第一章:執行少女は探している
第一話 執行少女は忘却した。
資料室の奥。チカチカしたままの灯りだけがあるそこで、黒髪の少女は今日も資料を見漁っていた。吸い込まれるような感覚を与えるその
「……ここまで調べても、まだ見つからないなんて」
この三年間、国営図書館や学園の資料室から事件のファイルや新聞、証言といったあらゆる資料を見てきたのだが、その何処にも『白い長髪の、仮面を被った執行部長』の痕跡は存在しなかった。──三年前の自身の証言と、それを取り扱った新聞を除いて。
「当然ですわ。そもそも
ガラリと部屋の引き戸を開く音がしたと思うと、そこには昨日助けた少女──スイセンがいた。取り調べが終わったのだろう。少し疲れた顔をしていた。
「聞いてたんだ」
「部屋の外まで独り言が聞こえるくらい、大きな声でしたので」
ヒイラギは、入るタイミングを待っていたんだなと思った。
彼女の言う通り、この『
「それだけ希少なら、見つけやすいものだと思ってたんだけどね。……結局は、極限状態にあった私の記憶とこの証言にしか存在がないなんて」
「あの時は大変でしたのよ?あなたの証言が新聞で公開された時、『冬雪家には隠し子がいて……!』だとか『執行部には生徒会が直接的に関わっていて権力がうんぬん』とか、様々な噂に根拠のない陰謀論に……処理がもう大変で……!」
「世間一般では冬雪家しか白髪がいないとなっているんだから、当然飢えたジャーナリズムにマスコミュニケーションの徒は黙っちゃいないでしょう。噂好きの民衆だって。現に、権力の話は貴女が
そんな会話は、チャイムの音によって遮られてしまった。続いて、よく通る透き通った声で「執行部一年のヒイラギさん、至急執行部室まで来てください。報告書の提出が確認されていません」と学内放送で呼ばれた。
「──はあ、仕方のない人だ。じゃあ、お呼ばれされちゃったから。またね」
「……ええ、お気を付けて」
ガラリと引き戸が閉まる。スイセンは、ヒイラギがそのままにしていた資料を見て少し浮かない顔をした。
「『連続不可思議殺人 奇跡の生き残り。 白髪の少女が救った命』……ですか」
静かに、資料のファイルを閉じて、棚に仕舞った。
コンコンコンと、ノックの音が木霊する。
「ヒイラギです。今回の報告書を渡しに来ました」
「どうぞ、入っていいよ」
ガチャリと、金属製のドアノブに重力を乗せて前へ押し込む。
ギギギ……と軋む音が、後から続いてくる。
執行部の部屋には硬めのクッションの椅子が幾つかと、執務用の長机が三つ。内一つは折りたたまれた状態で壁に立てかけてある。
長机で作業をする彼の下に、軽い挨拶を交わしながら書類を提出し、そのまま部屋を後にしようとする。
「少し、お茶でもどうかな」
が、彼──現執行部長であるカエデ部長。──に呼ばれて、足をカエデ部長の方向へと向けなおす。
「そこに座っていいよ」
「ええ、どうも」
私は、このクッションの硬さがあまり好きではない。どれくらい好きではないかというと、正座で一日過ごすのと選ぶなら正座を選ぶくらいである。わからない?まあしょうがないだろう。あれは地面に座った方がもはやマシと言った代物で……
「ヒイラギ、今回の執行遂行、感謝しよう。彼には、多くの学生が迷惑させられていた。襲われた学生たちも報われるハズだ。それに、彼も当分はこれで懲りるだろう」
「はい、ありがとうございます」
「本当は、執行内容に少し突っ込みたい所があったのだが……」
「?どこに問題があるのですか」
「普通は飛び蹴りも顔面にカウンターキックもしないんだよ」
まあ、緊急の場合は許可もなくていいはずですし、名乗った後に抵抗するなら基本的には問題なかったような……などと考えていると、カエデ部長がため息を吐きながら本来の内容を喋りだす。
「……まあ、それに関しては置いておく。君に依頼があるからな」
そう言うと、長机に薄茶色の封筒が置かれる。膨らみと、ガサリという音から、中には複数の内容物があるであろうことは容易に想像できた。
「……これは、依頼人保護処置ですか?」
……が、予想に反して封筒の中身は少なく、差出人の名が無い手紙と、顔の塗りつぶされた少女の写真だけがあった。そんなものを見れば、誰にも正体を知られたくない人間が出したものだと疑うものだろう。
