龍の調教師

@ikasumikorogi

プロローグ

 俺は15歳絶賛不登校満喫中学生。


 私立中学を受験して無事落ち、公立中学に通っていたんだが、

 ある日、学校で女子トイレの盗撮をかましたらバレそうになったもんで、

「いじめられた」と親に嘘をついて不登校に突入したわけだ。


 今はゲーム、アニメ、オ○ニーの毎日をエンジョイしてる。

 あっという間に昼夜逆転して、毎日が深夜テンションだ。

 学校行ってるより今の方が楽しいかもな。

 

 あ、でも友達がいなかったとか、成績不振だったとか、そう言うわけじゃない。

 

 そういうのは、月並みに出来てたつもりだ。

 まあ、あくまでも「つもり」だけど。


 親が毒親ってわけでもない。

 なんなら俺のために学校まで乗り込んでくれた。

 

 俺が「学校を休む」と嘘泣きをしたら普通に休ませてくれたし、以後は腫れ物を触る様な扱いになった。

 今は何も言ってこない。


 俺だって最初の方は罪悪感を感じていたさ。

 なんなら今もだ。

 

 俺がどうしようもないクズって言う自覚はある。

 だが、今更もう遅い。

 ここまできたら引き返すわけにはいかないのだ。



ーー


 俺はいつもの様に今日のおかずを探していると、いきなり親が部屋に入ってきた。


 なんて無礼なやつだ。

 俺が発射後だったらどうする。

 気まずさのメーター振り切って一周するからな。


「ノックくらいし……」


 言い終わる前に父さんからいきなりぶん殴られた。


 痛い。

 頬が熱い。


「……え? ……なん」


「お前、盗撮したんだな」


 バレてしまった。

 なんで?

 証拠とかは何も残っていなかったはずだが。


「う……あ……」


 返す言葉がない。何も言い返せない。


「なんでそんな事したんだ! 嘘もついて!」


 なんで?

 確かに。なんでだろう。

 俺にもよくわからん。 


「……はぁ」


 まあ、バレちゃったならしょーがない。

 潔く、白状して長い説教でも聞きますか。 


「……黙れよクソジジイ」


 え?あれ?

 なんで思ってもない事が出てくるんだ?

 こんなこと言いたかったわけじゃないのに。


「なんて口聞くんだ! 大体な! お前は……」


 クソ長い説教が始まってしまった。

 なんで謝らないんだ?

 さっき謝ってれば終わってた事だろう。

 自分でも何してんのかわからん。


 ふと、父さんの後ろでただ泣いていただけの母さんが小さく、口を開いた。


「あんたなんて……産むんじゃなかった……」


 親が子に言ってはいけない言葉ランキング、堂々の1位の言葉吐きやがった。


 それは言っちゃいけないでしょ。

 ここで反論したらわんちゃん話すり替わったりしないかな?

 言い返しちゃお。


「うっ……ぐ……」


 言い返そうとしたが、言葉が出ない。

 出るのは嗚咽だけ。

 自分でもよくわからない。


 次の瞬間、俺はボロボロと涙を溢していた。


 あ……あれ?

 なんで泣いてるんだろう。

 止まれ止まれ止まれ止まれ!

 

 ははっ……やべぇ、止まんねえよ。


「なにお前は泣いてんだ!」


 また殴られた。

 なんかもう痛みは感じない。

 はーあ。

 最悪の親と子供だな。

 似た者同士だよ。俺ら。

 お前らどうせストレス発散も兼ねてんだろ。

 クズが。


「なんでだよ……」


 くそくそくそ!もうわかんねえよ!


「なんでだよぉ!」


 顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら、そのまま両親を押し退け、家をでた。




ーー


 ……家、出てきちゃったなぁ。


 冷たい風が涙で濡れた頬を刺す。

 外の気温は18度。

 最近いきなり気温が下がった。

 

 しかも部屋着のまま出てきてしまったせいで、かなり寒い。


 金はある。

 家を出る時に親のカバンから財布をくすねたからな。


 どうしてこうなってしまったんだろう。

 いや、元はと言えば俺のせいか。盗撮なんてしなければよかったんだ。


 中学1年生までは普通だったんだ。

 成績は学年中30位かそこらで彼女だっていた。

 リア充全開で毎日が楽しかった。

 

 中学2年生になって厨二病を変な方向に拗らせてしまったんだ。


 俺は他のやつとは違う、こんな馬鹿共と一緒なわけがない。

 私立中学にだって受かっていたんだ。

 

 そんな事を思い始めた。


 人は人に対して敏感だ。

 人を見下す俺の考えを悟り始めたんだろう。

 俺の周囲からはすぐに人が消えた。


 成績も下がって、取り柄がなくなった。

 俺はこのまま何者にもなれずに死ぬのか?

 とか、14歳が一丁前に考え始めた。

 

 何考えてんだほんとに。

 これから何でもできるし、何にでもなれる時期だと言うのに。


 だが、それに気づくのは遅すぎた。

 遂には盗撮なんてしてしまった。


「……今振り返ってみると、本当に馬鹿だったなぁ」


 寒い。まだ夕飯食ってないし腹が減った。


「……はぁ……帰るか」


 体も頭も冷えた。

 悪いのは俺の変なプライドだったな。

 

 帰って謝ろう。

 

 長ったらしく説教されても殴られても仕方がない。

 もう一度全部やり直そう。


 そう思い俺は踵を返した瞬間。


「え?」


 口元を抑えられ思いっきり腕を引っ張られ、一瞬でワゴンに乗せられた。

 

 全く気づかなかった。

 考え事に夢中だったせいだ。


「おい、静かにしてろよ。騒いだら殺す」


 え?銃?おいおいまじかよ。

 今のご時世誘拐とかあんのかよ。

 アメリカじゃないぞ?ここ。


 覆面被った男が3人。

 1人が運転、1人が俺に銃を突きつけ、1人が俺の腕を現在進行形で縛ってる。


 全員ガタイが良い。

 ゲイが喜びそうな感じだ。

 

 俺みたいなチビデブが暴れたところでどうもならんな。

 普通に殺されて終わる。


「おい! キョロキョロすんじゃねえ!」


 してねえよ。


 大人に怒鳴られるのは慣れてるからか知らんが、自分でもよくわからんぐらい冷静だ。


 うーむ。どうしようか。

 こんなところで死にたくない。

 でもできる事ないし……


「あの、どうするつもりですか?」


「喋んなっつったろ!」


 いや言ってないし。


 困った。

 本当にどうしよう。

 ていうか俺なんか狙っても金になんねえぞ。

 もっと裕福そうなの狙えよ。

 何で俺?


 まあ、色々考えても仕方ない。

 大人しくしていよう。


「おい、こいつ情報とちげえぞ」


「は? ミスったのか?」


「そうみたいだ」


「何してんだよ……じゃあもう良い、殺せ」


 え?殺す?いやいや流石にそんな簡単に……


 辺りに銃声が2回響いた。


 意外と銃声音は鈍かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る