第六章・とろけるような恋心

4 この恋、守るために

第1話

人をこんなに愛しいと思うことなんて、今までなかった。


 いろんな人を好きになって、ドキドキしたり泣いたり笑ったりしたけど。


 それは本当の意味での恋じゃなかったのかもしれない。


 全てをかけてもいいって思えるほど人を好きになることなんてできるんだ。




 あたしはシャープペンをくるくる手の上で回しながら、黒板の前で授業をしている白衣姿の金原先生の姿を見つめていた。


 世界で一番愛しい人。


 姿が視界にあるだけで、胸がきゅんきゅんして幸せな気持ちになれるんだ。





 先生はチョークの粉ついた指先で時々眼鏡のフレームをずりあげながら、相変わらず几帳面な字で板書している。


 かけている眼鏡は、あたしが入院中に先生に上げたダテ眼鏡だ。


 壊れた眼鏡を修理したり買い換えに行く暇がないのか、気に入ってくれているのか分からないけれど。


 どちらにしたって先生が学校に出てこれるようになったのは嬉しかった。




 もちろん左腕はまだ三角巾で吊っている。


 白衣の色と同化しちゃって、よく分からないんだけどね。


 やっぱり理科の授業は金原先生のが一番いい。


 結局集中していないことには変わりないんだけど……。


 先生にばれたら怒られてしまう。




 先生の頭がふとこちらを向いたので、あたしはとっさに頭を下げてノートをとるフリをした。


 すぐにそっと目だけ上げて先生の姿をうかがう。


 襟足が更に伸び気味の長い黒髪が白衣の襟にかかっているのが見えた。


 髪の隙間から三角巾の結び目が見えた。

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