「いや、投函された状態そのままだ。おそらく指紋や皮脂の一欠けらだって付いちゃいないだろうさ」
「しかしこの手紙、簡素ですねぇ。『懐中時計を探してほしい』とだけなんて。写真の女の子は、体格だけ見れば十代前半に見えますね。考えられるのは、娘からのプレゼント・死んだ娘の形見……あとは」
「死んだ妻の遺品とか、な」
この国は、国の体を取ってはいるが、基本は複数の学園が連携して運営している自治領その類でしかない。そのため警察組織も小規模で、各学園の執行部が治安維持であったりを保たせる他に方法がないのだ。
そんなことだから、盗みも殺人も起こるし、闇市だって開場する。
「……私は、この懐中時計を見つけたとして、何処へ送ればいいのでしょうね。ああいや、職務放棄というわけではありませんよ。これは、単なる興味本位です」
「……実は僕もそう思っていたところだ」
「気が合いますね」
「こういうところはな」
「どういう意味ですか」
何はともあれ、私はこの依頼を受けたのだから、遂行するだけだ。
「それじゃあ、受けるから、準備してくるわ」
「あ、ちょっと待った」
ん?と私が振り返ると、金貨の入った革袋が投げ渡された。
「さっきの報酬。渡し忘れるところだった」
「ありがと」
そうして私は少し軋む扉を押し開けて、寮へ足を運んだ。
時刻は十二時。勿論、世間一般では二十四時とされる方の。
闇市は基本的に、二十四時~二十五時までの一時間を開場時間としている。それ以上は、会場・開き手・商品といった様々なバレたら不味い情報がわんさかある。特に、私のような権力側の人間にはボーナスステージである。
さて、そんな場所に執行部の名を掲げて入ってしまえばそれはただの一斉検挙でしかない。つまり私は執行部であることも、学園の(それも特に生徒会に繋がりがある組織の)人間であることも悟られてはならないのだ。
だから私は変装している。……何故そんなことをしてまで闇市へ?
決まっている。大抵の探し物、遺留品、紛失物はここにあると相場が決まっているのだから。誰が言ったかシルクロード。
「あ、すいません。こういった感じの懐中時計を探しているのですが……」
「うーん、すまんな。ウチは骨董品専門なんだ」
「あっ……すいません……」
「まあいいさ。闇市は初めてなんだろう、お前さん。見ない顔だしな」
……それはそうだ。本当なら利用者じゃなくて告発者だし。
「……えーっと、じゃあ、懐中時計とかが売ってそうなのは何処の露店に」
「……そうだなぁ。……あ」
「知ってるんですか?」
「確証はないがな、アイツの仕入れ品の中に、こんくらいの大きさの時計があったのを見た。だが埃被ってたりしてるから誰も買ってくれないんだと愚痴をこぼしてた。場所は──」
……上手くいった。幸先が良いな。
「らっしゃっせー。大体なんでも揃ってるよ」
顔に傷の付いた男が、店番をしていた。そういえば昨日、このくらいの男の顔面に蹴りをかましたな……などと思いながら写真を取り出す。
「……ええと、この写真みたいな時計があると聞いてきたのですが」
「嬢ちゃん、物好きだね。あるある。コイツ、中々売れなくてさ。腹立ってたんだ。銀貨三枚だったが、銀貨一枚にまけてやる」
「ありがとうございます。それじゃあ、買わせていただきます」
銀貨が一枚、男の手に渡って、汚れた懐中時計が、私の手に移る。男は、私から手渡された銀貨を仕舞う時、背中が痛いのか何度もさすっていた。
懐中時計は見たところ、写真と同様に見える。あとは何か所か探して、今日は……。
「……あの顔、何処かで」
ぼそりと、聞こえちゃいけない言葉が聞こえた気がした。
そういえば、声も聞いたことのあるような。
「なああんた、俺と会ったことないか?」
「……い、いえ。今回が初めてですが」
「ふーん……昨日、俺を蹴り倒したヤツによく似てるような気がするんだがな……」
「酷い人がいたものですね」
完全に一致した。顔の傷も、背中をさすっていた理由も、声に聞き覚えがあるのも。
昨日スイセンに迫って襲おうとしていた男その人だったからか……!
「……ああ。そうだな。ヤツがいなけりゃ、交渉も楽に進んだのに……」
交渉……?確か、スイセンの証言、いや迷惑をかけられたといった生徒たちは皆襲われそうになったという類の証言しかしていなかったハズ……。
ヒイラギは、溢れ出る正義感と好奇心を抑えることが出来なかった。
「交渉、ですか?ちょっと、詳しく聞いても?」
サングラスを、下に傾けた。それを見た男は、ハッとしたような表情をする。
「お前、まさか……」
「声を上げようだなんて思わないで。また蹴るわよ」
「ッ!……」
余程、私の蹴りに嫌な思い出があるようだ。作ったのは私に他ならないが。
「交渉、についてだったな。……これを言えば、俺を見逃してくれるのか?」
「いえいえ、勘違いしているようですが、別に検挙するためにここに来ているわけではありません。それは、コレが証明しています」
懐中時計を目の前に持って、男に見せる。きっとこうすれば、私用で買ったと思うことだろう。
「ええ、これは交渉を知るための契約、のようなものです。さて、喋ってもらいましょうか」
男は観念したのか、ため息を吐いてから話し始めた。
「交渉、そうだな。とある外国製品の密輸入……ここいらじゃ禁止されてるものも含めて、何度もしてきた。学園って狭い檻に囲われた雛鳥には、少々過激すぎたようだが」
密輸入……?!禁止されているモノ……最悪なところじゃあ薬の類か……!本当なら、今すぐ生徒会権限で執行するべきだ。が、今の状況、自身で建て信じさせた
いくら正体がバレそうだからと、あんなこと口走らなければ……!
「……契約は、お利口さんだからな。守らないとな?」
……チッ、こっちの思ってることに気づいたか。検挙するために来ている訳でないということが嘘となる、となれば必然的に執行部への評判……更にそんな人間から物を買ったという事実があれば、学園一つの権威が失墜する……!しかも証言者が皆嘘を吐いているということは、それだけ不利……!
ここは……帰るが吉か……。
「……。私の蹴った身体が痛むうちに伝えておきます。二度目はないと心得てください」
私はそう言って、何もなかったかのように帰路に着こうとする。
「おいおい、ここまで言って、逃がすとでも?」
見れば、男の仲間だろう。いつの間にか、私を囲んでいたようだ。全部で七人。その内屈強なヤツが三人ほど。だが一番に警戒するべきは二人。私が蹴り倒した男と、私の後ろの女だ。ポケットに片手を突っ込んでいる。恐らく、さっき言っていたモノがそこにあるのだろう。女は、男を引き取りに来たヤツだ。グルだったとは。あんなに真面目そうな応対をしていたのに。人は見かけによらない、とはこのことか。
「ふぅ……」
「おいおい、この人数差でやる気かよ?」
「あまり舐めないほうが良いわよ?お嬢ちゃん」
五月蝿いなこいつら。自分が有利になったら口数増やして。恐らく、この内四人までは確実に仕留められる。残り三人は、どうだろう。そこまで持つか。
だが、立ち止まって伺い続けているよりはマシだろう。何もしなければ何も成せない。
「生徒会権限です。──あなた達を、執行します」
思えば、ここが分岐点だったのかもしれない。そう、見ていた私は思った。
「たぁっ!」
彼女の放った蹴りが頭部に当たり、ドガッと鈍い音がした。
ヒョロガリが一人吹っ飛んで、背中を打った壁にヒビが入る。あとは六。
ヒイラギは前方へと『跳躍』して、屈強な男たちへとその身を詰める。
「なっ!」
速度をそのままに、男に蹴りが飛び、吹っ飛んだ。ヒイラギは男を踏み台にし宙で回転、そのまま着地した。
続いて、両脇にいた二人の男が殴りかかってくる。
「『跳躍』」
風圧が、男たちを襲う。そこにヒイラギは居なかった。
「野郎、どこに行きやがった……!」
「ここだよ」
ヒイラギの声が上から聞こえたのとほぼ同時に、男たちの意識がブラックアウトした。
「……やはり、お前は強いな」
「……私がこの程度で倒されたら……あなたの面子も立たないでしょう?」
舌打ちが聞こえてくる。そうやって冷静さを失わせれば、ある程度こちらの思い通りに動かせる。
「ふ、だがな。お前の使っているスキルの種は割れてんだよ!」
男がポケットから注射器を取り出して、こちらへ突っ込んできた。
「なら大人しくしておくべきで──」
待て。残りの二人は?
