第2話 ザカライアが大嫌いなジェーン

※ジェーン視点



 私がお仕えしているエステルお嬢様は、由緒正しいマグレガー公爵家の一人娘だ。マグレガー公爵夫妻はお嬢様を目に入れても痛くないほど溺愛し、なんと政略結婚ではなく、恋愛結婚を許すことにした。つまり、好きな男を選べとおっしゃったわけだ。で、箱入り娘のエステルお嬢様が選んだのは……いやもう、どうしてこうなった? あろうことか、はずれもいいところのザカライア・ハモンド子爵の三男に恋をしてしまわれたのだ。


 ――あぁ、腹が立つ! ザカライアなんて敬称をつけるのも嫌気がさすわ。あいつ、で充分よ、あいつで!


 エステルお嬢様があいつに出会ったのは、王立貴族学園でのことだ。スペンサー王国では16歳になると3年間、貴族の子弟が学園で学ぶことを義務づけているんだけど、そこで再会しちゃったらしい。


 お嬢様が王立貴族学園に通われている間、専属侍女である私はお側に仕えることができなかった。学園には寄宿舎があり、侍女を伴うことが校則で禁じられていたからだ。そこがなんとも悔しいところだ。お嬢球に付き添っていたら、全力であいつとの交際を阻止したのに。


 「ザカライア様は覚えていないとおっしゃったけれど、私はとてもよく覚えているわ。だって、あの水色の髪と瞳は忘れるはずがないもの。スペンサー王国でもあの髪色はザカライア様だけですものね」


 なんでも幼い頃、王宮で迷子になったエステルお嬢様を慰めてくれたのがあいつだったとか。その記憶がよっぽど強烈だったのか、その影響で美化されまくって、あいつが光り輝く王子様にでも見えていたんだろうね。――実際はただの子爵家の三男なんだけどね。


 いやいや、待って待って! 現実を見ようよ、お嬢様! 使用人仲間たちの間でのあいつの評価なんて「貴族の中では平均よりちょい上」程度だよ? 身長だってそれほど高くないし、王城で文官をしているもんだから身体なんて鍛えてない。私から見れば、男としては軟弱そのもののひょろっひょろの体型だけど、エステルお嬢様の目には「優美でほっそりとした姿」に見えるんだとか。


 ――恋は盲目って本当に怖いわ。脳内ベールがかかっちゃってるんだろうなぁ。私の大事なエステルお嬢様、どうか一刻も早く目を覚ましてください! 本当に、お願いだから……!





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