現実
乙桜
第1話 さよなら
「今日、おばあちゃんが亡くなったってさ」
「えっ?あのばあばが死んじゃったの!?」
「いや、お前の思っている方じゃないと思う。お前はお母さんのほうだと思ってるだろ。そっちじゃなくて、俺の方のおばあちゃんだよ」
「あっ。そうなんだ。よく連絡ついたね?僕が小学一年生ぐらいの時から連絡取り合ってないでしょ。あっちの実家と」
「俺も知ったのはついさっきなんだけどな。俺のところにじゃなくて、お母さんのところにLINEで連絡が来たんだよ。ほら」
お父さんは俺にお母さんとのLINEの画面を見せてきた。
その画面には母と知らない人のトーク画面を撮ったスクリーンショットが貼られていて
『12:24 母が危篤です。
12:47 母は12:40に永眠しました。』
「ほんとだ。よくわかんないんだけど、そっちの、お父さんの方のおばあちゃんって何か病気持ってたっけ?危篤ってなかなか病気以外で使わないよね」
「わからん。俺もお母さんからこうやって送られてきただけだから全く。この後会話があるのかも知らん」
「そっか。え、多分流石に葬式はあるよね?これ、自分達行く?」
「迷い中。少なくとも、俺はあの家の長男だし出なきゃいけないけど、お前とお母さんは言うても縁がないからどうしようかなって感じ」
「そりゃそうだよね。最後に会ったのいつなんだよって感じ。小学校だよね?1、2、3年生のどれかな気がする」
「うーん?…たぶんお前が一年生の頃じゃないかな。小学校に上がってもらうお小遣い増えてた気がするもんな」
「って言うかなんであんなに一気に疎遠になっちゃったんだっけ?まだ自分も小さかったから覚えてないんだけど」
「話長くなるけど、する?その話?」
「いやなら良いけど…」
「まぁいずれ話すことになる話だしな。早口にしちゃったほうがいいかな」
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
お前もなんとなく覚えてるだろうけど、俺のおばあちゃん、だからお前にとってのひいおばあちゃんだな。その葬式に行った時が決定打だった。
俺はそこまで縁も近くなかったし、何より俺は姉が5人いる。(ちなみに俺は末っ子)だから、俺なんかよりもアユミ姉さんとかはめっちゃ泣いてた。まぁ、俺が生まれてからはほぼ痴呆老人だったらしいから、俺と会わせられないのもしょうがないことだったのかもしれない。
それはいいとして、決定打になったことだ。
俺らの兄妹には親父、お前のおじいちゃんな。をちゃんと見ておこうっていうグループって言うか、ちゃんとそばで見てあげていようぜって言ってたグループがあって、それが俺とアユミ姉さんと美穂姉さんだったんだよ。
俺らは親父とオカンのことを話してたんだよ。そう。で、オカンは当時、ずいぶんと腰が悪くなっててな。そろそろ介護が必要だなって話をしてたんだ。
俺は実はその時、元々親父とオカンをこの家に住まわせてあげる予定だったんだよ。この家、よく見てみて。一回の外に面する窓はでかいし、一階に寝てるスペースもある。「そう言うことも念の為…」ってこの家を買った時から考えてはいたんだ。
それで、俺は「オカンと親父に聞いた後、妻に聞いて、もしよかったら、それでいいんじゃない?」ってアユミ姉さんと美穂姉さんに言ったんだ。そしたら
「いいんじゃない。私らが言ってもねぇ。嫁がせた家に転がり込むってのも親父嫌いそうだしね」
って言って、その時はそれでまとまったんだ。
そしたら俺はまず、オカンに聞きに行ったんだ。「うち、埼玉県だけど来たい?」って。「今まで茨城県住みで田舎暮らしなよりかは腰にいいと思うから」って言って。
そしたらオカンは申し訳なさそうに「本当にいいのかい?」とか言ってたけど、了承してくれた。
次に親父に聞いたんだよ。
そうしたら
「俺はいい!茨城さ離れるなんて考えれねぇ!」
って言いやがったんだ。
俺は少し考えたけど、親父がそう言うなら多分動かないだろうと思ったから、代わりに
「じゃあ、親父とオカンの住む家リフォームとかしようか。急な段差とか無くしてさ。オカンが住みやすいように」
俺の中では自然な発想だった。しかし親父の中ではそんなことなかったようで
「今の状態でも暮らせてんのに、なんでわざわざリフォームせないかんのや!」
って言った。
それで俺はカチンと頭に来たんだよ。
今まで俺たち兄妹をさ、あの160センチぐらいの小さい背中でさ、支えてきてくれて、楽させてあげようよって思ってたのに、なんで親父がそれに反対するんやろって。
しかも親父は
「リフォームなんてめっちゃ金かかるやろ!そんな金はうちのない!」
うそだ。親父もそろそろ歳だからって言って相続とかのことも考えて資産はちょくちょく確認してたけど、余裕で2000万ぐらいあった。
俺はそういう親父の性根がキライだった。昔から。
俺が稼いだ金なんだから、なんで他の人のために使わなきゃいかねぇんだ。
なんで子供のために金を使わなきゃいかねぇんだ。
みたいな。
もう一つある。
アユミ姉さんと美穂姉さんが俺より先にお前のお母さんにおじいちゃんをあなたの家に連れて行ってもらっていい?って聞きやがった。
考えてみろ。夫のお姉さんからの頼み事を断れるわけないだろ。
だから俺はそれを伝えたんだ。姉さん2人に。そしたら
「え。奥さんは親父を家に入れたくないってこと!?え!?」
とかって、お母さんに聞こえるように言い出したんだ。
俺は思ったよ。そう言うことじゃないだろ!って。
しかもそれをお母さんに聞こえるように言うんだからもう、当時の俺はブチギレてね。
そこから葬式が終わって真っ先に帰っちゃって。
これがお前が小学生一年生の時の話。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
「なるほどね。おじいちゃんには無碍にされ、お姉ちゃんたちはオカシイからお父さん、怒っちゃったと。なるほど、なるほど…」
「まぁ、それだけじゃないけどね。親父に結構お金があるって知った時もイラって来てたんよ。俺らが子供の頃も多分、俺は貧乏だと当時思ってたけど、そんなことなかったんだろうなって。そう言うのもあったよね」
「そうなんだ…そうだよね。なんか今の暮らしが当たり前じゃない気がしてきたわ。お父さん、ありがとう」
「なんや、急に。こちらこそ。どういたしまして」
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