人形葬の村(2)
東京駅から新幹線に乗り、そこから電車を乗り継ぐこと一時間。
俺とレイカは目的の町に辿り着くことが出来た。
車窓から見える風景は、首都圏で育っている自分には新鮮なものだったが、いざ駅舎を出てみると「田舎」と形容するには、あまりにも栄えていた街並みだった。
「近くに役場もあるし、コンビニもある。道路もしっかり舗装されているし想像以上に普通の町だな……」
リュックを背負い直しながら呟くと、隣に立っているレイカは「そうね」と返してから、周囲を見回す。
「結局、どこであれ人が集まれば現代的にアップグレードされるものよ。古い木造家屋が壊れれば現代的な様式の家が建つし、人が頻繁に通る砂利道だってコンクリートに覆われる。日本の風景がある程度どこでも似通るのは、仕方のないことね」
「地図アプリを見る限り、この辺りは観光名所も多いみたいだしな。温泉とかキャンプ地もあるし、バスやタクシーもある。人が全く居ないわけじゃなさそうだ。それで? 人形祭っていうのはどの辺りでやっているんだ?」
「山の麓にある神社ね。近くには有名な川も通っているし、いい場所よ。宿はその辺りに取ったから、まずは荷物を置きに行きましょう」
そう言ってレイカは近くの自転車に入る。まさか買うのかと思ったが、そうではなかったらしい。
「すみません。事前にレンタサイクルを予約していた者です」
どうやら観光客向けに貸し出している自転車を予約していたみたいだ。
相変わらず用意周到というか、無計画で何かを進めることをしない女子だな。
貸し出しに際しての説明と料金支払いを終えたレイカは、満足そうに店先に出ていた黄色い自転車を指差す。
「これを借りることになったわ。宿はここから三十分くらいだから、楽しいツーリングをしましょう! 二人で!」
「……二人で、ね。なるほど、どう見ても二人じゃなきゃ無理なやつだ」
やけに車体の長い自転車には、サドルとペダルが二人分備え付けられている。
タンデム自転車。二人で協力しながら駆動させる、アトラクション的な自転車だ。
「前はあなたに譲ってあげるわ。ブレーキとハンドルの役割は前の人がするから、しっかり頼むわよ。私の命……あなたに預けるから」
「それタンデム自転車乗る時に言う台詞か? 世界の命運を託されたロボットに乗る時とかに言ってくれよ」
「男の子ってこういうメカも大好きでしょう?」
「……否定はしないけど」
変なギミックのある家電とか、乗り物とか、ちょっとテンション上がるよな。
幼少期にそういう物に触れてきたわけじゃないのに、男の性みたいなものだろうか。
俺たちは不慣れながらも自転車の店主のレクチャーを受け、いよいよ自転車を発進させた。二人してリュックを背負っていることもあり、結構な運動になりそうだ。
ゆっくりと車輪が動き、いよいよ共同作業が始まった。
「これは……いいわね! 馬車に乗っているプリンセスの気分よ」
「お前も漕げよ? 最悪一人でも進むタイプらしいけど、漕げよな!?」
「善処するわ。ほらほら、早く行かないとお祭りが終わっちゃうから!」
レイカに急かされてペダルを漕ぎ、俺たちは見知らぬ土地を走った。
見える空はいつもの町と変わらないけど、肌に感じる風や、鼻を掠める田んぼの匂いはきっと、ここでないと味わえない。
「あはは! やっぱり旅先では、こういう普段と違うことをしないとねー!」
後ろに座っているお姫様の楽しそうな笑いは、毎日聞いているけれど。
それでも釣られるように気分が高揚する感じは、いつもと違う心地良さだった。
***
それから三十分ほど、平坦な市道を走ると道沿いの宿に到着した。
昔ながらの小さな和風旅館で、俺たちと同じように多くの観光客が受付を行っていた。自転車でここに着いた時、明らかに人の往来と賑わいが増したのを感じたが、いよいよ目的地が間近になってきたのだと分かる。
俺たちも受付を済ませ、部屋で荷物を置いて一休みしてから旅館を出た。そろそろ正午になる頃だ。お腹は空いているが、腹ごなしは祭りの中で済ませればいい。
「見て、玄人! あそこがお祭り会場ね!」
旅館を出て少し歩いた先、住宅が立ち並ぶ中に大きな鳥居が見えた。
地方の祭りとは思えないほどに人が集まり、スピーカーから流れる祭囃子の音に引き寄せられるように、地元の子供や大人たちが駆け寄っていく。
俺たちもその背中に続き、鳥居を潜って神社の参道に足を踏み入れる。
「結構広い神社だな。かなり人が居るのに余裕がある」
参道とその先の境内、ざっと見て二百人以上は集まっているように見えるが、露店周辺以外は立ち話や飲食が出来るくらいには広大な敷地だ。
「夜になるともっと人が増えるそうよ。みんなのお目当てはあれみたい」
レイカ指差した先を見ると、拝殿の前に謎の展示物があった。
遠目からではそれが何か分からず、俺たちは人混みを抜けてそれの前に移動した。
そして視界いっぱいにそれが広がる場所に立つと、思わず嘆息してしまう。
「……凄いな。これだけ数が集まっていると、ちょっと怖いくらいだ」
「ええ。これがひな祭りだったら違和感はないかもしれないわね」
それは五段ほどのひな壇で、雛人形と違って白い布が敷かれていた。
格段には多種多様な人形が数百体……それこそ雛人形もあるし、藁人形、手作りらしい粘土細工の人形もあれば、アニメやゲームのフィギュアもある。
「この人形たちを展示するから、《人形祭》ってことか? 高校の文化祭で手作りのぬいぐるみを販売する展示とかあるけど、ああいう感じの」
「いいえ、それは違います」
俺とレイカは声をかけられた、背後に顔を向けた。
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