premiumed.

@sacura

第1話

あの時死んだのが、私でよかった。



空には藍色の景色が広がっている。

風を吹ぶいた時、サクラが舞った。


少女はどこか儚げな目をしていて、昔を思い出しているようだった。


「やだ、みやび。あんたまだ着替えてなかったの?」


はっとさせる みやびは、焦った様子で服の着替えをしていた。

また怒られる。そう思いながら。


「………ッ!恭ちゃんもう来ちゃった?」


「恭介は今日、急な用事が入ったんですって。だから今日はあんたも一緒に…」


紺色の可愛くもないトップスのボタンを、鈍くしているのが憎たらしい。

一応の母親である佐伯冴子は少し見つめた後、ボタンを止めるのを手伝ってあげた。


「………ほら、ボタン留めてあげるから貸しなさい」



外には桜が舞い落ち、綺麗だなあ。とみやびは思った。


「ねえ、みてママ、さくらが……」


みやびは嫌われているんだなと気づく。

これから私は死んでいくんだと悟った。


「やだ、さっきの風、春一番かしら」


「ねえ、みやこちゃん暗くなる前に「ねえ、ママ」


「あの日もこんなふうに桜が咲いてたよね」


「あの日っていつ……」


「私が生まれる前、」


涙袋をつけた母親は目を大きく開けた。


「前に私が良い子にしてなかった時も、こんなふうに桜が綺麗だったの」


「でも、しょうがないよね」


「前のあたしは駄目な子だから」


「ママもどうしようもなかったんだよね」


「ママ」


しゃがんでいる母親はとても悲しいと思わない表情で立ちすくんでいる。

いや、座っているのか。私は手を握り、ぎゅっとした。


「今度はいい子にしてるから私を捨てないでね。」


今度は私が殺される番だから。

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