魔術学院の七鉱石

チョコレ

序章 北国の鉱石

(1)冒険者の初仕事

 嫌な予感しかしねえ。

 けど、体が動かねえ。


 目の前で、赤黒い立方体が浮き上がる。空間そのものが押し上げてるみてえな動きだ。火の揺らぎっぽいけど、もっと気味が悪い。


 次の瞬間だ。青白い光が全部飲み込みやがった。視界が焼き切れ、耳元で地面が唸る。胸の奥が警報みてえに鳴り続ける。


 直感だけで分かる。何か、とんでもねえもんが目覚めた。俺の冒険者人生、始まったばかりだってのに、ここで終わりかもしれねえ。


 時計の針を少し巻き戻す。これは、北国へと向かう依頼を受けた日の話だ。


 ─


「冒険者として、華々しい初陣を飾るつもりだった。」


 俺の名前はライナス。貴族の三男坊で、王家に連なる七大貴族の一つ――火のアーデント家の出だ。魔法学院をそこそこの成績で卒業して、夢は冒険者として名を上げること。だけど現実は甘くねえ。


 卒業して三カ月。依頼はゼロ。ギルドに登録すれば仕事が山のように舞い込むと思ってた俺がバカだった。


「アーデント家のご子息を危険に晒すわけには…」


 どの依頼にも、家名が邪魔して断られるばかり。肩書きに守られるようなぬるい仕事じゃなくて、もっとガツンとくる冒険がしたいんだ。だけど、それも無理か――そう諦めかけていたその時だった。


 部屋の片隅で放置していた水晶玉が揺れた。紫と黒が混ざった深い光――これは学院長からの魔道通信だ!


 俺はベッドから飛び起きて、水晶玉を掴んだ。


「ライナス君、護衛任務を頼みたい。一年生が北国の採掘行事に参加するんじゃが、君の力が必要なんじゃ。火を操れる君なら、寒い北国で頼れる存在になる。」


 それを読んだ瞬間、脳裏にヒゲじいさんの笑顔が浮かんだ。進路の相談をしたときにこう言われたのを覚えている。


「ワシもかつて冒険者だったんじゃよ。」


 その言葉が、また俺の心を叩き起こしてくる。


 拳を握りしめた。体の奥から熱いものが込み上げる。これだ、俺が求めていた冒険だ。


「やってやる!」


 その言葉は自然と口からこぼれた。久しぶりに全身が燃え上がる感覚だ。北国がどれだけ寒かろうと、俺の炎で道を切り開いてやる!


 こうして、俺の冒険者としての初仕事――北国への護衛任務が決まった。


 だが、この瞬間の俺には分からなかった。この任務が、俺の運命をどう変えるのかを。ただ、今は胸の熱さだけを信じていた。それがすべてだった。

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