第2話 登頂
袴もどきを付けて、薮の切れた場所を探して歩く。
今は、巨大な殺意が来る前に移動だ。
前後左右を見て、用心しながら進む。土砂崩れが起きたのか、黄色い土が薮を押し流している場所を見つけた。運が向いてきたようだ。
小半時ばかり、黄土をがむしゃらに進むと、山頂と言うより小高い丘のような頂上が遠くに見えて来た。
あそこなら、周囲を見通せる。
小袖に羽織姿の与平は、腰を下ろし、脱いだ羽織を腰に縛りつけてから歩き出した。
やっと、中腹に着いて、そこから丘を見上げる。そこからの登りは、さらに傾斜が急で、這うように進むことになりそうだ。だが、疲れはない。
振り返ると、丘を中心に裾野が広がっている。
幸いなのは瓦礫のない粘土質であったことだ。落石の心配はない。
履いている草履を締め直し、もう少しだと、己を鼓舞しながら、這い登ろうと見上げた時、視界が突然変わり、青空が見えた。
丘の頂上に向けて踏み出そうとした途端、着いていた。
- 頂上に転移しました-
「転移なのか? これで2度目だ。見える範囲には転移できそうだ。光の精霊に出来ないことはないというのは本当かもしれない。」
ふと考える。精霊王は何故、この地を選んだのだろう。たまたま見つけた場所に、転移させたとは思えない。あの理性に富んだ存在がそんなことをするはずがない。何か理由があるに違いない。直観なのだが、この場所と精霊王との間には何かしらの繋がりがある。
丘の頂上から見える東側の景色は圧巻だった。
紺碧の海に、白い砂浜。沖の岩場に砕け散る白波。雲一つない真っ青な空に朝日が海の地平線から出て来た。全てが輝いている。心が揺さぶられる美しさである。暫く、見とれる。
周囲を見回す。驚きだった。
四方八方、何処を見ても海だった。
海の向こうも海で、陸地は見えない。完璧な孤島だ。
愕然とする。これだけの絶海の孤島があるとは。
故郷にも多くの島があったが、陸地が見えないという事はなかった。
朝日が昇る海岸線を見て行くと、砂浜の両側が台地で、突端には波が打ち寄せ、砕け散っている。こちらは陽が昇るのだから東になる。
砂浜は入り江の中にあり、沖合の岩場には白波が立っている。
入り江の中は穏やかに見える。
後ろを振り向くと下った先に草原が続いており、その先は断崖のようだ。こちらは西になる。
元の場所に戻り、砂浜を眺める。
砂浜の右側の台地の突端、その岩場の中央部に違和感がある。
そこだけ、波しぶきが上がっていない。
人の手が入ったのではと思わせる、人工的な印象を受ける。
それだけでもうれしい。何しろ、何の手がかりもないのだから。
超巨大白蛇が近づいている。
その気配を避けて、砂浜を目指して丘を下ることにした。
立ち上がり、意を決して頂上から、急峻な下りを下り始めた途端、体が浮いた。慌てて手足を振っても落ちない。ゆっくりと砂浜のある方向に向かっている。
進むのを止めようと思ったら、空中で停止した。
空を飛べたのだ。飛ぶことは人の夢だ。思いもしなかったことだ。
光の精霊の力は途方もない。
眼下に広がる景色を眺める。壮大な眺めに気が高ぶる。
超巨大白蛇の気配が消えていた。突然空を飛んだので、見失ったのかもしれない。
この孤島は意外に大きい。転移と飛翔でかなりの距離を動いたので時間はかかっていないが、歩けば丸1日や2日かかっていただろう。
暫く留まった後、前進し、降りたい場所に来ると、ゆっくりと降下した。
あっという間に林の手前まで来ていた。
そのまま、丘の上から見えた砂浜の方向に歩いて向かう。飛ぼうと思えば飛べるが今は歩きたかった。周囲の気配を探りながら、林の中を歩く。
暫く歩くと、地面は少しずつ、なだらかになり、次第に土に砂が混じるようになってくる。海岸線が近いのか。
期待に胸が膨らみ、急ぎ足になる。
気を引き締めようと思ったその時、2つの大きな気配に気づいた。
超巨大白蛇との遭遇の時とは違う、殺気と殺気がぶつかり合っているような気配である。
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