(9)異様な挙動

 模擬戦が終わると、さっきまでの緊張感はどこへやら、空気が一変していた。アイゼン部長はどこか満足げで、カティアは元気いっぱい。そしてアルマも肩の力が抜けたのか、穏やかな表情になっている。女性陣が笑顔だと、俺も妙に気が楽になる。


 鉱石研究室のミスリルの塊が小さな荷台に載せられ、試験室へ運ばれていく。俺たちもついていくと、扉の向こうでグラヴァンス教員が目を輝かせて待っていた。どうやらカティアが先に話を通していたらしい。


 …さては、このカティア、最初からアルマが勝つと踏んでたな?同じ部の部長への忠義とかないのかよ、と心の中でツッコみたくなる。でも多分、赤黒い鉱石への興味が勝ってるんだろう。この鉱石がどんな秘密を持ってるのか、自分の名前が歴史に刻まれるような発見かもしれないって興奮してるに違いねえ。


「これが例の鉱石か。」

 アイゼン部長が低い声で言うと、グラヴァンス教員が頷く。

「そうだ。七つの鉱石に反応する特殊なものだ。今回の協力には感謝するよ。」


「予算増額、しっかり頼みますよ。」

 アイゼン部長が軽く笑うと、教員も笑みを返す。信頼し合ってるらしい。


 一方カティアは、ミスリルの塊を運びながら満面の笑みを浮かべている。

「記録魔法もバッチリ起動!さぁ、やっちゃおう!」

 そう言うが早いか、赤黒い鉱石の横にミスリルをゴトンと置いた。


 次の瞬間、不思議な現象が起こった。

 赤黒い鉱石が赤黒い輝きを放ち始めたかと思うと、横に置かれたミスリルの塊が削れるようにして、少しずつ赤黒い鉱石に吸い込まれていく。ただし、立方体の大きさ自体は全く変化しない。ミスリルが拳一つ分くらいの大きさになるまで吸い込まれたところで、立方体の輝きがスッと消えた。まるで、「もう十分だ」と言わんばかりに。


「重さの正体は…そういうことか!」

 グラヴァンス教員が息を呑むように言った。「この赤黒い鉱石は、鉱石を取り込み超高圧縮したものだというわけか…。」


「そ、そもそもこれって、本当に鉱石なんでしょうか?」

 アルマが戸惑いながら口を開く。「特定の鉱石を取り込む仕組みがあるなら、これは魔具の一種なのでは?」


 その言葉に、部屋の空気が凍りつく。全員が赤黒い鉱石を見つめ、得体の知れない雰囲気に圧倒される。…ただの鉱石じゃない。分かっちゃいたが、やっぱり普通じゃない代物だ。俺は無意識に息を呑み、背筋がぞくりとした。

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