女神の帰還 20 ――女神の帰還―― ENDE

「だから私の云うことは正しかっただろう。別に誇張も何もしていないぞ?」

「―――申し訳ありませんでした。」

「いつもそう云う風に上官を敬ってればいいというんだ。」

憤然と艦長が云うのは、外を眺める為の窓がある艦長室。古族と調整官、そしてティアを別階層の展望室から見送り、戻って来た二人である。

 呑み直そうという艦長に逆らう気も起きず、従って訪れているリゲルである。気付に強い酒を調合しながら、リゲルが一つを艦長に差出し隣に並ぶ。

 旗艦藍氷は、既に大気圏外に出ている。

 見下ろす窓外に在るのは、美しい氷の惑星である。

「基地の人員は一時補給艦と共に来たターミナル艦に収容されたそうですな。」

「…ああ、帝国から、これまで辺境基地を通じて支配を受けていたが、これからは惑星代表が存在することになるからな。基地機能自体を見直さなくてはならない必要もあって、一時人員を引上げて、基地も根本設計から見直しになるそうだ。」

「シールド損傷他、エネルギーラインの被害も、結局は復旧不能のものとなっていたようですからな。」

「まったくだ。まあ、良い機会だろうさ。次の設計では補給自体が止まっても基地を保護する強度くらいは稼げるように考え直すだろうよ。」

「…艦長。」

隣に立ち、その表情を見るリゲルに、艦長が訊ねる。

「どうした。」

「…いえ、お残りにならなくて、よろしいのですか。」

クラスを手にしたまま、艦長が窓外に美しい惑星を見る。

 氷に大陸を覆われた、厳しくも美しい惑星。

 調整官により、新たに政権を認められたばかりの皇国がいま其処には在る。

「―――私は記憶を持たないんだ。」

「ですが、新しい代表は、あなたの妹御なのでしょう。」

問うリゲルに、窓を見詰めながら。

 しずかに、応える。

指を、グラスに絡めて。

「いま私のいる処は、この藍氷だよ。」

「艦長。」

リゲルを見返す。

「そう、私は艦長だ。帝国旗艦、藍氷のな。」

微笑して艦長が云う。

「艦長。」

「離脱しよう。帝国本星域へ帰還だ。当艦は、任務を終え、本星域へ帰還する。」

「了解しました。」

グラスを掲げ、リゲルが一礼し退出する。

 先に準備を整える為に立ち去る副官を見送って、艦長が伸びをした。

「…ああ、戻ろうじゃないか?私の領域にな。いまの、」

背後に氷の惑星をおいて。

 白髪に、厳しい藍色の瞳を煌かせながら。

「私の戦場に、帰還しよう。」

グラスを窓際に置き、艦長室を出る。背後に広がる惑星を一度も振り返ることはせずに。

 艦長として指揮を取る為に、リ・クィアは一歩を踏み出していた。



                               了





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女神の帰還 TSUKASA・T @TSUKASA-T

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