幼馴染は雪女〜苦節20年、ようやく付き合えた幼馴染がヤらせてくれない〜
穂村大樹(ほむら だいじゅ)
第1話 幼馴染は雪女
「----ごっ、ごめんっ! ちょっと待って!」
「ブヘェア⁉︎」
幼馴染で俺の彼女になったばかりの
「えっ、今どう考えてもそういう雰囲気だったよな……?」
「たっ、確かにそういう雰囲気だったし、私もヤる気満々で雰囲気醸し出してたんだけど‼︎ でもちょっと待って‼︎」
よかった、最初から嫌がっていたというわけではなくて、流石にヤる気ではあったんだ……。
「ヤッ、ヤる気満々だったのに拒絶したってことはヤる直前になってやっぱり体の関係を持てるほど好きではないって気付いたってことか……?」
「ちっ、違うの‼︎ そうじゃなくて、その……」
「……そうだよな。ごめん。いくら雰囲気ができあがってたからって付き合ってすぐそんなことするなんて考えられないよな。俺が悪かった。もう少し深雪の気持ちを考えるべきだった」
「違うの! そういうことじゃなくて!」
「いや、いいんだ、いいんだ別に。深雪は何も悪くなくて、悪いのは全部俺なんだから--」
「----私、雪女なの‼︎‼︎‼︎‼︎」
「……は?」
これは長年自分の幼馴染は普通の人間だと思って過ごしてきた--というかそもそも人間以外の概念なんてあるとも思っていない俺が、人間だと思っていた幼馴染が実は雪女だったという摩訶不思議で冷徹な、それでいて春の日差しのように心温まるラブストーリーである。
◆◇
「うん……。いいよ。私も
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎‼︎」
大学4年生の俺、
今日はクリスマスイブ。
俺にとってこれまでにもらってきたどんなに高価なプレゼントよりも深雪と付き合えたという事実は最高のプレゼントになっており、喜色満面の表情で深雪の部屋を飛び回った。
「そっ、そんなに喜ばなくても」
「いや喜ぶって‼︎ これでもまだまだ喜びが足りないくらいだわ」
「ふふっ。そんなに喜んでもらえると思ってなかったから私も嬉しい」
幼馴染と付き合えたのが大学4年生になってからというのは、統計的に見ればかなり遅い方だと思う。
幼馴染なら大抵中学生や高校生になればお互いを意識し始め付き合うものだからな。
逆にその時期に付き合うことがなければお互い恋愛的には脈無しで、それ以降恋人関係に発展することは無いと言っても過言ではないだろう。
だから、大学4年生になってようやく付き合うことができた俺たちは特殊な例だと思う。
小さい頃から深雪に想いを寄せているにもかかわらず、俺が深雪に告白をするのが大学4年生になってからになってしまったのは、ひとえに深雪との関係性を壊したくなかったからだ。
幼馴染という関係があるからこそ保たれている俺と深雪の関係。
その関係を軽はずみに踏み越えようとして、深雪との関係が一気に崩れ去ってしまうのを俺は恐れていた。
じゃあなぜ大学4年生で深雪に告白したのかというと、深雪の関東企業への就職が決まり、離れ離れになることが決まってしまったからだ。
このまま気持ちを伝えなければ、俺と深雪の距離感は物理的にも、そして感情的にも離れることになってしまう。
そう考えた俺は意を決して深雪に告白し、見事に成功した。
大学4年生になるまでずっと深雪への想いを胸の奥に秘め、大きく育ててきた俺が大声を上げて深雪と付き合えた喜びを表現するのは無理もない話なのだ。
----深雪と付き合う。
それは俺が長年夢見てきたゴールであり、スタートでもあった。
深雪とはあくまで幼馴染という距離感を保ってきたわけだが、小さい頃から深雪に想いを寄せていた俺が、深雪と幼馴染以上の関係になったときにあれをしたいこれをしたいと色々な妄想を膨らませていたのは言うまでもないだろう。
深雪と付き合って、手を繋いで、抱きしめて、唇を重ね、最後には体を重ねて……。
そんな妄想を繰り返しながらも、俺は深雪に想いを寄せ始めた幼少期から大学4年生になるまでの20年以上もの間、幼馴染という距離感を保ってきた。
そしてついに幼馴染という一線を踏み変えた俺に、これまでと同じように幼馴染の距離感を保てというのは無理な話だった。
「深雪--」
「えっ、ちょっ、匠紀……? きゃっ--」
俺は感情のままに深雪をベッドの上に押し倒した。
付き合ってすぐに体の関係を持とうとするなんて信頼を失ってしまいかねない行為ではあるが、俺と深雪の関係はもう20年以上も続いている。
その年数を考えれば、こうして付き合ってすぐに体の関係を持ったとしても体目当てだとは思われず、許しを得られるはずだ。
「……ごめん。俺、もう……」
「……いいよ。匠紀なら」
「深雪っ--」
深雪が恥じらいを見せながらも俺を受け入れてくれたことが嬉しくて、一気に気持ちが昂った俺は感情に身を任せて深雪を抱きしめた。
今日は今年一番の冷え込みで窓の外にはたくさんの雪が舞っている。
とはいえ、部屋の中は暖房がついており、俺は体の芯から熱を感じている。
しかし、なぜか深雪の体は冷たい。
深雪の体が冷たい理由は俺にはわからないが、そんな冷たい深雪の体を温めてやれるのは俺しかいないと思った。
「匠紀、匠紀っ」
「深雪、深雪っ」
しばらく抱きしめ合い、感情の昂りが頂点に達した俺は一旦深雪を抱きしめるのをやめ、ベッドの上で深雪の上に覆い被さるようにして深雪の顔を見つめた。
「深雪っ、好きだっ」
そして、俺は吸い込まれるように深雪の唇へと自分の唇を近づけた。
「----ごっ、ごめんっ! ちょっと待って!」
「ブヘェア⁉︎」
俺が深雪を抱きしめるという段階を次の段階に進めるためにキスをしようとした瞬間、深雪は両手を前に突き出して俺の顔を押し除けた。
「えっ、今どう考えてもそういう雰囲気だったよな……?」
俺は状況が飲み込めず、困惑するしかなかった。
「たっ、確かにそういう雰囲気だったし私もヤる気満々だったんだけど‼︎ でもちょっと待って‼︎」
「ヤッ、ヤる気満々だったのに拒絶したってことはヤる直前になってやっぱり体の関係を持てるほど好きではないって気付いたってことか……?」
「ちっ、違うの‼︎ そうじゃなくて、その……」
そうだよな、付き合ってすぐに体の関係を持とうとすれば嫌がられるとわかっていながら、これまで20年以上良好な関係を築いてきたことを言い訳に体の関係を持とうとしたのだから、嫌がられて当然である。
「……そうだよな。ごめん。いくら雰囲気ができあがってたからって付き合ってすぐそんなことするなんて考えられないよな。俺が悪かった。もう少し深雪の気持ちを考えるべきだった」
「違うの! そういうことじゃなくて!」
「いや、いいんだ、いいんだ別に。深雪は何も悪くなくて、悪いのは全部俺なんだから--」
「----私、雪女なの‼︎‼︎‼︎‼︎」
「……は?」
幼馴染による突然の告白に、俺は会いた口が塞がらず、ファンヒーターの運転延長を促す音だけが鳴り響いていた。
※この作品はカクヨムコンテスト10(短編)応募作品です! 全3話を予定しています!
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