バグの遺伝子 ~AIの奴隷だった俺は異世界で辺境伯令嬢に買われ、AIチートを駆使して覇王になる~
緑豆空
プロローグ
プロローグ 剣聖との王覧試合
この世に数人しか存在しないと言われている剣聖。
俺は今、その剣聖の前に立って剣を構えている。俺は幼少の頃から剣など握った事が無く、剣聖と呼ばれる人間と対峙する事などあり得なかった。そもそも全ての人類が平等で均一の管理世界に生きていた為、争いなどは皆無で剣の訓練など必要が無かった。
王覧試合の会場で、何故か俺は剣を握り剣聖と対峙しているのだ。王覧試合とは、王の前でその剣を振るい腕前を競う試合である。ときおり死人も出ると言われる過酷なトーナメントで、俺は決勝の第一回戦から剣聖にぶちあたってしまった。
目の前にいる剣聖が笑みを浮かべながら俺に告げる。
「二刀流などという邪道が通用すると思ってるのか? よくここまで登りつめたと言いたいところだが、貴族に金でもつかませて出場したのであろう? だが我にインチキは通用せぬぞ」
そりゃそう思うのも仕方がない。俺はぽっと出の剣士で、今まで世の中にその名前を知られる事は無かった。というよりも、俺はもともと奴隷なのでこんなところに立てる立場ではない。
「……」
とりあえず返す言葉も無いので黙っている。
「ふっ、怖気づいて言葉も出ぬか。まあ貴様のような雑魚は、一瞬にして葬り去ってやろう。舐めた思い上がりで王覧試合にあがった貴様などに、振る剣など持ち合わせてはおらぬが、一応真面目に相手してやる。死ぬ気で守らねば本当に死ぬと思えよ」
恐らく観客席に座った王族や貴族達、そして市民達には剣聖の声は聞こえていない。このような大会に出るからには、剣聖と言えどかなりの修行を積んで来たに違いない。この人が言う真面目に相手するの言葉は、普通の人間にとっては死に値する。もちろん会場の全ての人間が、剣聖が勝ち上がるところを見に来ているのだ。
一応、俺は剣を構えた。
「ほう。何処の流派だ? 一見隙だらけのように見えるが、そこそこはやるようだ。インチキで予選を突破した訳では無さそうだな。油断せずに相手せねばならないらしい」
流石は剣聖と呼ばれる人間、一瞬にして油断が消え去る。その瞬間、どっ! と剣聖の威圧感が俺を襲った。剣聖に構えを取らせたことが、俺にとって不利な事は間違いない。
だが。
俺はそこに自然体で立つ。
「なんだ? お前からは全くの闘争心も殺意も感じない。それなのに、なぜそこに何もないように立てているのだ?」
「……」
「まあいい。剣で語るとしよう」
お互いが構えを取った瞬間、審査席から声がかかる。
「はじめ!」
相手の気がピリピリと張り詰めてくるのが分かる。俺は相手の初撃を待っていた。
脳内に音声が流れる。
《ガイド通り。最初の剣撃が繰り出されるまで、一コンマ二秒。初撃は右横からの水平な薙ぎ》
機械音のような抑揚のない言葉。今の指示は時間にして、ゼロコンマ一秒にも満たない。
次の瞬間、俺の体は腰より低くしゃがみ込んでいた。俺の脳天の上、髪の毛をこするようにして過ぎ去る剣聖の強烈な一撃。剣聖が振り切った直後、地面すれすれの低空から俺が剣を跳ね上げようとした時、再び脳内に音声が流れた。
《相手は剣を避けて剣を返してきます。左手の剣を立てて剣を受けつつ、跳ね上げた右の剣は相手の腰元で止め、そこから一メートル踏み込みこんで腕を伸ばしてください》
その言葉と俺の体は完全連動なので、ゼロコンマ一秒以下の間に動きを完了させた。
ギイン!
左手の剣で剣聖の剣を受け止める。だが流石に剣聖の剣撃を左手一本では受けきれない。
《更に六十センチ前に》
剣ごと押し切られようとしたところで、俺はもう一歩踏み込み、剣聖の突き出した腕の先まで胴体をもってくる。そのまま腰前に突き出していた右手の剣が、体に押されるまま剣聖の胴体をとらえる。
バシュッ!
俺の剣に弾き飛ばされたように、剣聖の体が後方に飛んでいく。
《敵は自分で飛びました。追撃をせずそこに止まってください》
俺が前に出ないでいると、目の前すれすれを剣聖の剣が斜めに通り過ぎた。
《後転してください》
俺がそのままゴロゴロと後方に転がると、俺がいた床に剣聖の剣が突き刺さった。間違いなく俺を串刺しにして殺すつもりの本気の剣だ。剣を空ぶらせた剣聖が俺を睨んでにやりと笑う。
「凄まじいな。今のをかわすかよ!」
「……」
「野には、さてもおもしろい者がいるのか」
そこで俺の脳内の声が告げた。
《演算処理終了。全ての動きは予測可能となりました》
次の瞬間、剣聖が上段に剣を構えながら一気に俺の前に現れる。恐らく縮地と言うスキルを使ったのだ。
だが既に予測の範疇、剣聖は初撃で俺を仕留めるべきだったのだ。かなりの情報を俺に渡してしまい、剣聖の動きが完全に丸裸になっている。超速素粒子AI予測演算により次の行動が示され、剣聖が振るう剣より俺の体が早く動き出す。もう剣聖がどうあがいたとしても、数億通りの先読みが可能となってしまったのである。
《地面から十五センチで左剣を横なぎに》
体制を低くして左剣を横なぎにすると、剣聖はその剣を読み切って三十センチほど飛び上がった。
だが…それで終わりだった。
《右の剣を頭上につきだし、高速で前方宙返りをしてください》
ビュン! ガズン! 俺の頭上の剣が宙返りと共に、剣聖の右肩にクリーンヒットする。全体重が乗りスピードも加わったその剣は、剣聖の鎖骨を砕いて剣を落とさせた。
「ぐあ!」
「……」
場内が静まり返った。剣聖は右肩を押さえ、膝をついて身動きが取れないでいる。俺は右の剣を天に向けて構え、剣聖の脳天めがけて振り下ろした。
「そこまでだ! 勝者! コハク!」
審判から声がかかり、俺は剣聖の頭の上ぎりぎりで剣を止めていた。恐らく振りきれば、剣聖は脳みそをまき散らして死んでいただろう。俺は二本の剣を腰に収め、剣聖に向けて手を差し伸べる。すると剣聖は俺を見て言った。
「見事だ。だが俺を負かした男の手は借りぬ」
そう言って立ち上がる。
次の瞬間、場内から割れんばかりの歓声が起きた。
生まれてこのかた、剣を握った事はおろか人と争った事も無い俺が、何故こんな事になってしまったのか?
これからそれを説明するとしよう。
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