ルールに忠実に
「ねぇサンタさん、僕の頼んだもの持ってきてくれた?」
首を傾げながらそう問いかけている男の子が何とも可愛らしい。
「持ってきたよ!」
そう言いながら灯は男の子にプレゼントボックスを渡した。
そういえば今気づいたが、
" 社長感がある灯 " から " ドジな灯 " の雰囲気に変わっているような気がする。
さっきよりも何だか柔らかっていうか
なんていうか...
「うわぁ!!ありがとうサンタさん!!」
そんな声が聞こえ、男の子の方を見る。
と、プレゼントボックスの中から毛玉の───
いや、フワリンが出てきたところだった。
しばらく灯と男の子が話した後、
灯は
「これ必ず読んでね」
と言いながら巻物のような何かを男の子に渡した。
ソリに戻ってそのことを聞いてみると
「これだよ」
と言って巻物を見せてくれた。
巻物には『このことを誰にも言わず、誰にも話さずしろ。さもなくば、黒色がやってくる』と書いており、
何とも脅迫文のように見えた。
ていうか、
「黒色ってなんだ?」
「黒色は黒色だよ」
なんでこの質問だけ有耶無耶に答えるのだろうか。
それとも言えないとか?
「サンタがいるってことはあっちもいるでしょ」
と小さく呟いた。
あっち?
あ、もしかしてブラックサンタのことか?
だとしたら黒色ってとこも一致してるな。
「童話の中だけじゃないのか?」
「うん」
「ていうかフェリスキャリーに居るよ」
サラッとそんなことを言っているが、
フェリスキャリーにそんな奴いたか?
「俺、会ってた?」
「会ってたよ?」
「でも大分、裏と表の差が激しい人だから...」
あぁ、あいつか。
分かりやすいヒントだな。
「サンタさん...あの......」
そう戸惑いながら灯に声をかける2軒目の子供。
この子がこんなにも戸惑っている理由は、
灯が『サンタのためのクッキー&ミルク』を
飲食しているからである。
「これ約束のやつね」
そう言いながらまたもや灯はプレゼントボックスを男の子に渡す。
それよりも灯の頬についているクッキーの欠片の方が気になるが。
プレゼントボックスの中身は、
あのとき灯が抱えていた大量の宝石。
「これはね夜になったら光って、朝になったら仄かに温かみを帯びるんだよ」
と説明する。
それは俺も知らなかった。
ソリに戻るとリュロスさんが灯の方に来て、
「ついてますよ」
と笑いながら灯の頬についていた
クッキーの欠片を取ってあげていた。
子供かよ。
「灯さん!!待ってましたよ!!」
家に入ったと同時に地味な女が出迎えてきた。
しかも灯のことを知ってる?
やっぱりシュロクの言っていた通り、
元社員さんなのかな。
「っと、そちらの方は?」
そう言いながらまじまじと俺を見る。
さっき魔法で見えなくなるって言ってなかったっけ?
「あぁ、この方は────」
「体験の子だよ」
灯がそう言って俺を紹介する。
何だか毎度遮られる0番さんが可哀想に思えてきたな。
「体験の子なんだ!!」
「私のときなんか体験なんて無かったけどな..」
ボソリとそう呟く声が聞こえた。
「そういえば頼んだものは持ってきましたか?」
「これでしょ?」
小さいロウソクを見せる灯。
「それですそれです!!」
こんなののどこがいいんだろうか。
「確かこのボタンで〜」
そう言いながらボタンを押す。
と、ロウソクはどデカいロウソクへと変わる。
天井につきそうなほどの大きさ。
というか火事になりそうだな...
そう思いながら見ていると
「あ!!これ0番ちゃんの魔法でしょ?!」
そう言ってロウソクの火を指さす。
0番ちゃん...?
「その名前で呼ぶのやめてくださいって言いましたよね?」
「いいじゃん同期なんだから〜!!」
そう言いながら元フェリスキャリーの社員は
0番さんと肩を組む。
ていうか同期?
0番さんと同期?!
