ブラック・メリー・クリスマス 悪い子たちのクリスマス
雨槍
クリスマスに期待なんかしない
クリスマスが近づくと、皆が浮き立つ。学校の教室も普段よりどことなく明るく感じるし、明確にカップルが増えた。町もまた同様で、この雪が降るなか連なる木々はギラギラと装飾され、フェアだのセールだのと宣伝する旗には、あの憎たらしい赤い服を着たひげおやじがいい笑顔で描かれている。
目が痛い、とそこらの店に逃げ込んでも次は耳に、クリスマスの名曲たちがそろって攻撃をしてくる。いったい後何回この名曲たちを聴き続ければ許されるのか。
イラつく。
やり場のない怒りで頭をかきながら、わざと歩道の真ん中を堂々と、他の通行人や手をつなぐ恋人達など、はなからいないもののように俺は歩いた。
「よォ、ミドリ、メリークリスマス。」
たまり場につくと無駄に背の高い悪友1号、アキが俺に吐き捨てるように言った。
顔を上げると、何も約束をした訳でもないのにいつもの顔が揃っている。それがコイツらのいいところだ。まぁクリスマスにもなって全員揃うというのは残念な臭いが漂うが。
「よぉ、今年もクソみたいなホリデーをお楽しみかい?お前ら。」
と俺が座りながら笑うと。
「ああまったく今年も変わりないぜ」
とアキが自嘲的な溜息をしながら一枚の紙を投げ捨てた。
俺も背負っていたバッグから同じ紙を出し、足元に投げる。
この場に集まった、我が悪友どもオーロとセツの二人も紙を取り出す。
この一枚の手紙は毎年届く季節の恒例行事のようなものだ。きれーに飾られた封筒の中に入っていたもので、紙の表面は真っ黒に塗りつぶされており、その裏にはこんなことが書かれている。
―あなたは【悪い子】でした。
「今年もまたこうして皆そろって相変わらず【悪い子】だ、ホント仲がいいよ私達」
とセツがくすくすと性格悪そうに笑う
「まったく、嫌になっちゃうよ。しかも僕なんて、わざわざあのチビ妖精のエルフが玄関までやってきて親の前で音読しやがったんだぜ。『あなたんとこの子供は【悪い子】だ』って。近所まで聞こえるように大きな声で!!」
とへら付きながら語るのはオーロ。
「今年もオレらは悪い子悪い子。いい子ちゃんなんてやってられっかよ」
とアキが言うと、
「悪い子バンザイだね、僕もそっちの方がすごしやすいわ」
「クリスマスなんてくそくらえだ」
と愚痴を言いあい頷きあう。
これも見慣れた光景だ、と俺は笑う。
それにしても、この手紙にも慣れたものだ。
最初に受け取ったとき、俺がまだ小さかった頃。真面目にやっても全然うまくできない教科をついにサボりだしたせいで初めてこの黒い手紙をうけとったとき。かつてないほどに胸が締め付けられるような絶望を感じたのを今でも覚えている。
それで反省して少しはまじめに勉強もして、それでもやっぱり上手くできなくて、やっぱりそれでもたどり着いたのは諦めだった。
次の年、またやってきた黒い手紙を見たとき、かすかな納得だった、と思う。以降手紙の色が変わることはなかった。
それにしても
「イラつくな」
まじまじと手紙を見ながら俺はつぶやいた。
「なんだ?手紙か?偉そうだよな、これ。勝手にオレの好し悪しきめやがってさ。何様だよって。」
「な。俺さ。こいつに【悪い子】って決められてから初めてわかったんだよ、俺って悪いんだなって。確かに俺はさ、いい子なんかじゃなかったよ。けど悪い子呼ばわりされるほどだったか?犯罪はしてないし人にも大した迷惑はかけてないはずさ。もし一回でもいい子と呼ばれていたら。誰かが悪い子じゃないって否定してくれていたら。俺はもう少し腐らずに生きたはずだ、たぶん。」
そんなことを、いままでの自分が考えながらも口に出さなかったことを。自分勝手な本心を重い溜息とともに吐き出した。
「そうだな!それならクリスマスツリーみたいな色の髪にもしてなかったかも、ね!」
そう笑いながら横からセツが雪玉を俺のみどり色に染めた髪めがけて投げてくる。
「ははっ、ツリー頭に雪が積もったぞ。」
とアキもオーロも参戦し雪玉を投げ始め、結局みんなそろって雪玉を投げつけあう。雪合戦のバトルロワイアルだ。
一通りはしゃぎ終わると疲れて座り込む。はぁ、はぁ、と呼吸音だけが響く中、オーロがぽつりと言った。
「はぁ、クリスマスぶっ壊せないかな。」
「ぶっ壊すって言ってもどうするんだよ?なんだ?おもちゃ屋のショーウィンドウ叩き割って歩くか?オレはそれでもいいが?楽しそうだ。」
「いや警察のお世話にはなりたかねぇよ俺は。めんどくさいし。深夜のうちにデート名所の歩道一面に水まくとかどうよ?バレにくそうだし見てて楽しい。」
「今日はクリスマスイブだぜ?深夜だろうが人であふれてるよ。それよりもさ、僕の家にきたエルフ、こっそり縛り上げて物置につっこんでんだ、あいつをどうにかして…」
どうせ実行しもしない、とんでもな作戦も口にだしては笑った。
あれはどうだ、これはどうだ、と次々に案がでる。どれもこいつらとなら面白そうだ。
「おいセツ、お前はどうなんだ?てめぇのことだからえげつないの嬉々として言いそうじゃんか。」
するとセツは黙り、空を見上げながら何かを考えている風にし、その後、指をぴんと上に差し、三日月のように口をゆがめた笑顔で俺たちに向かって提案した。
「サンタ、襲っちゃわない?」
と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます