第13話 夕飯ミッション

「神崎さん!お願い!夕飯の買い出しに付き合って~!」

帰り際、小高くんに呼び止められる。

深刻そうな顔をして、頼み込んで来るものだから詳しく話を聞くと…

「家族全員の帰りが普段より、遅くなりそうだから、自分で夕飯の材料をスーパーとかで買ってきて、調理をして、食べてろ」

とメールが届いたとのこと。 


小高くんにこんなことを言ったら、失礼になるかもしれないので口には出さないが、なんとなく「自炊が苦手」なイメージ。

焦がしそうだし、野菜などを切る工程だと指をケガしそうだし、コンロの温度もちゃんと出来ずに火傷しそうだし。なんか心配。


ということで、一緒にスーパーマーケットへ。

「神崎さん、カレーライスを作りたいんだけど、買うものってこれでいいかな?」

どれどれ?と小高くんの買い物かごを確認する。

パックごはん、カレールー(中辛)、チーズ、じゃがいも、にんじん、タマネギ、鶏肉…(もしかして小高家は鶏肉派?)

「まあ、具材はいい感じじゃない?味の好みは人それぞれだし」


買い物かごの「パックごはん」が、少し気になるが、小高くんの家の炊飯器の調子が悪いとかだろう。

間違っても、単に「面倒くさい」とかではないと思いたい…


「小高くん、それじゃ…また、明日ね!」

と去ろうとすると

「え?神崎さん、帰っちゃうの?そ、その…いろいろと不安だから…ウチに来て…お願い!」

とまた呼び止められる。今にも泣きそうな表情でお願いしてくるものだから、断れない。しかも、スーパーの前だし、泣きそうな小高くんに対して断ったら、子どもに酷い仕打ちした人に見えちゃうし、仕方なくついていく。

(家族には事情をメールで送った)



小高くんの家に到着。

スーパーで買ってきた具材を広げて、カレーライスを作る準備をはじめる。

「小高くん、ひとつ聞き忘れていたことがあったんだけど、なんでパックごはん買ったの?炊飯器あるのに、どうして?」

「えー、だってさ、お米を量って洗うとか、すごく面倒なんだもん!だからレンジで温めて、すぐに食べられるパックごはんにしたの!」

いや…面倒なのは分かる。分かるけど、キッチンに炊飯器が置いてあるんだから、炊きましょうよ…

だから、ご家族は敢えて「夕飯の具材を買って、作って、食べなさい」と小高くんにミッションを課したんじゃないですか?


ちょっとだけ、小高くんのカレーライス作りを手伝う。

小高くんの、野菜カットは危なっかしくて、見ていられず、野菜のカットは私がすべて代わりに行った。

(小高くんには、カレー鍋の準備と肉を焼く・パックごはんをレンジで温める工程を任せた)


「ただいまー!あら、カレーのいい匂いね!」

小高くんの母帰宅。

「あっ、お邪魔してます!<(_ _)>」

軽く、小高くんの母に一礼。

「もしかして、神崎さん、誠人のカレーライス作りを手伝ってくれていたの?ありがとう!」


「じゃ、じゃあ私はここで失礼しますね」

「あっ!ちょっと待って、神崎さん!はい、コレ。カレー作りを手伝ってくれたお礼です!」

小高くんの母から去り際に手渡されたのはタッパー容器に入った先ほど、小高くんと一緒に作った「カレー」と小高くん母からのお礼のお手紙が添えられていた。












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