第4話 美少女の匂い

「……父さん、無詠唱じゃできません」


「あ、そうか。ごめんごめん」


 申し訳なさそうに手を合わせて謝ってきた。


 やばい。

 煽りにしか見えん。腹立つ。


「えっと、もうずっと詠唱してないから合ってなかったらごめんね」


 こんなことになるんだったら魔法の本持ってくればよかった。


「炎の息吹よ、空気を焦がし、一点に集いて敵を焼き払え。だったかな? やってみて」


 はあ、あんなにすごいの見せられてからじゃやる気も失せますわ。

 もうだめぽ。


 いや、せっかくだしカイルのを超えるイメージでやってやろうじゃねえか。


 目を閉じて全集中する。


 イメージだ。イメージが大切。


 でかい火の球、でかい火の球


 もっと大きく、もっと爆発的に


「炎の息吹よ、空気を焦がし、一点に集いて敵を焼き払え。火球ファイアボール!」


 目を開いてみると、目の前にはカイルと同じくらいの大きさの火の球が浮かんでた。


 え!?こんなに魔力量あったの?俺。

 さすが俺じゃん。


 ……って、まずい

 飛ばすイメージを忘れてた。

 このままだと目の前で爆発する。

 どうしよう、何もできない!


 次の瞬間、火の球が眩しく輝き始め、思わず目を瞑った。


 あ、終わった。まさかの死因自爆?

 そんなことある?笑えんて。

 死ぬ前に童貞捨てたかったんだけど。

 

 ……もうしゃーないか。

 来世では頼むぞ、俺。ぐっばい。



 …………?



 ……あれ?爆発しなくね?


 恐る恐る目を開けると目の前にはカイルが立っていた。


 カイルは火球に手を翳して何かしている。

 どうやら、防御魔法を球状にして、火球を閉じ込めているようだ。

 眼鏡に光が反射して一層不気味に見えた。


 いやいや、何やってんすかカイルはん。

 あーたそんなこともできたんですかい。

 凄すぎてかなりドン引きなんですけど。


 火球はみるみる小さくなり、遂には消えてしまった。


 俺はただ呆然と見つめるしかなかった。

 どうやら俺の父親は俺が思ってる以上にイかれた人物なのかもしれない。


 ていうかそれどころじゃない。

 魔力切れだ。

 体がガクガクする。


「すごい魔力量だよ! 一体いつから鍛えていたの!?」


 いや、それどころちゃうて。

 視界が暗くなってきた。

 

 もうだめ……


 俺はその場に倒れた。




 -----




 目が覚めた。

 最初に目に入ったのは、澄み渡る青空だった。

 背中には草を感じる。


「あ、起きた?」


 どれくらい眠っていたんだろう。

 まだ日は傾いていないし、せいぜい1、2時間ってところか?

 

 ……ワンチャン怒られるだろうか。

 

 「どうしてあんな危険な事をしたんだ」って。

 

 気絶する前あんなに喜んでたから大丈夫だとは思うが……一応謝っとくか。


「ごめんなさい」


 カイルは訳のわからない、と言いたげに眉を顰めた。


「なんで謝るの? あの魔力量は誇るべきことだよ」


 そうなのか?

 そう言われるとそんな気がしてきた。


 ん?でもおかしくないか?俺は数ヶ月しか魔力を鍛えていない。


 じゃあそこらへんの魔法使いの方が魔力量がありそうなものだが。


「でも、俺は数ヶ月前に初めて魔法を使いました。なんでこんなに魔力量が多いんでしょうか」


「おそらくだけど、年齢が関係しているんじゃないかな」


 「年齢?」


「第一次成長期に魔法を使うと、魔力が爆発的に増えるんだ」


 なるほど。

 成長期は体だけじゃなく、魔力も成長するのか。


「でも、これを知ってる人はかなり少ないんだ」


「何故ですか?」


「大体の子供はそんな時期に魔法使いたいとか思わないし、ましてやあんな難しい本を読まないからね」


 ふっ。よせやい、そんなに俺を褒めるのは。

 調子乗っちゃうぞ?


 まあ、実際この魔力量には自分でも驚いた。

 最近気を失わないなぁくらいにしか思ってなかったからな。


 あ、そういえば聞きそびれたことがあった。


「あの、聞いてなかったんですけど父さんって『天者』なんですか?」


「そんな事も知ってるんだね。うん、世間的にはそうらしいよ。僕はただ人より少し魔力量が多いだけなんだけどね」


 あれ?

 無詠唱魔法って特殊能力じゃないんか?


「無詠唱魔法は?」


「え? あれ誰でもできるよ?」


 いや誰でもできるは嘘でしょ。

 俺最初にやってみたもん。

 ト○ロいたもん。


「でも、俺はできませんでした」


「たぶんやり方が違うだけだと思う」


「じゃあどうやるんですか?」


「イメージするんだ。魔力の巡りや火球を生成するところを」


 ふむ。

 確かに俺がやった時は何も考えてなかったからな。

 今は何度も魔法を使っているから、感覚は体が覚えた。

 

 ……今ならできる気がする。

 やってみるか。


「やってみます」


「頑張って」


 はあ。応援してくれるのが可愛い女の子とかだったらなぁ。


 はっ。いかんいかん集中だ。


 魔力の巡り……手に魔力を集めるイメージ。


 体の内側から腕へ、腕から手へ。


 火の球、火の球、火の球。


 魔力が集まり、変化して、生成。

 そして発射速度。できるだけ速く。

 ━━よし。


「はあっ!」


 声と共に火球が生成され、数メートル飛んだあとに霧散した。


 でけた!

 なんだ意外と簡単やんけ。

 拍子抜けしたぞ。

 これからはこれを主体にしていこう。


 ……あれ?こんなに簡単なのになんで公表されてないんだ?

 絶対みんな使った方がいいだろ。


 それとも俺が知らないだけでみんな使ってんのか?


「父さん、無詠唱魔法は一般的に扱われてるものなんですか?」


「いや? ごく一部の人しか使わないよ?」


「では何故公表しないんですか?」


「それについてだけど、実のところ僕もよくわかっていないんだよね」


「わかっていない?」


「さっきは勢いで言っちゃったけど、暗黙の了解みたいな? この情報は人に伝えるべきではない気がするんだ」


 なんだそれ。

 根拠はないのかよ。


 まあ別にいっか。

 そんな興味ないしな。


 それよりももっと無詠唱魔法を使ってみたい。

 すごく楽しいぞこれ。


「授業の続きをしたいです」


「いいね。その心意気。じゃあやろうか」




 -----




 四歳になった。


 あれから魔法をずっと鍛えた結果、全ての系統を上級まで使えるようになった。

 もちろん無詠唱でだ。


 正直、初級、中級の方が使い勝手は良い。

 階級が上がるにつれて広範囲、高威力になっていくのだ。

 実用性に欠ける。

 

 こんなんどこで使うねんって言うのも結構ある。


 まあ、それでも使えるに越したことはないから全部できるようになったけどね。


 そして今更ながら気づいた事がある。

 

 この世界には誕生日を祝う文化はないらしい。


 それを知った時、少し寂しくて一度カイルにきいてみたところ、成人した時に思いっきり祝うそうだ。

 

 知り合い全員呼んで、プレゼント用意して大掛かりなパーティを開くらしい。


 少し、歳をとるのが楽しみになった。




 -----




 とある日、俺があの平原でいつものように魔法の練習をしていた。


 んなー。

 なんか最近飽きてきたな。

 危険だからっていう理由で特級以上は教えてもらえないし。

 毎日同じ魔法の繰り返しだ。


 そのおかげで精度や発動までの速さは馬鹿みたいに速くなったけどさ。


 ここら辺平和すぎて魔物とか出ないんだよ。

 戦いがなさすぎる。


 ……よし、美少女探しの旅に出よう。


 むっ、こっちから美少女の匂いがする。

 そんな気がする!


「父さん、森の方へ行ってきます」


「あんまり遠くにはいかないでねー」


「はーい」


 というわけで森へ行く事になった。


 暇を持て余していた俺は、さっそく森へと向かった。

 新しいところに行くのはちょっとワクワクする。


 もちろん、遠くに行くなと言われて守る気はないけどね。

 行くに決まってるだろ。


 そうして森の中を彷徨っていた。

 見た事のない植物がまあまああったが全部無視した。

 どうでも良いからな。

 俺が興味あるのは美少女だけだ。


 数時間、歩き続けてみた。


 すると整備されている道に出た。

 森と森に挟まれている果てしない一本道だ。


 恐らく、この道を辿るとでかい街とかに着くんだろうな。


 流石に行かないけどね。

 そんな時間ないし、めんどくさそうだ。


 特に収穫もなかったなぁ。

 ……虚しい、帰るか。


 そう思い、振り返ると━━


「助け……て」


 ん?声がするな。

 どこからだ?


 辺りを見渡してみる。

 すると向かいの森の近くに人が倒れてる。


 おーまいがー。

 えまじで美少女?冗談だったんだけど。

 なんでこんなところで倒れてんだ?


 疑問を抱きつつもその人に駆け寄る。


 恐らく歳は八、九歳くらいだろうか。

 ボロボロの布切れを着ていて、

 黒髪の短髪で綺麗な緑の目をしている。

 悪く言えば見窄らしいというのが正しい感じだ。


 でも、めちゃくちゃ可愛らしい。

 ちっちゃくて愛でたくなる。


 だが、左足首があらぬ方向へと曲がっている。

 見ているだけで痛々しい。


 はっ、いかんいかん。

 まずは助けてあげないと。


 筋力が無さすぎて抱っことかは無理だな……いや、魔法を利用すればお姫様抱っこできるんじゃないか?


 そう思い、頭と足の方に手を差し込んだ。

 決してエッチな気持ちはない。


 彼女は少し痛そうな表情を浮かべたが、そのまま俺に身を委ねた。


 両手に力を込め、少しだけ風魔法で浮かせる。

 できた!案外いけるじゃん。

 そう思ったのも束の間。


 あやばい。これ結構きついわ。

 めっちゃプルプルする。


 プランクする時、尻をめっちゃ上げるより、少しだけ浮かせた方がきついみたいな。


 ……いやこの例えよくわかんねえな。


 家まで持つかな?

 いや、持たせるんだ。絶対助ける。

 俺のハーレムライフのために。


 こうして、俺は森の中へと戻っていった。

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