年相応では無い子供とリュロスさんの距離

そうして着いた場所は創造獣園。


なぜここに来たのだろうか。


動物を頼んだ訳では無いのに...


「サンタのお姉ちゃん!ここどこ?」


「ここはね色んな動物が居る場所だよ」


「朔斗、私は流乃ちゃんのこと担当するから朔斗は碧くんのこと頼んでいい?」


「え...」


不安げにそう声を零しながら横目で碧くんを見る。


と、何故かこっちを見ていた。


「まぁ...いいよ」


そう俺が返事すると


「じゃ、よろしくね!!」


と言いながら流乃ちゃんと灯はどこかに行ってしまった。


ちなみにだが、


72番さんは1人でどこかへ行ってしまった。


ルーナさんも0番さんも。


リュロスさんは知らない。


気づいたら居なくなっていた。


今ここにいるのは俺、


と子供なのに子供に見えない男の子の碧くんだけ。


「お兄ちゃんは名前何...」


グイッと裾を引っ張りながらそう聞かれる。


「朔斗」


それだけ答えると


「朔斗...」


いや呼び捨てかよ。


『さん』とか『くん』とか付けてくんのかなって思ったらまさかの呼び捨て...


「朔斗は愛って知ってる...?」


そう俺を見るために見上げながら聞いてくる。


このまま話したら首を痛めてしまうだろう。


そう思った俺はしゃがんで話すことにした。


「愛か...」


「愛は複雑なんだよ」


呟くように、


自分に言い聞かせるように、


答える。


「複雑...?」


「とりあえず動物たちの方行こっか」


そう言いながら碧くんの手を繋ぐ。


正直、子供との関わり方はイマイチ分からない。


俺には兄も姉も妹も弟も居ない。


一人っ子だから。


しかも子供なんて好きじゃない。


自分の言う通りにならなければ泣いたり暴れたり。


しかもヨダレとか汚いし。


わがままだし。


だけどこいつは、


─────子供らしくない。








遠くの方に白い物体が見えた。


もしやアレは...


そう思いながら近づく。


と、


案の定居たのはあのフワリンこと白い毛玉の


ような生き物のスペースだった。


だが、


大きさはフワリンよりも数十倍でかいやつ。


じっと見ているとその毛玉みたいなやつが


こっちへ向かってきた。


それとほぼ同時に碧くんが俺の足にしがみつく。


感情が無いと思っていたが、


どうやら恐怖心は健在しているようだ。


というか子供が愛を知りたいなんて明らかにおかしい。


喜びの楽しさも感じて無さそうだし。


というか知らないのかもしれない。


だけど恐怖という感情は知っている。


嫌な予感がする。


「碧くんのママとパパってどんな人?」


デカイ白い毛玉のような生き物を撫でている


碧くんにそう聞く。


と、


「パパは居ない...」


「ママは__」


ボソリと俯きながらそう答えられ、


よく聞こえなかった。


「ごめん聞こえなかった」


「ママは、何?」


「ママは怖い人...」


そう言いながら大粒の涙をぼろぼろと零していた。


こういう時どうすればいいのか分からない。


灯ならどうするだろうか。


背中をバンバンと叩きながら慰めるのだろうか。


リュロスさんだったらどうするのだろうか。


ハグでもするのだろうか。


確かにハグはいいかもしれない。


1番の休養だなんて言われてるんだから。


そんな考えを頭の中で駆け巡らせ、


気づけば俺は碧くんを抱きしめていた。


「ぇ...?」


「朔斗..?」


心配そうな瞳で俺を見つめる碧くん。


「碧くんはママがしたことと同じことを誰かにしたことはある?」


そう俺が問うとフルフルと首を横に振った。


「いい子だね」


そう言って俺は碧くんの頭に手を乗せる。


「いい子...?僕偉い?!」


急に立ち上がってそう聞いてくる。


もしかしたらずっと褒められたかっただけなのかもしれない。


「うん、偉い」


そう俺が言うと満面の笑みを浮かべた。


そして消えていた瞳の光は、


いつの間にか宿っているようだった。






白い毛玉のような生き物を撫でてから


数分が経った。


なぜここから動かないのかというと、


碧くんが寝てしまったからである。


だからこうして灯たちが帰ってくるのを待っている。






「朔斗〜!!こんなところで何してるの〜?」


数分後、


流乃ちゃんと灯がこちらへ向かってきていた。


「碧くんが寝ちゃったから」


そう言いながら俺は白い毛玉のような生き物によしかかって寝ている碧くんの頭を撫でる。


「流乃ちゃん、楽しかった?」


「うん!!」


「じゃあ、そろそろ帰ろっか」






碧くんと流乃ちゃんの家に着いたとほぼ同時に碧くんは目を覚ました。


「家...?」


目を擦りながら少し寂しいような顔をする。


「碧くん、楽しかった?」


「うん!でも愛は分かんなかった...」


「楽しかったならいいんじゃない?」


「そうかな...」


そんな会話を交わした後、


碧くんと流乃ちゃんは家に帰った。




「えーっと次は...」


そんな呟きを零しながら灯はリスト表のようなものを見る。


ていうか俺も眠いな...








