ざまぁされたとかされてないとか……それ、あなたの主観ですよね?

染西 乱

第1話

私だって、それなりに両親に可愛がられて育ってきた自負がある。

なにも当て馬になるために生まれてきたわけでもない。

きちんとした教育を受けて、礼儀作法を学び魔法学校にも通っている。ごく普通の女の子であったといえる。


しかし、恋人(?)だったはずの男がいきなり別れを告げてきた。

いや、違う。

恋人なんていう甘い単語で表すような関係ではなかった。婚約者というやつだ。

世にいう「婚約破棄」に相当する。

ここで自身の階級をひけらかすわけではないが、まぁ中間ぐらいの階級でそこそこ育ちは良いので、婚約者というものが物心ついた時から存在していた。

果たして婚約者であったアンドリューがみそめた女は見目だけはかなり美しい女だ。そのほかのステータスすべてを外見に賭してしまったのだろう、教養もなければ学もない。魔法の才も無く、身分が高いわけでもない。


「ごめんなさいねぇ」 


などと嘲笑まじりに言われてしまえばこの女は自分の敵であることは確定した。

婚約者がいることを知っていてちょっかい出していた、ということだ。


「いえ…別に」


その態度にはムカっ腹がたったが、こんな不良債権を譲り受けてくれるという申し出に等しいその寝取りについては感謝こそすれ恨むなどありえない。何度言っても他の女にデレデレし、あまつさえ私との約束を忘れるのは日常茶飯事、今年に至っては誕生日すら忘れていたらしく、誕生日から一日経ってからメッセージカードと共に、花屋の店先で良く見かけるような花束が届いた。メッセージカードの文字は美しかったため、アンドリューではなく側仕えのメイドか、従者が拵えたものだろう。

おおよそ、自分の主人が婚約者の誕生日に何のプレゼントも贈っていないことに気づいて慌てて用意してくれたのだろう。

もう良い加減に愛想が尽きた。

それなりにアンドリューには時間を割いてきたが、もういいだろう。


我慢にも限度はある。


さて、これからどうしてくれようか、と考えていた矢先だったのでアンドリューから婚約破棄という単語を口にしてくれて本当によかった。最後の最後で1番良い仕事をしてくれた。

浮気をする男は主軸となる女が変わったとしてもまた必ず浮気する、というのが私の考えだし、あの女は後々後悔することだろう。


そうして、今ここに、わたしを悪し様に罵り、冤罪をふっかけて信頼を地に落とし、何処の馬の骨ともわからない女と多数浮気をしたあげくに若くてかわいい女と子供をこさえてこちらの有責で婚約破棄を突きつけてきた男が無様に転がっている。


神様が罰を下してくれたに違いない。


道路に染み込んでいく血を無の心で見つめて神の存在を感じる。

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