんじゃない。迷子かと思って心配したんだから」

「ガキじゃあるまいし、大きなお世話だ」

ダズトはリィナを一瞥してすれ違おうとしたが、その前に先回りしたリィナが顔を覗き込む。

「……で、何処に行ってたのよ?」

「……お前が知るべき事じゃねぇよ」

にべもない言葉が返ってきたが、ここでリィナはダズトの顔が普段より青白い事に気が付いた。

「……ちょっとダズト、なんか顔色良くないけど大丈夫?もしかして欠片の影響じゃなくて?」

「何でもねぇ」

ダズトの額に手を当てようとしたリィナを素早く避けると、ダズトはそのまま足早に部屋へと向かって行く。

「もう、待ちなさいよ……」

ダズトの背中にリィナが言葉を投げようとすると、何かに気付いたのかロキが慌てて両手をリィナに向けて制止してきた。

「どうしたのよロキ君」

リィナが何事か尋ねるが、ロキは非常に言い難くそうに目で訴え掛けるのみ。

 頭に疑問符を掲げて数秒、ハッとしたリィナがにんまりと邪悪な笑みを浮かべた。それを見てロキは恐るべき予感に打ち震える。


「リィナさん、不味いですよ!」 

 部屋に入っていったダズトを追ってリィナが扉ををノックした。当然の如く返事は無い。あわあわしたロキが必死で止めようとするのを無視して、リィナは扉を開けて中に足を踏み入れた。ベッドに横になっていたダズトが舌打ちすると、上半身だけを起こしてリィナを睨み付ける。しかし、心做こころなしか普段の迫力に欠けて見えるのは、やはり気のせいでは無いようであった。

「失礼するわよ。体調が悪そうに見えたけど……私の勘違いだったみたいね、ごめんなさい☆」

「ああ?」

明らかにだるそうに見えるダズトに、どういう訳かリィナは自身の誤解だったと告げた。対してダズトは青白い顔のまましかめっ面をしてリィナに凄むが、これまた何時いつもの気迫は感じられない。

「また『神の欠片』で調子が悪くなったんじゃないかと思ったけど、そうでも無さそうだし……。ましてやダズトが船酔いする訳ないものね~まさか船酔いなんて、そんな事有り得ないわ」

リィナが頬に右手を添えながら、白々しらじらしく大袈裟に首を傾げた。

「当たり前だ!このオレが、船酔いなんかに!なる……!なるわけ……ねぇだろ!」

歯切れ悪く言葉を途中で詰まらせながらダズトが叫ぶ。しかしどう見ても顔色は悪く額には冷や汗をかいているし、そして今も辛そうに浅い呼吸を小刻みに繰り返している。これは典型的な乗り物酔いの症状であった。

「うんうん、そうよね☆分かってるわよ。ダズトは船酔いなんて絶対にしないわ、絶対に♪」

リィナは悪戯めいた笑顔を満面に広げて頷く。

「それはそうと、今から船内レストランでお食事しようと思うんだけど、ダズトも勿論一緒に行くわよね?」

「……オレは今、腹減ってねぇんだよ。テメェらだけで勝手に行け」

具合の悪さを気取られまいとしているのか、歯を食いしばりながらダズトは語気を強めた。

「え~?行かないの?ここのレストラン珍しいお酒が沢山置いてあるんですって、一杯奢るわよ♪」

リィナに苛ついて頭が痛いのか、それとも船酔いの頭痛なのか、もしくはその両方なのか、ダズトは自分の頭を片手で押さえて「うぐぐ」と小さく唸ると、もう片方の手元にあった枕をリィナに投げつける。

「うるせぇ!とっとと出てけ!」

「きゃ~♪こわ~い☆」

飛んできた枕をバリアを張って防いだリィナは、ことさら楽しそうな悲鳴を上げた。

「リ、リィナさん!その辺にしておきましょう!ダズトさん失礼しました!ごゆっくり!」

もはや形振なりふり構っていられないと判断したロキが焦りながらリィナの肩を掴むと、半ば強引に部屋の外に連れ出していく。

 その騒々しいやり取りとは裏腹に部屋の扉がパタンと静かに閉まった。


「少しばかりやり過ぎでは?」

廊下ではここまでリィナを引っ張ってきたロキが、やや困った顔をしつつやんわりと諫めていた。

「あらあら、ごめんなさいねロキ君。……でも……ダズトが船酔い?え、待って超ウケるんだけど!お酒には酔わないけど船には酔うのね☆あははは!こんな面白い事なかなか無いわよ♪」

余程ツボに嵌まったのだろう、リィナはフォローに入ってくれたロキに謝りつつも、目尻から涙が滲むまでずっとお腹を押さえて爆笑し続けている。

 その様子を見たロキは「これはダメだ」と言わんばかりに、ピシャリと自分の額に手を当てると目を伏せるのであった。



 およそ二日間の航海を経て、一行の眼前に幾つかの島影が姿を現した。

「いよいよ到着ね~!……あの島に行くのかしら?」

甲板から身を乗り出し、久し振りに見る陸地にリィナは心を躍らせながら、先に見える一際大きい島に視線を送る。

「ホウオウ諸島は大きな七つの島と、三十近くの小さな島々から成っているそうです。あれは大きな七つの島の一つハジメ島ですね。この船は最も大きなヨンノ島の港に寄港するそうですよ」

ロキが船の客室にあったパンフレットを見ながらリィナの疑問に答えてくれた。

 それから暫くのあいだリィナは船の上から島の風景を眺めていたが、最初の島を通り過ぎて次に大きな島が見えた時、ある違和感に不穏な雰囲気を感じ取る。

「ねぇ……ちょっと、あれ見て」

「むっ……?」

リィナに反応したロキも、同じ方向に視線を向けた。

「何だろう、あの島の周りの海だけ……何か凄く汚いわね」

「あれは……フタ島ですね。パンフレットに拠るとあの島は最近、魔力鉱石が見つかってバブルに沸いているとか。恐らく魔力工業で使用された汚染水が、そのまま海に垂れ流しにされているのでしょう」

「ふぅん……業の深い話ね~」

ロキの説明にリィナはその表情を曇らせると、眼下の鈍く光る淀んだ海面を見つめる。

「この世で海を穢す事が出来るのは人間だけ……海というのは人の精神を映す、謂わば心の鏡なのかも知れませんね」

「……ふん、海が汚れていようがいまいが、人間なんぞ救い難いのには変わりねぇがな」

いつの間に甲板に上がって来ていたのであろうか、リィナ達の後ろに立ったダズトがロキに応えた。

 大分揺れにも慣れたらしく、しっかりとした足取りではあるが、顔色はまだ幾分か戻る余地がある様子であった。

「あらダズト、ご機嫌いかが?」

「あ?……何の事だ」

現れたダズトに手を振ってリィナは体調の可否を尋ねたが、当のダズトはあくまでもシラを切り通すつもりであろう。その想定した通りの返事にリィナは思わず微笑する。

「うふふ……ま、いいわ☆」

「チッ!」

まだ本調子では無い事もあってか、ダズトは何も言わず不服そうに舌打ちするのみ。

 そうこうしている間に船は順調に島々を通り過ぎていき、遂にホウオウ諸島最大のヨンノ島その港町オオトリ港に辿り着いたのだった。


 船を降りて港に立った一行はこれからの動向を決めようと相談をするべく、早速手近にあった食堂へと身を寄せる事にした。

「私は何にしようかしら……やっぱり定番の海鮮パスタかしらね、飲み物はトロピカルジュースがいいわ☆皆は?」

そこにはメニュー表と睨めっこしながら真剣に料理を選んでいるリィナの姿が、そしてそれはロキとダズトも同様であった。

「では私は大エビのグラタンと食後に紅茶を」

「オレはこの焼酎とかいう蒸留酒とカジキの照り焼きだ」

実際この三人、旅の中で食にはかなりこだわりを持っているのが分かる。殺伐とした任務の途中でも、この一行がなんだかんだ和気藹々あいあいとした雰囲気なのはそういった理由もあるのかもしれない。

「はぁ~青い空と海に、白い雲と砂浜……その上こんな美味しい海鮮料理に舌鼓を打てるなんて。ホント仕事じゃなくプライベートで来たかったわ」

食後、リィナは口では不満を述べながら、顔と腹は満足そうにトロピカルジュースをストローで啜っていた。

「ですね、大エビのグラタンも身がプリプリで大変美味でしたよ。やはり他とは素材が違いますね」

「ふん、肉が無いのは気に入らねぇが……焼酎とかいう酒は悪くねぇな、魚とも良く合うぜ」

ロキは上品に紅茶を口に運び、ダズトも船酔いから完全に復活して久々に酒を呑んで悦に入っている。

 しっかりとご当地の海の幸を堪能し満喫する三人であったが、勿論任務を忘れている訳ではない。ここでロキがダーク・ギルドから送られてきた指令書に目を通しだした。

「さて、指令書に拠りますとホウオウ諸島で『神の欠片』は『紺碧こんぺきなみだ』と呼ばれており、信仰の対象とされているそうです。おそらく神殿かやしろのような所でまつられている可能性が高いですね」

「ふ~ん、じゃあ問題はその祀ってある場所が何処にあるかってことね。どうやって調べるの?」

ジュースを片手に、リィナは自分の手元にあるホウオウ諸島の地図を眺めた。

「こういうのは経験上、下手に考えるよりも素直に地元の人間に訊くと良い結果が出たりするものですよ」

そう言うとロキは近くに居た食堂の主人に声を掛けた。店主は始め一行を一般の観光客かと思っているようであったが「紺碧の泪」について尋ねると一気に顔色を変える。

「『紺碧の泪』だって?それならシチボシ島のお社に在ったんだが今は……ん?ひょっとしてあんた達ホワイト・ダガーの人達かい!?」

ダズトの鋭い眼光やロキの屈強な肉体に、只ならぬ雰囲気を感じ取った店主から意表を突く言葉が飛び出すと、一行は警戒感を露わにしてお互い目を合わせた。刹那、三者は胸にそれぞれの思いを巡らせる。

(ホワイト・ダガーも動いているのですか、いやはや厄介な事です)

(シャッツォ派のエージェントも出し抜かなきゃいけないのに、これは大変ね~)

(面倒臭ぇ……どいつもこいつも全員ぶっ殺してやる)

 誰からも返事が無いのを店主が不審に思って口を開いた。

「違うのかい?てっきり……」

「はーい♪そうでーす☆私達は政府から派遣されてきた治安維持機構特殊部隊、通称ホワイト・ダガーよ☆……なんで色々お話を聴かせて貰えないかしら~?」

一瞬の沈黙に店主が疑問に思ったのも束の間。ここぞとばかりにいけしゃあしゃあと、なりすましたリィナが店主を上目遣いで仰ぎ見る。

「お嬢さんも隊員さんかい?いや~若いね~!それにしても通報してからまだ三日しか経ってないってのに、こんなに早く来てくれるなんて流石天下の特殊部隊だな~」

「ふむ、状況を詳しく教えて頂いてもよろしいでしょうか」

息をするように自然と嘘を吐いては振る舞うリィナ、そしてロキの威厳ある態度も相まって、もはや店主はすっかり一行をホワイト・ダガーだと信じ込んでしまっていた。

「それが魔法無線でお伝えした通りですよ。アーデルハイドとかいう十四、五歳の小娘がお祀りしてあった『紺碧の泪』を盗み出すと『返して欲しければ、海を汚すな。フタ島の魔力鉱石の工場を停止しろ』などと脅迫してきましてね、挙げ句の果てに要求を突っぱねると、盗んだ『紺碧の泪』を抱えて海に身を投げやがったんですわ」

「海に身を投げたって……その女の子死んじゃったの?」

いきなりの出オチ感にリィナは少し戸惑った。

「いやいや、生きてたんですよこれが。しかもそれから海の魔物を引き連れて、町を襲うようになったんでさぁ。今の所人死にこそ出てませんがね、幾つかの町は酷く破壊されちまって。ありゃあもう人間じゃないですよ」

店主のこの話は魔法使いとしてのリィナを驚かせると、とても信じられない思いで支配させる。

「えっ?魔物を引き連れてって……そんな事出来るのかしら。どんな魔力してるのよ」

(……欠片の力だろうな。魅入られたか……)

