ナニコレ?〜万能粘土と不器用な俺の異世界生活〜

扇太郎

第1話 王様、転生と転移間違えたけどわざわざいい直す?

「……は?」

 

 朝飯を食っていたら突然光に包まれて気がつくと見知らぬ場所に座っていた。

 

「何が起こった……?」


 落ち着いて周りを見渡すと、足元のフカフカした感触は先程まで座っていた座布団ではなく、色鮮やかなレッドカーペットだった。

視線を上げると、ちゃぶ台も朝食も消え、代わりに短い階段が目に入る。その先には二人の人影。

 一人は白髪の老人で、瞳の青さと彫りの深い顔立ちはどう見ても日本人ではなく王冠のような物を被っている。

 

 いや「のような物」ではなく「THE・王冠」だな。

 ってかもう王様だわこの人。

 マントとか付けてるし椅子も玉座っぽいし、もうファンタジー世界のテンプレ的な王様の見た目なんだもん。

 んでここ城だわ。

 周りも豪華な感じだし、よくわからん鎧とか花があるし、もう城確定でいいわ。

 となると隣の人は大臣か?

 細身で立ち姿もピッとしてるし王様の隣と言えば大臣だろ。

 そして、この状況が何かというと――ズバリ

 

「異世界転生だ!!……熱っ」


 勢いよく立ち上がったせいで左手に持っていた味噌汁がバッシャー!

 湯気と共に絨毯に広がる汁。

 散乱する豆腐とワカメ達。

 王様の顔を恐る恐る確認する俺――笑顔。

 

 ……よかった。

 異世界転生物の王様って結構な確率で嫌なヤツなことが多いので心配したがどうやらこの王様は優しい人のようだ。


 ――急な展開でドタバタしてしまったが、ふと冷静になると俺を見ている二人。

 そして沈黙。途端に気まずくなってきた……。

 何か話さなきゃ!王様に?俺が?あれ、なんか緊張してきた!!やべぇ何話そう。まず挨拶と自己紹介?その前に日本語通じるのかな?日本人じゃないよな!おーけー取り敢えず挨拶だ!いくぞ!!

 俺は右手の箸で自分を指しながら言った。


「はろ〜、まいね〜むいず、こうさく、ずが!」


 我ながらひでぇ英語力だが、名前くらいは伝わっただろう。

 そう思った矢先――


「ご丁寧にどうも、この国の王をさせてもらってるペペロン・チーノと申します。以後お見知り置きを」


 ……日本語話せるのかよ!めっちゃ恥ずかしぃー!

 いや、その前にここが異世界だとしたら英語とかじゃなくて何語も通用しねーわな!!テンパってたわー。

 それに王様のヤロウ半笑いで丁寧に自己紹介しやがって。

 全言撤回、嫌なヤツだぜ。

 恥ずかしさで叫びそうだけど俺ももう30。

 サッと気持ちを切り替えて本題に入ろう。


「俺は異世界転生してきたんですか?」


「察しが良くて助かる。お主は異世界て・ん・い!してきたのじゃ」


 ……殴りてぇー!

 確かに俺は俺、上下スウェット姿のままだし転移だわな。

 転生だと生まれ変わっちゃってるもんな。

 だけどわざわざ言い換える?

 しかも「転移」の部分強調してさ。

 正しい言葉を使わなくても大体のフインキでわかるし現に伝わってるんだからいいでしょ。


「そしてお主を召喚したのには理由があって――」


 ムカつく俺を横目にペペロン王は本題に入るようだ。

 まあ召喚の目的なんて大体見当が付く。

 どうせ魔王復活で世界がピンチ。勇者召喚。はいはい、テンプレね。


「――魔王が復活して世界がピンチ!それを倒す勇者候補として特別な力を授かりやすい異世界人を召喚しよう。ってなったのじゃ」


 ……思った以上にそのままだった。

 多分続きも予想通りだと思うのでさっさと話を進めよう。


「了解した。で、次は俺の適性を見るためにステータス確認ってところだろ?隣の大臣が担当か?」


 そう言うとペペロン王と大臣が驚いたように顔を見合わせた。


「すごいのお主!よく名前がわかったな。そうこの者の名はダイジン。国唯一の三ツ星鑑定士ダイジンじゃ」


「…え?大臣じゃないの?」


「ご紹介に預かりました。ワタクシ街で鑑定士をやっておりますダイジン・エドワードと申します。よろしくお願いします」


…王様の隣にいたから大臣だと思っていたらー。

 大臣じゃなくてダイジンでしたー!!チックショー!!


「もういいや、早くステータスの確認してくれ」


 不貞腐れ気味にダイジンにそう言い放つ俺だが、内心この瞬間を楽しみにしていた。

 ステータスオープンって結構好き嫌いが分かれるところだと思う。

 しかしゲーム好きの俺は登場人物の能力が数値化されたりスキルの名前が可視化されるのが現実ではあり得ないRPGの世界みたいでムネワクのだ。

 さて、俺のステータスはどんななんだい?見せてくれダイジン・エドワードよ!

 俺の心の声に答えるようにダイジンは頷いた。

 


「ステータスオープン!!


 コウサク・ズガ


 ミート C

 パワー C

 走力 C

 肩力 A

 守備力 C


 です。肩力以外は平均的な能力ですね」


 ……肩力?何か既視感あるし色々と気持ち悪い。

 多分ミートは命中率だよな。

 んでパワーは攻撃力。

 走力は素早さ?ここまで英語表記なんだからスピードとかにしろよとは思うがいいでしょう。

 そして守備力はまんま守備力、ディフェンスな。

 

 ……やっぱり肩力だけわからん。

 わからんがゲーマー的な感覚からすると魔力の表記が無いのが不自然だと思う。

 つまり肩力は魔力……?

 そうだな!ここ異世界だし魔力のこと肩力って言うのかも。

 表記の統一感が無いと感じるのも俺が地球人だから。

 ――つまり俺は魔法使いタイプ!


「うーん、お世辞にも冒険者に向いてるステータスでは無いのぉ。スキルの方はどうなっておる?」


 え、ダメ?魔力高いと思うんだけどなー。

 王様は前衛職がお好み?それともS以外認めないタイプ?

 リアクションがちょっと不服だが俺は魔法とか好きだし今のところ問題ない。

 それに大事なのはスキル!

 どんなヘボステータスでもユニークスキルがあれば全てひっくり返るのがセオリー。

 つまりここが肝っ!さあこい!!


「コウサク様のスキルはズバリ……万能粘土っ!!」


 ダイジンはドヤ顔を決めた。

 

「万能…………粘土じゃとおぉぉぉーー?!?!」


 ペペロン王の声がホール全体に響き渡り、玉座がピシリと音を立てた。

 目を丸くし驚くその姿はまるでムンクの叫び。


「……勝った」

 

 このリアクションはとんでもない強スキルに違いない!!


 俺は鮭の挟まった歯でニヤリと笑った。

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