「..と!!」


「朔斗!!」


耳元でそんな声が聞こえ


「何...」


と言いながら無意識に目を開ける。


「おはよ!!」


そう言いながら俺の目の前で手をヒラヒラさせる灯が居た。


どうやら俺は寝てたらしい。


「碧くんがお別れしたいんだって」


そう言われ碧くんの方へ行く。


と、碧くんは俺を抱きしめた。


急なことに驚いたが、何だか悪くは無い。


「朔斗また会える?」


「どうだろうね」


「同じ空の下に住んでるから会えると思うよ」


「本当に?!」


「うん、きっとね」


そう言いながら碧くんの頭にポンと手を置く。






次の家にソリで向かい中のこと。


「なんか朔斗、丸くなったよね」


「え?悪口?」


「違う違う、そっちじゃなくて」


「なんか優しくなっていうか...」


確かに、俺もそう思う。


「どうだろう」


丸くなったのかな...










「えーっと...音寧ちゃんで合ってるかな?」


「あってます!」


こくりと頷きながらそう言う音寧ちゃんだが、


何だかすごい違和感を感じる。


そう思っていると、


「くもって、すいじょーき?なんですよね?!」


「でもサンタさんなら、わたしのねがいかなえられるますよね!」


と言い出した。


滑舌が悪いところは子供らしいが、


言葉選びが年相応なものでは無い。


「音寧ちゃんの願いは乗れて食べれる雲で合ってる?」


「そうです!」


「今ここでプレゼントボックスであげたいところだけど...」


「好きな雲、選んでみたくない?」


そうニヤリと笑いながら灯が言うと音寧ちゃんの瞳には沢山の星が浮かんだ。


「えらびたいです!!」


「じゃあ行こっか」


そう言って灯は音寧ちゃんと手を繋いだ。


そしてあの鍵を取り出した。


雲から虹が出ているようなキーホルダーがついた鍵を。


「朔斗もはぐれないで着いてきてね」


そう子供を扱うように俺に言う。


腹立たしい。


カチャリという音と共に灯は空中で鍵を回す。


と、そこに歪みが現れた。


「サンタさんはまほうつかいなんですか?」


入る前にそう呟きながら聞く音寧ちゃん。


「違うよ」


「サンタさんは魔法使いよりも上の存在なんだよ」


「へー...」


「じゃあサンタさんの方が偉いってことですね!」


そんな会話を交わしながら灯と音寧ちゃんは歪みに入っていった。


それに続いて俺も歪みに入った。






歪みを通ると開けた場所に来た。


真っ白で何も無い。


そう思っていると


「サンタさん!!これぜんぶくもですか?!」


と驚きながらも興奮している音寧ちゃんの姿があった。


もしかしてこの真っ白なやつ全部雲だって


言うのか?


だとしたら今俺が立っている場所も雲だったり...


そう思いながら足元を見ると、


時たま空が見えていた。


「ひっ...」


そんな情けない声を零していると


「大丈夫ですか?」


と俺の情けない声をバカにするような笑みを


少し浮かべつつ、俺の隣に来るリュロスさん。


「サンタさんに『勇気』願えそうですか?」


「分からない...」


「僕も応援してますよ」


「同じ人間同士!」


そう言って励ますように俺の肩をポンと叩く。


「人間じゃないじゃん...」


「リュロスさんも灯も...」


そう俺が言うと目を丸くしながら驚いているリュロスさんが居た。


「人間ですよ?」


「だって魔法使えるじゃん...」


「あぁ、そのことなら...」


「大丈夫です!!」


「僕は魔法使えませんし、それに、ここだけの話ですけど...」


そう言いながら俺の耳元でこんなことを言った。


「フェリスキャリー内で唯一、魔法を使えるのは灯さんだけですよ」


と。


「そろそろ朔斗くんも『虹の雲の国』楽しみませんか?」


虹の雲の国?


もしかしてこの場所の名前か?


「ほら、これ美味しいですよ?」


そう言いながらリュロスさんは俺の口に何かを突っ込んでくる


「むぐっ...」


「美味っ!!」


食べると口の中でしゅわぁと溶けてなくなる。


だけどひんやりとした空気は置いてきぼりに。


「美味しいでしょ?」


「雲の味ですよ」


雲...


雲ってこんな味なのか?


「雲って水蒸気じゃ...」


「それは下界の話でしょ?」


「下界?」


「あっ...」


やばいと言わんばかりに自身の手で


口を塞ぐリュロスさん。


下界...


ね..


多分、


俺が住んでいるところを指しているんだろうな。


それで考えるとフェリスキャリーは天界。


もしくは違う世界とか...


漫画的に考えすぎか?


だけどもう魔法で考えが覆されつつあるしな...


「そういえば雲って他の味?みたいのって無いんですか?」


話をそらすつもりでそう言うと、


「あるよ!!見に行こっか」


と言いながら冷や汗ダラダラのリュロスさんが俺にニコリと笑う。


きっと作り笑いだろうが。

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