レンタル彼女を手漕ぎボートで水没させた

@ClammbonT

第1話 水辺のトラブルクラシアさん

「凄い綺麗な景色ね」 

「クラシアさんの方が綺麗だよ」

「何を言ってるのもう。でも、ありがとう」


 手漕ぎボートの上で僕は目の前にいる彼女レンタルと戯れる。1時間で15000円払うなんて、普段の僕なら絶対高過ぎると思うだろう。でも君と一緒にいられるなら、それくらい少しも惜しくないと思ってしまうんだ。

 何故なら、目の前にいるレンタル彼女のクラシアさんは完璧な美少女なのだから。

 その美しさは、まるで絵画の中にいる天使のようだ。彼女の雪のように白い肌は、純白のキャンバスのように輝いている。腰まで伸びた美しい銀髪は、風に揺れるたびに光を反射し、まるで銀色の波のように煌めく。そして、その全ての男を虜にする天使のような微笑みは、まるで春の陽だまりのように僕の心を温かく包み込む。


「本当に綺麗だね。ボートの上から見る景色って、陸地から見るのと違って新鮮だね。360度水に囲まれているからかしら?」


 ボートの上で風に靡く銀髪を白く細い手で抑える姿は、まるで映画のワンシーンのように美しい。この瞬間を写真に収めたいと思うが、レンタル彼女契約では写真はNGだ。ルールを守って楽しくレンタル。これが基本だ。


「寒くない?」

「大丈夫よ。気を遣ってくれてありがとう」


 クラシアさんは決して容姿だけの女の子ではいない。性格も純白の雪のように素晴らしい。裏表のない優しく理想的な性格である。


「今日の服装は可愛らしいね」

「そう? 嬉しいわ」


 今日のデートは手漕ぎボート。紅葉が美しいので彼女が喜ぶとなった記事で見て選んだ。ボートはアヒルと手漕ぎを選べるのだけど僕は手漕ぎボートを選択。理由は簡単。アヒルってなんかダサいから。アヒルの間抜け顔が何だか幼稚に感じてしまう。

 手漕ぎボートで銀髪美少女と2人きり。何て絵になるシチュエーションなんだろう。


「疲れてない? 変わる?」


 優しく僕に微笑みかけるクラシアさん。ああ、何て優しいんだ。男が力仕事が当たり前なんて主張する最近のフェミニストとは全然違う。


「ううん。大丈夫。漕ぐのも楽しいし」


 いや、実際は大丈夫ではない。筋肉がやばいのだ。もう手が一杯一杯。


「汗かいているわ」


 そう言って、クラシアさんはカバンから白いハンカチを取り出して、僕の額に当てた。こういう気遣いができる女の子ってやっぱ最高。


「ありがとう」

「いいの。それより堂ヶ島くんって身長高いよね。凄く格好いいわ」


 クラシアさんが僕を褒めてくれた! 嬉しい。僕の取り柄は高校一年生ながら身長178cmあることだ。父親は188cmだから180cm超えは確実。まあ、他は全部ダメダメなのだけど。


「無駄に高く育ったよ」

「駄目だよ、自分を卑下たら」


 むぅとした表情を浮かべて、僕を上目遣いで睨む。かわいいなぁ・・・。


「まあ、身長は親に感謝だね」

「腰の位置とかすごい高〜い。ねね、腰どこにあるの?」


 え? 腰の位置? 僕は褒められて舞い上がっていた。そしてここで失敗を犯す。

 手漕ぎボートで立ってしまったのだ。


「腰の位置はここだよ! ここ!」


 必死に僕は腰の位置の高さをクラシアさんに伝える。


「あ、立ったら危ないよ!」

「へ?」


 次の瞬間、ボートが揺れた。僕はバランスを崩す。


「う、うああああぁぁ」


 これは駄目だ、絶対に助からない。上半身は既に池に向かって引き寄せられている。重力にはもう逆らえない。いや、まだだ! 船淵を掴めば何とかなる。

 僕は何とか着水しないように船淵に手をかけた。しかし、崩したバランスの勢いは想像以上に強かった。


「あああぁぁ!!」


 僕は池に落っこちた。最悪なことに船淵に手をかけてしまったせいで、ボートを大きく傾けてしまい、クラシアさんまでもが落ちそうたなっている。


「きゃあああああ!!」


 クラシアさんの絶叫。そして、ドシャァァ!! という音と共に僕は池に落ちた。その次の瞬間に、クラシアさんもバランスを崩してしまい池に落ちた。ドシャァァ!! と音がして水飛沫があがった。



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「ごめんね。大丈夫?」


 池に落ちた僕たちは係員に助けられた。クラシアさんは貰ったバスタオルで身体を拭いている。

 あ……白い上着が透けている……下着が少し見えてしまっているではないか。駄目だ駄目だと思いながらも視線は胸元に向かってしまう。黒だ! 真っ白なクラシアさんの下着は黒!


「おい、何胸元みてんだよ? それと……」


 クラシアさんは鋭い目つきで僕を見た。


「え? クラシアさん?」

「立つなって最初に注意されたよな!? ああ!? それに大きく看板に書いてあんだろ! テメェは注意書きも読めねえのかよ!! この後も仕事あんのにどうするだよこのデクの棒がよぉ! クソ! 最悪!」


 え? 女神のクラシアさん? 笑って許してくれるんじゃないの?


 クラシアさんの怒りを鎮めるように、僕は言った。


「あと、100分は残ってるね。何処行く? お詫びにクラシアさんの好きな所いこう」

「ざけんじゃねえ!! 大事なのは何処に行くのかじゃ無くて誰と行くか何だよ!! てめぇと行くとこは例え高級リゾート地でも地獄なんだよ! 1億円のディナーと最高の夜景をみても少しも楽しくねえんだよ!! 100分は残ってるじゃねーよ。私にしてみれば100も残ってるなんだよ!! 私はお前みたいなのに100分使わなきゃいけねえんだよ。大体私は次の客のために着替えたり髪の毛セットしたり化粧しなくちゃならないんだよ! 100分はその時間に使うに決まってんだろ。少しは考えろや!」


 絶句。何なんだこれは。いや、もしかしてこれがクラシアさんの本性……。


「そう、じゃあ仕方ないね。デート時間残り100分だから25000円の返金だね」

「Fu◯k!! Fu◯k!!」


 そう叫んでからバスタオルを地面に投げつけ、それを踏みつけた。


「ど、どうしたんだいクラシアさん」

「返金じゃねーよ。洋服代スマホ代バック代をむしろお前が返せよ!! 何が返金ね、だよ! おまえあたま逝ってんのか! ああ!?」


 ……怖い。これがクラシアさんの本性。でも、こうやって喧嘩してたら、誰もクラシアさんがレンタル彼女とは疑わない。悪くないかも〜。


「へへへ」


 喜びで笑いが込み上げてしまった。


「へへへじゃねーよ!! Хуй Хуй」

「え? 何?」

「Чёрт возьми! Чёрт возьми!」

「ロシア語かな? 話せたんだね」

「пизда!」


 何を言っているのか、よく分からなかった。最後にクラシアさんは僕に中指を立てて、もう一度Fu◯kと言ってから去って言った。去り際に僕が前にプレゼントであげた小さいテディベアを投げつけられた。うわぁ……湿ってる。


「あれがクラシアさんの本性だったのか……女というものは実に恐ろしい」


 クラシアさんとは同じクラスなのに、明日からどうやって接しよう・・・。

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