未来の颯真へ

魔人むにまい

未来の颯真へ

 今日、小学一年生になった颯真の母より、未来の颯真へ。


 この手紙を読んでいるということは、私が大切にしていた、颯真がまだ赤ちゃんだった頃のアルバムに、こっそり隠しておいたこの手紙を見つけてくれたのですね。いつかアルバムを見返しているときに、見つけてくれることを願っていました。


 颯真、元気にしていますか? 未来でもゲームウォッチに夢中になっていますか? 憧れていたコンピューターは手に入りましたか? そして、未来の私も元気ですか? きっと今と同じように、家族みんなが仲良く助け合って生きていることと思います。


 こちらの颯真は、今日、とうとう小学一年生になりました。少しひとりぼっちでいるだけですぐに泣き出すあなたが、小学校で気の合うお友達を作れるか心配ですが、とにもかくにもこの日を迎えられたことを嬉しく思います。


 颯真、小学校に入る前のことなんて、もう覚えていませんよね。


 あなたがまだ赤ちゃんだった頃、初めて話した言葉は「ママ」でした。その瞬間、私は感動で涙が止まりませんでした。あなたの笑顔は家族全員を笑顔にし、初めて立ち上がったときの一歩一歩を見守るたびに、いつか立派に歩けるようになる日を夢見ていました。


 颯真、一緒によく公園へ行っていたことは覚えていますか? あのときいつも、ブランコで高くまで漕ぎながら、笑顔で遊んでいたあなたの姿は、今でも鮮明に思い出せます。あなたの笑顔は、私の宝物でした。


 すぐに家中のリモコンを使いこなして独り占めしたこと、おもちゃ屋さんのパズルを全部欲しがって駄々をこねたこと、こっそり歯磨き粉を吸ってお腹を壊したこと。最近ではそういった子供っぽさも少し減って、「おにいさん」になってきましたね。これからも成長が楽しみですが、もう少し子供のままでいて欲しいような、何とも言えない複雑な気持ちになります。


 未来の颯真がどんな道を歩んでいるのかを考えるだけで胸がいっぱいになります。あなたは何を教えてもすぐ理解できるようになる子で、本当に頭が良いなぁと親馬鹿ながらに思うので、もしかしたら、学者さんになって新しい発見をしているのかもしれませんし、病弱な子でしたから、お医者さんになって多くの人たちを助けているのかもしれませんね。

 でも、ゲームやコンピューターに夢中になって、能力の無駄遣いをしているのではないかと、そんな不安もよぎります。それでも、どんな道を選んでも、颯真が幸せであることが一番大切です。


 颯真は元々泣き虫で、人と競うこともなく、みんなに可愛がられ、甘やかされて育ったからか、気も弱いですし、人とすぐに打ち解けるようなこともありませんでした。私の前ではリラックスして、すごくひょうきんな子でしたが、他のお友達とおもちゃの取り合いをしても弱いですし、たまにお外で遊んでも、運動が苦手でからかわれてしまい、ときには泣きながら帰ってきてしまいます。こんな調子では、社会に出たらつらい思いをするのではないかと、とても心配になります。でも親馬鹿な私は、そんな颯真が可愛くて仕方ありませんでした。きっと困難なことがあると思いますが、あなたの良さを活かし、自信を持って良い友人を作り、助け合いながら前向きに生きてください。


 進路や結婚のことでいろいろ言ってしまうかもしれませんが、それはあなたを大切に思っているからです。本当は、健康で笑顔でいてくれるだけで大満足なんですよ。でも、未来ではもう手がかからなくなっていると思うと、少し寂しい気持ちも拭えませんが、それも成長の証ですね。あとは納得できる良いお嫁さんを迎え、(できれば私も一緒に)明るく幸せな家庭を築いて、私に孫の姿を見せてくださいね。


 今ここにいる颯真、入学おめでとう。そして未来の颯真が幸せでありますように。未来で会える日を楽しみにしています。


 1985年4月吉日 母より。


 追伸:こちらの颯真は何が楽しいのか、一日中電卓で遊んでいます。そちらの颯真も、変ですか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

未来の颯真へ 魔人むにまい @munimarin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