第3話
番組は大反響、翌日レイコさんのSNSは急激にフォロワーを増やした。
それに、後日あの大阪弁の元モデルがスタッフを引き連れてやってきて、レイコさんの写真集を出したいと猛アピール、本人よりもメディア大好きな店長がノリノリで、話はあれよあれよという間に進み、普通にブランド物のファッションに身を包んだレイコさんや、巫女さんの装いのレイコさん、モデル風とスピリチュアル系の両方のレイコさんが掲載された写真集が発売された。
写真集には実際にレイコさんが元モデルを霊視する場面の写真もあって、出版社でアルバイト経験のある私は志願して編集に立ち会わせてもらい、2人の会話を文字起こしもして、 『美人過ぎる霊能者』 というタイトルも考えさせてもらった。
レイコさんの霊視の後、出たがりな店長が守護霊さんを見ますよおと、おしかけリーディングをして、それもちょっと載っている。
このテレビ出演と写真集発売をきっかけに、レイコさんは『美人過ぎる霊能者』としてメディアに露出するようになり、霊視だけでなく、モデルとしての活動やグルメ番組にも出演した。
レイコさんの活躍で、どこから聞いてくるのか、お店にも連日霊視してもらいたいという客が日本国中から来店していた。
レイコさんは、あの出演以来、店にいることが少なく、ついでに店長も便乗してメディア出演するようになり、おまけにみんなアポなしで来るので、会えないで帰る人がほとんどなのだけど、真剣に困っている人というのは案外少ないもので、みんなお店の写真を撮ったり、テレビ出演の後作った開運と名のついたグッズを買ったり、料理や珈琲を堪能して結構満足して帰っていった。
本当は有機栽培やオーガニックの材料を使っていたり、こだわっていて、味もすごく美味しいんだ。一番人気はマクロビ料理の講師でもある里美先生考案のマクロビランチ。
で、店は誰がやっているかというと、実は調理師経験のあるサリーさんが店長代理として回していて、数人のバイトもシフトにはいってくれている。人気者になったレイコさんには正式にマネージャーがついたので、私は晴れて? 解放され、サリーさんと一緒に店に出ている。
でも、時々ガチで憑依されている人が来る。この日もやってきたガチ憑依勢。レイコさんは霊と交信できるけど、除霊はできない。
だから、丁重にお断りするんだけど、やばい時は、オーナーのお友だちのユキティ先生をお呼びする。
「私、除霊は専門じゃないんだけどねえ」
とか言いながら塩を置いたり、お香を焚いたり、祝詞みたいなのを唱えてして対処していく。
だいたいの人はそれで来た時より顔色が明るく、足取り軽くなって帰っていく。
そんな日々が続くある日、店に一人の男の子がやってきた。
「お母さんを助けて。」
小学校二年生くらいに見えるが、子どもには似合わない悲痛な表情で訴えかけてくる。彼はプラスチックの貯金箱を大切そうに抱えて、レイコさんをまっすぐ見つめて言った。
霊感とかない私でも、なんとなくこの子の持っているエネルギーを感じとれたので、霊能者の皆さんはなんかすごいものをこの子から感じたようだ。
「悪い悪魔が、お母さんを苦しめてるからやっつけて」
どうもお母さんに悪霊が憑いていて、原因不明の病気に悩まされているらしい。
「お母さんの頭の上に黒い服の男の人がいて、お母さんをいじめてるからやっつけてほしいの」
彼は真剣だ。
「うーん。私お祓いとかじゃないんだよね」
と、困った様子のレイコさんだったが、なんとか助けたいと思ったのか霊視を始めた。霊視の結果わかったのは、この子が強い霊感の持ち主で、霊を引き寄せてしまっているということと、まだそれがコントロールできないということ。
ジャーン店長登場! 守護霊が見える彼が言う。
「霊媒師だったご先祖様と巫女様の姿の守護霊様がいて、導かれてこの店に来たんだね。守護霊様にも守り切れない悪霊がお母さんに憑いちゃってるみたい」
というわけでユキティ先生をお呼び出し。
「ユキティ先生、祓ってあげられますか?」
「ここに連れてこられたら、なんとかやってみる」
ユキティ先生によれば、この場所は強力な結界が張られていて、強い気で守られているから、ここに連れて来たほうがいいとのこと。
で、なんだかんだで協力してこの店に連れてきて、2階の座敷で除霊決行。真剣な表情のユキティ先生、塩や数珠やクリスタルや、ティンシャを使って何か唱えてる。
