ビッチの姉さんに弟の僕は清廉な交際を申し込まれる

陸沢宝史

本編

 明かりが灯る部屋でエアコンの稼働音が静かに鳴っていた。エアコンから送られる風によって部屋中は暑さを感じさせない涼しさとなっていた。もしエアコンがなかったら窓から照りつける太陽の熱によって漫画を読む気力など無いだろう。


 僕はベッドに腰掛けながらラブコメ漫画に目を通す。最近買ったタイトルだが作品のファンとなり全巻購入していた。


 今の両開きのページを見終わるとページを捲った。一人で漫画を読む時間は快適だ。扉の外の方からドアノブを動かす音が聞こえた。その音に気がついた僕は扉の方を見る。するとノックもされずに扉が開いてくる。


「誰?」


 突然の出来事に驚いて声を漏らす。目の前にはカールの掛かった黒髪ロングの姉さんの科弥乃かやのがいた。

 上は五分袖のノーカラーシャツと下はロングスカート。左手にはハンドバックが手に持たれていた。


 外から帰ってきたのだろうか。ノックもせずに入ってくるとは入る部屋を間違えたのか。


 姉さんは僕を見つけるとタタタと早歩きでこちらに進みながら、

幸也ゆきなりわたしと付き合って」

 と言ってベッドの前に座り込んだ。


 無断侵入してきた姉さんの言葉に僕は危機感を覚える。漫画を脇に置くと、


「付き合って何に」


 僕は落ち着いた声で姉さんに尋ねた。


「付き合っては付き合ってだよ」


 姉さんはふざける様子もなく真顔でそう返してきた。


 正確な答えが貰えない僕は眉間に皺寄せ、

「だから何にだよ」


 僕の主張したいことが伝わったのか姉さんは失態に気づいたような顔をしてから、

「言い方変えたほうがいいか。わたしと交際してほしいの」


 ムードもないこの部屋で抑揚もなく言った発言を受けた僕は目を大きく開いてしまう。


「姉さん。僕、弟だよ。それ理解している?」


 姉さんの言葉が言い間違いであってほしかった。姉妹で付き合う発想など僕にはない。そもそも世間体的に無理だ。


 だが目の前にいる姉さんは発言の深刻さに全く気づいていない表情をしていた。


「それがどうかしたの」


 返ってきた言葉を聞いて姉さんを見損なってしまう。この発言を万一両親が聞けばきっと怒鳴られるか泣かれるかのどっちかだ。


「世間体というものを考えろ」


 ベッドから立ち上がった僕は姉さんを見下ろして強い語気で叱った。これで少しは反省してくれればいいが、弟に交際を申し込み非常識な姉は何故か不満そう唇を尖らせてから、

「別に血は繋がってないし問題ないじゃん」


 姉さんの言い訳に僕は呆れてため息を付いた。ベッドに力なく腰掛けると、

「義理でも姉弟なんだから、世間の目は厳しいよ。てか姉さんなら他にも男いるだろ。僕に交際を申し込む訳が理解できない」


 僕と姉さんは義理の兄弟だ。母が僕と姉さんは父と血が繋がっている。僕が五歳のときに母が父と再婚した。それから十四年が経過した。大学四年生にもなった姉さんからこんなことを頼まれるとは想定外過ぎた。


 切れ長の目の姉さんは美人でモテる。今までも何度も交際話を聞かされてきたものだ。

「ほら、わたしってセックスするの大好きでしょ。だから男の人と付き合うとセックスばかりしちゃうの。なんなら付き合う前から寝ちゃうし。けどそういう恋愛に最近疑問を覚えてきて、だから幸也なら清廉な交際ができるかなと思いまして」


 ビッチな姉さんが「清廉な交際」という言葉を使うとは弟に交際を申し込むといい今日は様子がおかしい。


「いやそれこそ他の男から選べよ。姉さん知り合いは無駄に多いんだから」


「いやわたしがビッチなの知れ渡って周りの男の人はそういう目で見てくる。まあこれはわたしが悪いんだけど。その点幸也は貞操概念高いし、彼女がいたのに未だに童貞。だから信頼できる。だからお願い」


 姉さんの両手を合わせるとパチっと音が鳴る。頭を軽く下げてお願いされている訳だが何故姉さんは僕が童貞だと見抜いているのだ。確かに高校一年のときから一年間交際した彼女とは肉体関係はなかった。それどころかキスだって僕から求めた回数は少ない。