ダズトがロックで呑んでいる焼酎を口に持っていくと、グラスの氷がカランと音をたてて動いた。


 普通の動物に比べ、魔物と呼ばれる異形の生物はある程度の強力な魔力を帯びており、また能動的に魔法を使用できる事も多い。「魔物使い」と呼ばれる者も居るには居たが、その殆どが特殊な魔法を使って少数の低級な魔物を使役できる程度であった。大型の魔物を使役する、ましてや引き連れて町を襲い破壊するなど、どれほどの魔力が必要なのか想像もつかない。


「どうなんでしょうね~。ただ町を襲っているのは事実ですから、何とかしてもらわないと。我々島の住民は生活もままならないし、商売も上がったりなんですわ」

「では『紺碧の泪』は今もそのアーデルハイドというお嬢さんと共にある、という事でしょうか?」

「そうじゃないですかね。只あっしも見た訳じゃないんで」

店主の言葉にはロキも頷く他なかった。

 話していて少々感情がたかぶってきたのか、ここにきて店主が急にまくし立てるように語り出し始める。

「しかしアーデルハイドのガキめ、勝手な事ばかり言って困らせやがって。折角、島に観光以外の収入源が出来たっていうのに『海を汚すな』だって?こっちは稼ぐ為にそんなもん、気にしちゃあいらんねぇって言うんだよ」

 はっきりいってダズトは双方の主義や主張など全く興味は無かったが、それでも余りに一方的な店主の言い分を聞いて僅かに不快感を覚えた。

(くだらねぇ……テメェばかりが正しいって訳でも無いだろうに。……まぁ、オレにはどうでもいい事だがな)

 一気に焼酎を飲み干してダズトはグラスをテーブルに置くと、チラリと横目で店主を見る。

「……で、そのガキは今何処に居るんだ?」

「あ、いや……なにぶんホウオウ諸島も広いものですから。何処に潜んでいるのか、次は何処の町が襲われるのか……ちょっと分からねぇ……いえ、分かりません、はい」

ダズトの迫力に気圧された店主が、半ば上擦りながら答える。さながら抜き身の刃を思わせるダズトの眼光を、普通の人が向けられてしまっては致し方のない事でもあろう。

「なる程、貴重な情報どうもありがとうございました。最後に『紺碧の泪』が元々お祀りされていたお社の場所を教えて頂けますか?」

「……え、ええ。それぐらいお安い御用でさぁ」

ダズトの気迫に圧倒されてたじたじとなった店主に助け舟を出すように、ロキは優しい口調で丁寧に頭を下げて謝辞を述べた。そしてシチボシ島の「水仙竜骨洞」と呼ばれる場所を聞き出したのである。


 意識して向かった訳ではないが、食堂を出た一行は美しい砂浜を望める海岸線沿いの道を歩いていた。時間は丁度正午くらいだろうか、気温も上がってきてはいたが、サラリとした涼風が吹き抜け不快な感じは薄い。

 先頭を歩いていたリィナが振り向くと、後ろ歩きしながら先ほど得た情報について二人に尋ねた。

「やっぱり、さっき聞いた場所に行くしかないわよね?」

「そうですね折角の手掛かりですし、シャッツォ派やホワイト・ダガーを先んじる必要もありますから。まだ日も高い事ですし、取り敢えず行ってみたいと思いますがどうでしょう」

ロキは頷いてリィナに同意し、続いて横で腕を組みながら歩いているダズトを見やった。

「ふん、仕方ねぇ」

ロキの視線を感じたダズトが短く返事をする。

 ダズトとしてもウル・ホルンの怪物、そして今回のアーデルハイドという少女と「神の欠片」に魅入られた人間には多少なりとも興味があった。一体何を基準にして選ばれているのか、自分との共通点が何かあるのか、魅入られた後どうなっていくのか……しかし、それは別に自身の行く末に不安があるからではない。むしろ自分以外の者がどの様に「神の欠片」を扱いそして、接しているのかという単純な好奇心からである。

 ここでリィナはふと思う。

(ダズトったら別の島に行くのに、また船に乗らなきゃいけないって……分かってるのかしら?)

ダズトがその事実に気付くのに、そう時間は掛からないだろう。

 ともかくも一行はかつて「紺碧の泪」が祀られていたシチボシ島は「水仙竜骨洞」へと向かって行った。

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