「『跳──!」
「遅い!」
ガシリと、身体を抑えられる。発動しようとした『跳躍』が逆方向の力に打ち消される。
「しょうがないさ、誰しも一つの事に集中しちゃあ周りの事が見えないものさ。コイツが授業料よ!」
ブスリと、首筋に鋭い痛みが走る。やがて身体に少しの痺れが訪れて、脚に力が入らなくなる。
「『
「よくご存じで、こっちはちょっとすれば解ける正式なお薬さ。でもあれは、正真正銘の薬物だよ、世間知らずのお嬢ちゃん」
男は、速度を緩める事無くこちらに向かってくる。
スキルは、これ以上使い物にならない。紐づいている脚も影響を受けている。もし身体を振りほどいたとて、避けることは不可能に近い。
何か、突破口は……!何処かに、私を導く光は……!
男が眼前に迫る。ふと、ポケットから熱が発せられるのを感じた。熱は私の血管を通り、神経を通り、眼に集まる。視界が赤に染まる。
「さよならだ、正義漢」
私は、この熱を知っている……?
「わたしは、おんなのこだよォ……!」
とっさに拳が前に突き出る。
「ぐぉああ?!」
男が、ゆっくりと吹っ飛ぶのを見ていた。その拳の前には、あの白髪の、仮面を被った少女が変わらぬ姿で存在していた。
少女がこちらへ歩み寄って、私を抑えていた二人を地面に叩き伏せる。叩きつけられた二人の動きもまた、ゆっくりとしていた。
「あなた、は」
「──少し来るのが遅かった、か。眼がもう……いやしかし、ここで良かったとも言えるか」
白髪の少女は私の声が聞こえていないかのように、独り言を呟き続けていた。
「ん、ああ、ごめんね。腕動かせる?」
「腕?」
「そ、できれば手も。ポケットに突っ込んであるソレを出してもらおうかと」
未だ熱を発するポケットに手を入れて、その中にある懐中時計に触れる。
「あっつ……はい、コレですか……ってなんか新品みたいな見た目に……?」
「そうそれ。ふーん、まだ契約前。よかった」
「契約?」
「うん。
少女が、制服のポケットから同じ形状の懐中時計──アーティファクトを取り出して、私の脚にかざし始めた。懐中時計から、赤い光が放たれる。
「……!脚が、動く」
光に当てられた脚が、動くようになっていた。時間に関する魔法、という説明が本当であるならば、抑制薬が効力を無くすまで時間を早めたという事なのだろうか。
本物、であるならば、か。
私が立ち上がると同時に、少女が口を開く。
「ま、こんなものか。私はソレに用があってね。渡してほしいんだよ、ヒイラギ」
「助けてもらったところ悪いですが、遠慮させていただきます」
「そりゃそうか。考古学部が黙っちゃいない。生徒会も」
「それに、不明ではありますが依頼として来たもので。執行部としても面子が立たなくなってしまいます」
「そういえば、そうか」と、少女は小さく呟いた。
「でも、そのために私は来たんだ。契約されないように」
赤光が、辺り一帯を包んだ。
「今ならまだ間に合う。契約していない、今なら」
「それでも、渡せません。依頼、ですので」
瞬間、何もかもが巻き戻るような感覚が身体を襲った。
目が覚める。白く、四角に形どられている天井が、視界を埋めていた。
「やっと目覚めたか。ヒイラギ」
部長の声がする。
「ここは」
「保健室だ。全く、『調査中に密輸犯を発見し、執行した』なんて夜中にいきなり通話してくるものだから。それに、犯人たちと仲良く雑魚寝とはね」
「密輸犯?私は確か……」
「まさか、覚えてないのかい?」
そう言って、部長は生徒会新聞を寄越す。
