三太について。

せとあきは

三太について。

「この村ではサンタクロースのことを三太と呼ぶそうですが、本当でしょうか?」


「本当ですけど、そんな記事にする話じゃないですよ」


 私はサンタクロースを三太と呼ぶ村に取材に来ている。


 クリスマスに合わせた企画の記事の一つに出来ればと思って探し当てたネタである。思ったより快く村の事をよく知るという人物が取材に応じてくれたので驚いた。


「さっそくですが、この村ではカタカナのサンタではなく明確に漢字で三太って呼ぶそうですね。その理由は何なのでしょうか?」


「サンタクロースを縮めたサンタでは馴染みが当時薄かったのでしょう。それで子どもに馴染んで貰えるように三太って呼んだんじゃないんですかねぇ」


「あと一つ気になるのが、この三太と言い伝えられている絵です。一般的にサンタはふくよかな男性として伝えられています。しかしながら、この村で伝わる絵では痩せこけた男性として描かれています。これは何故なのでしょうか?」


「当時の村にはそんな太っている人がいなかったのでしょう。それで痩せた男性になったのだと思いますよ。雑誌の記事にするような面白い話じゃないよ」


 確かにこのままではボツを食らってしまう面白くない話である。だが、この村の男性が言う話に納得できない部分もあった。


「こちらの絵はご存じですか?」


 この絵は同業のライターがその村に行くのならと送ってくれた絵の画像である。


「この絵をどちらで?」


 村の男性も知らない絵なのだろうか。困惑しているように見えた。


「同業のライターが教えてくれた絵でして、この村に関係あるのではないかと思いまして……。ほら、ここに三太って書いてありますから」


「これはこの村に伝わる三太を心ない誰かがイタズラでねじ曲げて描いた絵だと思います。だって、おかしいでしょう? 子どもをさらうサンタクロースなんて」


「確かにそれはそうですよね。いやぁ自分もおかしいと思ってたのですけどね、気を悪くされたなら申し訳ないです」


「いやいや、気にしないでください。都会のほうからこんな田舎の村まで取材に来てくれるだけでも嬉しいのですよ。ご覧の通り、この村には何もないですからね」


「普段都会に住んでいる自分が言うのもおかしいとは思うのですが、都会にはないモノがこの村にはあると思いますよ。例えばこんな自然は残ってないですからね」


「それは良かったです! たまには遊びに来て下さいよ。子どもはいるんですか?」


「まだ独身でして……。いつか子どもが出来たら連れてきたいものです」


「それはもう是非! 連れてきてください! 喜ぶと思いますよ」




思っていたより面白いネタになりそうにない事に落胆しながら帰りの車を走らせた。


 田舎の村に合わせたサンタ像という結論では誰も納得しないことだろう。


 代わりにどんなネタがあるのだろうと頭を悩ませながら都会へ帰るのであった。


 それにしても自然を子どもに見せるには素晴らしい村だろうと思うのである。


(了)

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