「0番、話し終わったら帰ってきてね」
そう言いながら灯は俺の腕を引いてソリの元へ帰る。
「え、置いてきていいの?」
「いい、話長くなるから」
「てか同期って...」
俺がそう呟くように聞くとジロリと睨まれた。
もしかして灯が辞めさせたのかな。
あの人が何らかの迷惑をかけたとか...
だからこの会話が嫌で睨んできたのか?
「次の家行こっか」
にこりと笑いながらそう言う灯だが、
睨まれた後にそんな顔されても、
ただただ恐怖でしか無かった。
しばらくすると
「お待たせしてしまって申し訳ないです...」
と謝りながらこちらに向かってくる0番さん。
「次行こ」
そう灯が短く返事し、
次の届け先へ向かう。
「これが僕の頼んだ氷ですか?!」
「ツルツルしてスベスベな触り心地のいい氷...」
「しかもちゃんと冷たさを保っている!!」
そう興奮しながらプレゼントボックスの中に入っていた " あの氷 " で興奮する学者さん。
「あ、申し遅れました」
「僕は佐藤 晴太という氷の研究を続けている者です」
「それで状態変化はどうやって...?」
確かにそれは俺も気になっていたことだ。
さっきのロウソクみたいなボタンはどこにも見当たらない。
もしかして無理だったとか?
そんなことを思っていると急に灯が
「ミロル」
と呟いた。
ほぼそれと同時に氷は液体へと変化する。
「おぉ!!」
佐藤さんは目を輝かせながら液体化した氷だったものを見る。
「もしかして魔法とかですか?」
ズバリと言わんばかりの顔でそう迫りながら
聞いてくる。
「まぁ...」
と灯が気だるそうに返事をすると
「これも論文に書かなければ!!」
と声を上げていた。
ん?
論文?
もしかして...
「失礼ですが、あなたはこの氷を論文に書こうと思ってるんですか?」
0番さんがそう問う。
まさしく俺も同じことを考えていた。
世間にこんなチート級の氷、
プラス魔法の論文なんて出した日にはやばい事になるんじゃないか?
そんなことを考えていると
「佐藤 晴太さん、この氷は私とあなただけの秘密のものという『ルール』があります」
「なのでその論文計画は決して行わないようにして貰えますか?」
「してくれないのならその氷はあなたにあげません」
淡々とそう言う灯だがどことなく怒りのような感情を漂わせていた。
「でも...」
「じゃあこれは要りませんね?」
にこりと笑いながら灯は佐藤さんに渡した氷を奪い取る。
「あぁ!!」
「返してくださいよ!!」
「じゃあこの氷と私のことを世間に明かさないことを約束してくれますか?」
「分かったよ...約束すればいいんでしょ!!」
ほぼ強引気味に約束の件を了承してもらう。
ルールに忠実なのはいいことだが...
とてつもなく怖い。
「はい」
「じゃあこれは返しますね」
そう言って灯は佐藤さんに氷を返した。
「碧くんと流乃ちゃんで合ってる?」
先程の雰囲気と違い、
優しい声で話しかける灯。
多重人格なんじゃないかって言うくらいの別人さ。
「お姉ちゃんだぁれ?」
「私はサンタクロースだよ」
「愛が知りたいんだよね」
「うん!」
「お兄ちゃんもそう思うでしょ?」
そう流乃ちゃんが問いかけるが兄である碧くんは首を縦にも横にも振らなかった。
というか瞳に光が宿ってないように見えて
何だか胸が苦しくなる。
「わぁ〜!!」
「すごい!!お星様が近いよ!!」
ソリの上ではしゃぐ流乃ちゃん。
それに比べて俯きながらじっとしてる碧くん。
流乃ちゃんは0番さんとルーナさんとリュロスさんの方のソリに乗っている。
そして碧くんは俺と灯と72番さんの方のソリに。
俺の前に座っているがいつか落ちるんじゃないかってドキドキしてる。
今までこんな思いなんてしなかった。
だって他人の子供なんだから俺は心配しなくてもいいだろ。
たまに碧くんは俺の方をちらりと見てくる。
が、俺と目が合うとまた俯く。
やっぱり子供って何考えてんのか分からない。
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