「『ヒイラギ執行部員が密輸犯を確保 また、証言からこれまで密輸犯が接触していた生徒にも尋問予定』……なんですかコレ」
「本当に覚えていないみたいだね……部員全員を深夜に呼び出す大事だったんだよ……生徒会長も直々に来ていたし」
……ヒイラギは、ただ困惑するしか無かった。そこまで大事になることだったろうか、と。
「あ、部長。この『異常魔力検知』ってなんです?どうやら私がいたところで起きてたみたいですけど」
部長は頭を抱えて答える。
「一部分、君たちがいた場所だけ、時間の進みが遅かった。時空間異常が起きていた訳だ。現代の魔道技術では、そんな規模の魔法を制御することは不可能。で、試しに残存魔力測定をしたらアーティファクトと同等の魔力量を検知した……というだけだ」
「ふ~ん」
「覚えてないだけで君も当事者だからね?!」
ヒイラギは、寝起きであまり回っていない頭で考える。確か、カエデ部長は記憶を見れたよな……丁度、失ってたり忘れてたりする記憶だけ……。
「部長、『
「アレって、ちょっと使うだけでも本当に疲れるんだけど?」
「そうですかおねがいします」
「否応なしか……そこまで、読ませたい記憶があるんだね」
「ええ。もしかしたら、追い続けたものにたどり着けるかもしれないので」
カエデは、ヒイラギの言葉に一瞬、目を見開いた。
「長年の謎が、ようやく解明できると。じゃあ、やるしかないよな……!」
カエデが、ヒイラギの頭部に左の掌をかざす。
「『記憶読』」
カエデの掌から、白く淡い光が発生する。
「……ジクジクしますね、頭」
「ちょっと我慢してて。そういう使用だから」
掌が、上へ上へと動かされる。
「……こんな状況でよくやったな。もういっそ実技主体の方に移すのも検討するか……?」
「え、ヤですけど」
「だろうな……ん?クリアラーなんて、どこで仕入れてきてるんだコイツ等……それにあの男の持ってるのは
「知りたくなかった真実」
「まあ無事だったんだしいいんじゃ──ん?」
カエデの顔が、途端に険しくなる。まるで自身の知る結果・予想と違う何かが出てきた時のような。
「……!そうか、お前が……うっ」
掌から光が霧散し、煙が吐かれた。同時に、顔色が悪くなったカエデが、ヒイラギの使っている掛布団に頭を伏せた。
「カエデ部長?!」
「……あぁ、大丈夫、だよ。……確かに、僕も見えたよ」
カエデは起き上がると、ヒイラギの頭を撫でた。
「えっ何を」
「……いや、長い間信じられないような事を抱えていたんだなと」
ヒイラギは、部長もあの白髪の少女を見たのだと理解した。
「……そうだ、部長。依頼、どうなってます?」
撫でが一通り終わった後、ヒイラギは懐中時計の依頼を思い出して、どんな状況になっているのかを聞いていた。
「ああ、それなんだがな、謝礼金と君宛ての手紙が同封されてたよ」
手紙を受け取りながら、妙なこともあるものだとヒイラギは思った。懐中時計を届けられたわけでもないのに。
「まあ、これで依頼は解決したという事になっているよ。明日から業務に戻れるなら、依頼があるよ。調子を取り戻すなら丁度いいくらいのが」
「今日も執行部は働き詰め、と」
「そうだな」
「それじゃあ」と、部長が扉を開け部屋を出ていく。
受け取った手紙を開く。そこには、簡単な謝礼の文が書き連ねてあった。
そして。
『黒い鳥には気を付けろ』
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