ルール

 動画を見るだけで検査できる適性って何よ?


 俺は巨大なスクリーンを目にして、首を傾げたが――映し出された動画を見て、抱えていた疑問はあっさりと氷解した。


『貴方が一番大切にしているのは?

 A家族 B恋人 C親友 Dその他』


『貴方の人生を豊かにするのは?

 Aお金 B人 C趣味 Dその他』


『貴方は指揮官です。多くの仲間の命を奪った敵国との戦争に勝利しました。捕虜となった敵国の指揮官をどうしますか?

 A処刑する B味方に引き入れる C自由にする Dその他』


『貴方の好きな動物は?

 A犬 B猫 C豚 Dその他』


『達人が争いました。勝者は?

 A剣の達人 B槍の達人 C斧の達人 Dその他』

 

 などなど……。


 流れてきた動画の内容は、4択形式の様々な趣旨の質問だった。


 ポイントは、すべての質問においてDに記された内容が――『その他』であること。そして、シンの言う通り『答える』のではなく『観る』ということだ。


『観た』ときに頭の中で回答してしまったことを答えとして適性検査をするのだろう。


 言葉に出しては上手くまとめられないが、イメージとしてなら答えられた、そんな『その他』の回答も多かった。


 回答の組み合わせパターンは実質無限だ。


 しかし、最新技術とは言え、こんな膨大なデータを処理出来るのか……?


「なるほど、なるほど。ありきたりだけど、これは有用なチカラだ。遣い手次第とも言えるチカラだけど、君はこのチカラを凡庸とするか、或いは非凡とするか……楽しみだね」


 シンは嬉しそうな表情で腕を組みながら、何度も頷く。


「俺が貰える祝福ギフトはもう決まったのか?」

「決まったよ! アオイ、君に与える祝福ギフトは――【千姿万態せんしばんたい】だ」

「せ、せんし……ばん……たい?」


 俺は聞き慣れない言葉に、困惑する。


「千円札の千に姿かたちの姿。万葉集の万に擬態の態で【千姿万態】だ」


 俺は頭の中でシンの言った漢字を並べる。


 千姿万態。


 ふむ……何かカッコいいな。


「おっと、質問は受け付けないよ。時間がないから、次にこちらの世界のルールを説明するよ」


 千姿万態の効果は? と聞こうと思ったが、答えてくれる雰囲気でもないので、俺は黙って頷くことにした。


「うん。聞き分けがいい子は好きだよ。それじゃ、こちらの世界の重大なルールを説明するよ。まずは第一にアオイ、君は唯一無二の存在だ。それは分かるよね?」


 唯一無二の存在?


「そう。仮に君が勇者であっても、村人であっても、アオイはアオイであって、他の何者でもない。つまりは、唯一無二だ」


 なるほど……?


 わかったような、わからないような……。


「まぁ、俗な言い方でゲームっぽくなるけど、キャラクターの作り直しは一切出来ない」

「ってことは、祝福ギフトの取り直しなどは一切できないと……?」

「そうなるね。容姿に関しても髪型を変えるくらいならこちらの世界でも叶うけど、それ以上を望むのは厳しいかな」

「なるほど」


 【千姿万態】がどんな効果か知らないが……取り直し不可なのか……。優れた効果であることを祈るしかないな。


「次に、こちらの世界で死ねるのは2回までね」

「ん?」


 シンの言葉に対しての理解が一瞬遅れる。


「最初は1回でも十分なサービスだと思っていたけど、色々と考慮した結果2回にしたよ」


 普通の人生であれば1回でも死ねば終了だ。それが2回も死ねるなんて大盤振る舞いだ……となってたまるか!


「えっと、シンの言う死ぬっていうのはHPが0になると……みたいなやつ?」

「そうだね」

「つまり、【ライブオンライン】は2回まで死ねると……? 3回死ぬとどうなるんだ?」

「またまた俗な言い方になるけど、キャラクター削除だね」

「ちなみに、削除されたら作り直すことは……」

「さっきも言ったけど、君たちは唯一無二の存在だから、無理だね」


 3回死んだらキャラクター削除、しかも、キャラクター作り直し不可って……どんなオンラインゲームだよ!


「今回はプロトテストだよな? このルールを見直す予定は?」

「んー、ないかな。そんな3回死ぬのが前提みたいな悲観的な考えは捨てて……がんばろ?」


 逆になかなか死なない難易度とか……? それはそれでゲームとしてどうなのか? とも思う。


「じゃ、最後のルールを伝えるね。君たちがこちらの世界に入り浸ると心と身体のバランスが崩れる可能性があるんだ。そこで1つお願いだ。こちらの世界に滞在できる時間は、1日で8時間だけとさせてもらう」

「つまり、1日8時間以上ログインするなってことか?」

「俗っぽく言うとそうなるね。でも、安心して週に2回はこちらの世界に留まる制限を停止するから」

「つまり、土日はログイン制限をしないと」


 ゲームにのめり込み過ぎて、社会不適合者にならない対策なのだろうか?


 条件を出したのは政府あたりか? 世知辛い世の中だ。


「重要なルールは以上っ! 最終日まで生き残ることが出来たら素敵な特典があるから、頑張ってね!」


 ――!


 シンがニカッと満面の笑みを浮かべると、視界がブラックアウトし、奇妙な浮遊感に包み込まれたのであった。

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