緊張感の漂う部屋で、クリスタルや綺麗な音になぜか悦に入ってしまう私。
お母さんは、途中起き上がりそうになったり、話しはじめようとしたりしたけど、なかなか変化がなく、ユキティ先生に見るからに疲れが。
霊能者の皆さんは察しが早く、みんなで手をかざして力を送ってユキティ先生を応援しているが、それでも大きな変化ががなく、一時間以上過ぎ、
「駄目だ、強すぎる」
ユキティ先生が畳に倒れこんだ。
と、同時に店のベルが鳴る。店のことすっかり忘れてた。
店に下りていくと、常連さんが店で販売している波動水と名づけられた水を飲みながら、初めての客を慣れた様子で席に案内し、水まで出していた。
「アキちゃん、勝手に飲んでるよ。お金そこ置いといたからね」
とレジを指さした。
「すごい殺気だな」
初めての客とは思えない態度のでかい全身黒の男が、天井を見ながら小声なのによく通る声で言った。その男からは素人でも分かるような、良くも悪くも何か強いオーラのようなものが放たれていた。
簡単に近寄るなと言っているような、男の周りの見えないヴェールのようなものを必死で乗り越えて、なんとか言葉を発した。
「あの、これはなんなんでしょうか?」
「思念だ。邪悪で強い。並の霊媒師では太刀打ち不能だ」
少しの沈黙の後、男が続けた。
「だが、俺なら出来る」
低い、力強い、小さな、私を試すような声だった。
すぐにお願いしますというべきところなのに、私はなぜかためらった。
「助けてあげてください」
なぜか、うまく声がだせなくて、絞り出すようなかすれた声で、自分の意志とは関係ないところから声が発せられた。
「一億出せるか」
「は!? そんなお金あるわけないじゃないですか」
「なら、無理だな」
「そんな・・・。目の前で苦しんでる人がいるのに、ほっとくんですか。お金がそんなに大事なんですか」
「金のないやつは弱者だ。弱者は強者の生贄になる運命だ。それが嫌なら強くなれ」
私は、その言葉を完全に否定する気になれなかった。
とにかくまず病院に連れていこうという結論になり、みんなで2階からお母さんを店まで降ろしはじめた。階段の途中から、もう店に何か異質なものが漂っている感じがしていて、常連の客が急に帰ると言い出した。
男は降りてくる彼女をゆっくりと目で追っていたが、男の目は彼女より奥の、人の視界では見えなないところを見ているようだった。
奥の席で待っていた、さっきの男の子が駆け寄ってきた。
「お母さん、大丈夫?」
「ごめんね」
彼女は、男の子の問いにか細く答えた。頬に伸ばした手がものすごく細かった。
「お願いします。助けてください。お金はなんとかします」
なんとか出来るわけないのに、思わず言ってしまった。
「弱者に用はない」
「お金は確かに大切だけど、この人を助けることであなたはそれ以上のものを手に出来ます」
「根拠は?」
「根拠はないけど、確信はあります」
どうしよう。口が勝手に動いてしまう。
「いいだろう」
そう言うと、男は母親のそばに行き、額に九字を切り、真言のようなのを唱えた。
「〇§Σ§!!」
最後に良くわからない言葉を叫ぶと、母親の顔が見るからに赤みを帯びて、しっかりと立ち上がった。
「なんだか、体が軽い」
静かな笑顔で、彼女が言った。
「体力がかなり落ちてる。しばらく休養が必要だ」
彼女は、長い間まともに食事がとれなかったらしく、軽い栄養失調になっていて、しばらく店で面倒を見ることになった。
「さっき言ったことを証明するか、一億用意できるまで、こいつは俺が預かる」
黒い男が、男の子の首をホールドしながら言った。
信用していい、何故かそう思った。
「あーっ、
店を出ていく男の後ろ姿を見ながら、何かを思い出そうとしていた店長が叫んだ。なんでも、一流企業の社長や超有名人の除霊をして、法外な報酬を要求し、スピリチュアル界隈で都市伝説になっている男らしい。
めったに写真を撮らせないが、店長は、ちょっとやばい写真を売って稼いでいるフリーカメラマンに一度写真を見せてもらったことがあるらしい。顔がはっきり見えない横顔だけの写真だったけど、確かに同一人物だという。
その後、お母さんは里美先生のマクロビレシピで、日々回復し、一カ月後には店で働きだした。体力がなくなり、働けなくなってからは生活保護で暮らしていたらしい。
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