海外における、嘘っぽい話

マッシー

第1話 アフリカでは、昨日の列車が走っている

 現在チョコレートの原料になっているカカオの値段が高騰しているのは、円安や輸送コストの上昇のためだけではありません。

 カカオ高騰の主な原因は、アフリカのガーナでカカオの木を伐採して、違法な方法によって金を採掘する業者が横行しているためです。


 金の値段は、10年で10倍になりましたので、アフリカ南部の国々では、ゴールドラッシュが再来しています。

 一番手っ取り早い金の採取法は、アマルガム法で、これは水銀を使った方法です。もちろん今では、この方法は、ほとんどの国で禁止されています。


 どうやるかというと・・・金が混じっている土や、金が含まれている鉱石を粉砕したものに水銀をかけます。水銀は常温で液体の金属ですが、金と合金を作ります。

 言い換えると、その土に含まれている金を水銀は吸収してくれるのです。

 その後は、金が入っている水銀を加熱して、水銀だけを蒸発させることにより、金を残すという方法です。

 もちろん、この方法は、きわめてひどい水銀汚染を引き起こします。


 

 以上は、前置きで、これからが表題のお話になります。


 2008年のことですが・・・

 南アフリカ共和国の地方の村で、上記のような著しい環境汚染を引き起こす方法で金が採取されていた頃、私は、熊本大学「みなまた環境塾」をやっていました。

 そこで私は、その実態調査と水銀を使う製錬法の危うさを伝えに行きました。

 

 南アフリカ共和国はアフリカでは先進国で、ブルートレインが走っています。

 そのブルートレインは、日本の寝台列車がブルートレインと呼ばれるようになったルーツと言われている豪華列車です。


 その頃は円高で南アフリカラントは比較的安かったので、ひと仕事終わった私は、プレトリアからケープタウンまで、その豪華列車で2泊3日の旅をしようと思いました。

 

 約15万円したその寝台車を予約して、切符を買って、列車を待っていた時です。


 正午に出発予定のそのブルートレインが午前10時頃に、時刻表通りにホームに入ってきました。発展途上国で列車がダイヤ通りに走ることは、極めて珍しいことです。

 ケープタウンから乗ってきたと思われる乗客を降ろして、車内清掃が終わるのを私は待っていました。


 いよいよ11時30分、私は嬉々としてホームに行き、寝台車の指定席と切符を示して、その寝台車に乗ろうとしました。


 すると、ホームにいる車掌さんか駅員さんから、私は乗車を拒否されました。

 

 私は、知っている限りの英語で、

「ちゃんと切符を持っている。なぜ乗せてもらえないのだ」

 と言いました。

 

 すると、その車掌さんか駅員さんが言いました。


「これは、昨日の列車だ」

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