第2話

「カットーッ!オッケーィ!」


「えー何?撮影?」

「映画の撮影だってー」

「誰か有名人いるの?」

「あーあの子見た事ある」

「ほら子役のー」



「みやこ!」



そう呼んだのは母親だった。


「ママ!」

みやこは笑顔でこちらを向く。

まるで全てを悟っているかのように。


「お疲れ様、まだ時間かかりそう?」


「ううん」


みやこは走って母親の元へ行く。


「さっきのシーンOKもらったから、今日はもう上がれると思う。」


あ、と声に出したのは他でもない、みやこで。


「みやびっ!来てたんだ」


と嬉しい表情をした。お互いに。


「ね!私の演技見てくれた?」

「うん、みやこちゃん、とっても良かったよ!」


二人で和気合々としている様子を、スタッフさんは撮っている。


「あら、」


黒い肌のゴツい体型をした。お姉さんの監督は話す。


「今日は妹ちゃんも見てたのねえ、同じ服だったら見分けがるか無くなっちゃいそ」


「監督さん、」


「お母さんもやっぱり、見分けがつかなくなる時があるんですか?」


「まさか、ちゃんと見分けがつきますよ」と嘘をつく。


「一卵性ですけど、全く一緒という訳じゃないので、ましてみやびは」


こちらに手を振るのは女優のみやこで、みやびは都の後ろに隠れた。


「……ねえ、佐伯さん、妹ちゃんはデビューさせないの?」


「デビューですか?」


「青、今どき双子でデビューするのも珍しくないでしょ」


「これはアタシの勘だけど、あの子たちなら売れると思う。」


二人は目を合わせ、一緒にデビューできるのかと期待を寄せた。でも。


「お気持ちは有り難いのですが、みやびに対してみやこはしっかりしてませんし、」


あの子には演技なんてとても……。


みやびは地獄に突き落とされたような気持ちだった。

役ただずのみやび。そうレッテルを貼られてる気がして。


妹のみやこに、手を握る。

決して涙はみせないように。


「ご飯の支度があるから、先にお風呂に入りなさい」


「「はーい」」


みやこは紐付きのスニーカーを履いており、みやびはマジックテープの靴を履いている。走って、廊下をはしゃぎ回るみやことみやび。お風呂もみやこが洗い、ボタンも都が留めてくれた。


しかし、今日の夕飯はハンバーグで、トマトが上手くスプーンでは取れなかった。

そのことに誰も気づいていないことがどうでも良かった。


歯磨きをし、恭介の帰りを待つ。

恭介は佐伯冴子の弟で。呼び鈴が2度鳴らされた。



「あら、みやびの迎えに来なかったから、今日はもう来ないと思ってなのに」


「悪い姉さん、昼はみやびを連れて行けなくて」


急に面接が入ってさ、と。愚痴をこぼしていた。

「就活生も大変ね、みやこのマネージャーなら、何時でもさせてあげるわよ」


「それって名の稼いだ金がオレの給料になるってことだろ」


「恭介ッ」「恭ちゃん!」


虐められていないか来る恭介は、実際のところ状況は理解していた。


「お夕飯食べに来たの?」


「あそぼー」


「あーごめんな、ママに用事があって来たんだよ」


「「えー」」


少しがっかりしているみやびとみやこは、これから宿題をしなければなかった。


「みやび、みやこ、寝る支度はしなくていいの?」


「あっ」


「じゃあ、またね恭ちゃん」


「恭介また後でね」


パタパタパタとスリッパの音を鳴らしながら二階へと上がっていく。

いつもなら一緒に行く恭介だが大事な話があると言うので今日は少し遅れて行った。


「よしっ明日の準備おわりー!」



ねーみやびいつもの……と声をかけた時は遅く。

みやびの頭に串が絡まっていた。


「はいっできたっと!」


「良かったね、キレイにとれて」


「……ごめんね、みやこちゃん」


「私、何にも、できなくて。いつも……」


ふわっとまた櫛で髪をとかす、みやこの手は母親だった。


「私、みやびの髪、溶かすの好きだよ。みやびの話だって聞くの好きだし。

 一緒にいるとすごく楽しいよ。」


それでも落ち込むみやびを元気付けようと、みやこは言葉を発する。


「そうだ、みやび、いつものやろうよ。みやびも好きでしょ?」



「うんっ」



そう愛想笑いをするの様子が日常的で、普遍だった。




「みやこのね、NHKドラマの出演が決まりそうなの。」


「本当か、凄いじゃないか」


「ヒロインの……、幼少期の役だから、それほど出番は多くないんだけどね」


続けて、佐伯冴子は話す。


「みやびがね。都が忙しくなればどうしたって私も余裕がなくなるでしょう?

ただでさえ、手のかかる、みやびの面倒を見ながら みやこの仕事をサポートするのは難しいと思うのよ。」


「それで?」


「一年、ううん。半年でいいわ。あんたの家で雅を預かってくれないかしら。

 みやびもあんたには懐いてるし、」


「みやこの為にみやびを捨てるのか?」


「捨てるだなんて、大袈裟ね。みやこにとって大事な時期だから。」


「みやこにとって大事な時期は、雅にとっても大事な時期だろッ」


「やだ、ちょっと大声出さないでよ」


佐伯恭介は一呼吸入れた。


「俺はいいよ」


「じゃあ、「けど。決めるのはみやび自身だ」


2階の階段へ上がる。そこには暗い、廊下の中に扉の光があった。


「みやび、みやこ入るぞー」


そう言って入った俺は、みやびの演技を目撃する。


「どぉーして誰も手ェ上げないのよッ」



みやびの泣いている演技を初めて観た。

兄貴として、ここは声をかけない方がいいのだろうか。


「先生言ったよねッ前にもさあっ授業進まないって!聞いてたッ!?ちゃんと聞いてたならできるよねえ!?」


「うわあ、相田先生とうとう切れたんだ」

「うっせえなあ、誰も学級委員なんて……」


「あ。」と恭介は少し小さな声を上げる。


「一応、ノックはしたんだけど……」


すまんっ!と頭を下げる恭介はお辞儀をしている。


顔を真っ赤にさせた、みやびは布団に頭を突っ伏した。

「……にしても、やっぱり凄いな。みやこ!小さくても大女優だ!」


「え、」


「あはは、恭介ったらどうしたの。いつも絶対間違えないのに。」


「あれ、みやび、みやこ?じゃあ、今の演技はみやび?」


こくと頷くみやびは恥ずかしそうにしている。


「へえ、知らなかったなあ。みやびもこんなに演技ができるなんて」


「そうそう、ママも他の人たちも雅の凄さを分かってないの。

 恭介もまだまだだけどね。」


えー参ったなあ、と言う恭介はこの先ずっと後悔し続ける。


「ねえ、ママ。私ね、みやこちゃんみたいになんでも上手に出来ないけどね」


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


「当たり前でしょ、」


ママの言う通りにしていれば、恭介が、恭介が雅を引き取っていれば

私が死なずに済んだんじゃないかって。


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