「セックスのしすぎで発想がおかしくなったのかな。てか僕のこと好きなの」


 そもそもの話、姉さんは僕に好意を持っているのか。流石に交際を申し込む以上好意がないと問題がある。付き合うというのは最低でも片方に好意がないと成り立たない。愛がない恋人など脆い関係でしかないからだ。


「好きじゃないよ。当たり前じゃん。まあイケメンだし付き合うなら全然ありだよ」


 何の躊躇いもなく返事をする姉さん。イケメンと評価されたのは姉とは言いえ嬉しかった。ただ僕は姉とは恋愛観が絶対に噛み合わないと確信せざる得なかった。


「イケメンって、中身はどうしたの」


「別に寝るだけなら中身はどうでもいいじゃん」


「まさかセックスのためだけに浮気とかしてないでしょうね」


 姉さんの倫理観を考えれば今までにもかなりの回数、浮気をしていそうで怖くなってきた。


 姉さんは不服そうな眼差しで僕を見据えると、

「わたし浮気はしたくないから彼氏がいるときはちゃんと彼氏とだけしてたよ。どう、わたし浮気はしないからその点を安心して付き合えるよ。だから付き合って」

 とまた手を合わせて頼んでくる。姉さんの倫理観が少しはあることにほっとしつつも好きでもない相手に告白することを許せない僕は、

「やっぱり好きでもない相手に交際申し込むとかありえない。部屋から出ていけ」


 声量を抑えつつ声を荒げ扉を指差した。姉さんは慌てるように首を何度も振りながら、

「絶対に交際してくれるまで出ていかない」

 と駄々を捏ねてきた


 姉さんの年齢が二十二歳であることを頭の中で確認し、行動の幼さに呆れ返る。


 僕は目を細め姉さんを睨むと、

「はあー。一つ聞きたいけどなんでそこまでセックスが好きなの。我慢すればいいだけじゃん」


 セックスしたことがない僕からすればそんなの我慢すればよかった。性欲があれば一人ですればいい。なんで相手を探すのかまるで理解できない。


「だって気持ちいいもん。我慢なんてできないよ」


 姉さんは興奮気味な声でそう言ってきた。今まで聞いたことのない声に僕は顔を引きずった。


「いや僕と付き合う目的ってセックスから中心の交際から脱却するためだよね」


「うんそうだよ。だからその辺りを幸也に見張ってもらいたいんだ」


 姉さんの声は落ち着いたものに戻った。さっきの声は一体何だったんだ。


「それなら僕と付き合わなくてもいいじゃん。姉さんが朝帰りしないよう対策とか考えるからさ」


 交際しなくても姉さんと逐次連絡を取り合って行動を監視することは可能だ。


「それはいや。わたし彼氏がいないと寂しいもん。今だって一ヶ月も彼氏いないから辛いもん」


 わがままを言うような口調の姉さんに僕は呆然とした。この人セックス以前に恋人がいないと生きていけない人なんだ。それでも一ヶ月ですら我慢できないとはどれだけ恋人という存在に依存しているんだ


