迷子少女がサイカイする話

丹羽之Es河 @045niwa

踏み出す一歩。変わる世界

 私の18年の人生に、はたして意味はあったのだろうか。

思えば全て親の言いなりだった。

物心ついたときから勉強を強要されていた。ひたすらにただひたすらに勉強をさせられていた。


「これは全部お前のためなんだぞ。勉強していい学校に行っていい企業に入ればお前は必ず幸せになれる。今の世の中は男女平等だ。女は家庭に籠もってればいい時代はもう終わったんだ」


嫌になるほど言われた言葉。これを働いている父親はともかく、専業主婦の母親もペラペラ喋るのだから笑えない。


まあ親の考えが理解できない訳ではない。

勉強は出来るに越したことはないし、いい企業に行けばそれなりの収入や人脈などを得られる可能性は高い。

理解は出来るが、納得できるかと言われれば話は変わってくるのだけど。

そもそも親が成し得なかった理想を子供に押し付けているだけで、あの人たちが本当に私の事を思っているかと言われると非常に怪しい。

私はお前たちの操り人形ではないのだ。


いつかテレビで誰かが言っていた。


「悩める若者たち。自分の好きな事をやりなさい。誰のいいなりにもならずに、貴方がやりたいと思うことをやりなさい」

「自分が何をしたいかが分からない若者たち。一歩を踏み出しなさい。自らの足で。そうすれば、貴方の目の前には新たな世界が広がるでしょう。そして、貴方は新たな自分に生まれ変わるでしょう」


思い返すとかなり宗教臭いが、今の私にはこのくらいが非常に心地良かった。


 親からの虐待じみた躾や受験へのストレスなど、私の頭と心は完全に壊れていた。

だからこそ、これまでの人生で親に逆らったことなど片手で数えられる程度の私は、一世一代の勝負に出た。

家出をしてやるんだ。

こんなクソみたいな環境を抜け出して自由になるんだ。


 深夜1時。親が寝静まったのを確認し、玄関に置いてある父親の車の鍵を拝借する。

どうせ普段から使わないんだから、私の足として有効活用してやる。

免許を何故か取らせてくれた親に今更ながら感謝しなくてはいけない。

エンジン音でバレる可能性もあるが、便利な移動手段を手放す訳にも行かない。

私は手早くエンジンをかけすぐに家を後にした。


 以前から計画していたが、いざ家出してからの目的地を考えることを失念していた。

なるべく家から離れた場所に行きたいと思い、なんとなく大通りに出てみた。

深夜ということもあり車の数も少ない。

初心者ドライバーの私にとっては好都合だった。

ボーっと運転を続けていると、ラジオから音楽が流れてきた。夏をテーマにした賑やかな曲だ。


「海がみたいなあ」


誰に伝えるでもなくポツリとつぶやく。

今からなら夜明けにはつけるかもしれない。

今考えれば、海まで相当な距離があるのだが、達成感に満たされていたあの時の私にはそんなもの些細な事に過ぎなかった。


 朝日が昇る海を眺めた感想は『疲れた』だった。

感動や興奮よりも慣れない運転に神経を注ぎきった疲労感が勝っていた。情緒もへったくれもない。


「······よし、描けた」


目的も達成したし、寝るか。

最後が車中泊というのも些か悲しいが、もう終わることだ。

明かりの火を消し、静かに目を閉じる。


「おやすみ。世界」

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