「僕なんてもう二年以上は彼女いないんだよ。一ヶ月ぐらい我慢しろよ」


 僕が姉さんに手厳しく言うと、姉さんは僕に近づいて、

「そんなことしたら生きる気力がなくなっちゃうよ」


 両手で僕のジャージのボトムから掴みながら嘆いてきた。


「本当、面倒な姉だよ。全く」


 僕は呟いた。この姉さんは一旦セックスからも恋愛からも脱却しなければならない。けど本人は恋愛から離れるつもりはない。一体どう対策を取ればいいんだ。


 それにしても姉さんはボトムから離れようとしない。てかさっきから姉さんの視線が僕の目の方を向いていない。


 僕は姉さんの視線の先を目で追った。すると僕の股間を凝視しているのだ。


 姉さんの行い僕は目を丸くして、

「姉さん聞きたいけどどこ見ているの」

 そう尋ねると、姉さんは僕を見ずに、

「幸也のジャージだよ」

 と愉悦な声で答えた。


 セックスから脱却するため僕に清廉な交際を求めた姉はどこにいった。こいつ完全に僕に欲情している。すぐに手を打たなければ。


 僕は目を瞑り両手で頭を掻きながら対策を考える。すると立ち上がった音がした。その後静かな足音が数歩こちらに寄ると耳元から囁き声が聞こえてきた。


「幸也とエッチな話してたら我慢できなくなってきた。ねえちょっとだけしよ」


 姉さんから誘われた僕は目を開けた。立ち上がった姉さんが腰を曲げ顔を僕の耳元に近づけていた。


 僕はベッドシーツに尻を引きずるように後ろに移動した。


「無理に決まってるだろ。そんなことしたら本当に父さんや母さんを悲しませる」


 乱れ気味な声で姉さんを説得する。両親が悲しく顔を思い浮かべると唇が震えてきた。


 姉さんの瞳は本気だ。僕が抵抗しなければ確実に肉体が一つになってしまう。


 姉さんはベッドに上がってきた。上から二つのボタンを外す。まだブラジャーとかは見えない。


「黙っていれば大丈夫。ねえエッチ気持ちいいよ」


 色っぽい声で姉さんは僕を誘惑してくる。本来弟に対しては絶対に出さない声だ。その声が伝わった脳は思考力が鈍っている気がした。


 僕は首を振りながら、

「僕は姉さんとエッチだけは絶対にしない」


 喉から声を出してそう宣言した。だが声には勢いがなかった。


 姉さんはボタンを半分外しながら更に僕に接近してくる。シャツからは姉さんのブラジャーとそして谷間が見えた。このとき僕は姉さんの胸の大きさを思い出した。姉さんの胸はかなり大きい。他が相手ならもう興奮しているだろう。けど相手は姉だ。興奮などしたくない。


 だが僕は姉さんの顔を見て思った。血が繋がっていない。それは顔が似ていないことだ。もし親が再婚していなかったら僕達は赤の他人同士。そう考えると下半身が急激に熱くなっていった。


 姉さんはシャツのボタンを全て外してしまった。僕の目は本能的にブラジャーに傾いてしまう。


「わたしFカップなんだよ。触りたいでしょ」


 Fカップと説明され、僕の心の中は姉さんに支配され始めた。巨乳だと分かっていても実際にサイズを教えられると余計に興奮してしまう。


「触りたくないよ。胸が大きいとかどうでもいいし」


 まだ残っていた良心が僕にそう言わせた。だがもう僕は姉さんの体に落ちかけている。


「わたしに欲情している癖に」


「してないよ」


 姉さんの問いかけに小声で返事をした。


 姉さんはシャツを脱ぎ捨てた。ブラをつけた姉さんが完全に目に入った。もう姉さんを姉として見れなくなりつつあった。


「見たいって言えばブラも外すよ」


 その一言は脳を更に刺激してくる。「見たい」と言いたい。だが頭の中に普段の姉さんの顔が思い浮かんだ。いま手を出せば姉弟という関係が崩れる。


 頭の中が少し涼しくなった気がした。


「もう部屋に帰ってくれ」


 僕は淡々とそう姉さんに告げた。姉さんから離れるためベッドの奥へと逃げていく。だがすぐに背中に壁が触れた。


 姉さんは僕との距離を縮めてくる。恐らく手を伸ばせば姉さんの胸に触れられてしまう。けど僕はそれだけは避けたい気分だった。


 姉さんの片手がボトムスに触れる。相手の喜ばせるようにボトムスを優しく撫でてくる。


「好きなだけ揉んでいいのよ。本当は幸也もそうしたいんでしょ」


 姉さんは怪しく微笑みながらそう語りかけてきた。


 僕は布に触れた右手に目をやった。今、手を伸ばせばあの巨乳に触れられる。それどころか美人の女性と寝られる。


 家族とか姉弟と今はどうでもいい。うん触ろう。


 誘惑に負けた僕は右手を姉の胸に伸ばしてしまった。


 床に僕の衣類が散らばっている。漫画もいつの間にか床に落ちていた


 床の上では立ちながらスカートを履く姉さんがいた。上にはシャツを着ていた。


「幸也、後で空いている日教えて。わたし行きたいデート先あるから」


 スカート履き終えた姉さんが僕に語りかけてくる。ベッドの上で寝転がる僕は、

「分かった」

 と気力のない声で言った。


 姉さんはそのまま扉を開け部屋から出た。


 扉が閉まる音がすると僕は天井を見上げた。


 僕は結局姉さんと最後までした。コンドームは姉さんのハンドバックに入っていたものを使った。普段から持ち歩いているようだ。


 そして行為中に姉さんから改めて交際を申し込まれ了承してしまった。僕は姉さんは好きではない。だがあの体をまた堪能できるなら付き合うのも悪くはなかった。むしろ本望だった。


 それにしても清廉な交際はどこにいったのだろう。結局弟である僕ですら姉さんの誘惑に負けた。これで姉さんはまたセックスと恋愛から逃れられない生活を送る。


 僕達の関係に愛はない。それ故に長くは続かない気がする。もし別れたら姉弟の関係は一生ヒビが入るのかもしれない。それは嫌だ。姉さんと離れたくはない。だから僕は姉さんにこだわりに続けていく気がした。

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