各種の手紙と疑問の連続

「0番、次の手紙読んで」


「かしこまりました」


「『勉強がつまらないから魔法道具図鑑が欲しい。子供の僕が何をするのか何に使うのか気になるんだったら聞けばいいし。危ないと思うのなら作り方とか書いてない図鑑にすればいい。もう1つ願えるのなら、本物の魔女に会ってみたい。』だそうです」


あまりにも長すぎる手紙だ。


それにこの手紙、


本当に子供が書いたものなのか?


「魔女ね...」


珍しく灯が考え込む。


魔女なんて今どき居ないよな。


それにあれはおとぎ話の中でしか会えないものだろ...


「0番、今ってルーナに連絡とれる?」


ルーナ?


誰だそれ...


「可能ですよ」


そう言いながら0番さんはどこかへ行ってしまった。


「朔斗、この手紙呼んでもらっていい?」


そう言って1便の手紙を渡される。


「『見たことがない石・宝石が欲しいです。』」


たったそれだけの短い文が書いてあった。


石?


宝石?


そんなの貰って何が楽しいのだろうか。




気づけば灯はまた、扉に鍵を差し込んでいた。


キラキラとした何かのキーホルダーがついた鍵。


キラキラ光っていて、


眩しすぎて、


なんのキーホルダーかはよく分からない。


扉を開けた先は一言で言うと『洞窟』って感じの場所だった。


まさか掘るのか?


そう思いながらチラリと灯を見る。


と、周りに灯の姿はなかった。


「は?!」


「灯?どこ行ったんだよ...」


ため息ながらも灯を呼ぶ。


だが返答は無く、


ただ俺の声が木霊するだけだった。


どうやら洞窟らしきこの場所は一本道らしい。


ということはそっち側に進めば灯に会えるということ。


だが先は真っ暗闇。


だけどこんなところに1人取り残されるなんて嫌に決まってる。


そう思った俺は、その真っ暗闇に足を進めた。




しばらくすると何かの光が見えてきた。


ランタンとかの光では無いようだ。


「うわ..綺麗...」


思わずそう呟いてしまうほど綺麗な場所に


俺は辿り着いた。


壁から。


天井から。


床から。


色々な場所から宝石が突き出ているような場所だった。


しかも中央には水溜まりがあり、


底には宝石があった。


水面と宝石がキラキラと反射して、し続けて。


俺がいるこの場所が宇宙空間のように見える。


「あ、朔斗ここに居たんだ」


後ろから灯の声が聞こえ、


振り返ると


「ここ、綺麗だよね」


と言いながらも手にはいっぱいの宝石を抱えている灯が居た。






「さっ、次行くよ」


そう言って俺に背を向ける。


きっと灯が抱えているあの宝石が


手紙に書いてあった宝石なのだろうか。


「朔斗、次の手紙はこれね」


そう言ってまた渡される手紙。


そういえば0番さん全然帰ってこないけど


大丈夫かな...


そんなことを考えながらも手紙を開く。


「『愛されるってどんな感じですか?』」


またもやたった一言、


それだけしか書いていなかった。


しかも、


また子供が書いたのかよく分からない手紙。


失恋した奴が子供になりすまして、


書いたんじゃないのか?


「んー...それは後にしよっか」


そう言ってもう1つの手紙を渡してくる。


一体何個の手紙を持っているのだろうか。


「『くもにのれるってほんとーですか?くもはたべれるってほんとーですか¿ほんとーならのれて、たべられるくもをください!』」


全部ひらがなで読みにくい。


それにこんな雲あるわけない。


雲なんて水蒸気の塊にしか過ぎないんだから...


「それも後にしよう」


「はぁ?!」


またもや後回しにされ、思わず声を上げる。


「次これね」


そう言って渡された3つ目の手紙。


開いただけで読む気が失せる。


だって文量がさっきの手紙と差がありすぎる。


「何してんの?早く読んで?」


読まないでいると灯にそう言われる。


鬼め。


「『もう子供じゃないって分かっていますが、この願いだけは叶えて欲しいんです。仄かに温かくて揺らぐ火もある偽物のロウソクをください。それに加えて、ボタンを押すと様々な形に変えられるという機能付きのものがいいです。』だってさ」


偽物のロウソクで本物の火ね...


こんなんどこで使うんだよ...


そう思っているとカチャリという音と共に


灯はロウソク型のキーホルダーがついた鍵で


扉を開いていた。




着いた場所は何かのお店の前。


気づいたら灯の手から宝石が消えていた。


これも魔法の効果だろうか?


それともこの扉の特性上とか...


そんなことを思いながら扉を見つめていると、


「朔斗?何してんの?先行っちゃうよ?」


と灯に呼ばれてしまう。


「今行くよ」


そう答えて灯と共にお店の中に入る。






お店の中は意外と広くて床や壁、


天井までにもロウソクが飾ってあった。


「火事になりそ...」


ボソリとそう呟く。



「そう思いますよね〜!!お客さんお目が高い」


とどこからかそんな声が聞こえた。


だが、辺りを見回しても俺と灯の姿以外は


何も無かった。


「シュロク、からかってないで早く出てきて」


そう灯が苛ついたように言うと


「相変わらずな態度ですね〜 " 当日は " 」


にゃははと笑いながら姿を現したのは


頭がロウソクで体は人間のような異人だった。


「お客さん初めましてですね〜」


ふわりと俺に近づき、目の前でそう言う。


ロウソクの炎が顔に当たって少し熱い。


「近い」


そう言いながら灯が俺とシュロク?さんの顔の間に手を入れる。


明らかに火傷しているような近さ。


「ふ〜ん..」


シュロクさんはそう声を零した後、


「朔斗くんね...」


「あ、僕のことはシュロクって呼んでね〜」


ニコリと笑いながらそう言う。


とても不気味でたまらない。


しかも、なんで俺の名前分かったんだ?


もしかして心が読めるとか...


そんなわけないか...


「心が読めるって?その通りだよ朔斗くん」


カウンター奥で何かを準備しながら


そう言うシュロク。


やっぱりここの世界の人は変だ。


「俺もそう思うよ...」


急にシュロクじゃない人の声が聞こえた。


しかもため息じみた声で。


驚いてキョロキョロとしていると


「上」


そう言われ上を見る。


と、居たのは猫。


しかも空中を歩いていた。


「え...」


「驚かせてすまない」


透明な階段を降りてくるようにして俺の目の前まで来た。


「俺の名前はナナシ、確かお前は朔斗くんだな」


名無し?


名前が無いのか?


「違う。カタカナでナナシだ」


「ナナシ...」


「変な名前だよね〜」


そう言いながらシュロクがナナシさんに


ロウソクの火を近付けた。


瞬間、


ナナシさんがロウソクに吸い込まれていく。


「お前が付けたんだろ!」


「それより出せ!!」


ロウソクの火がゆらゆらと揺れながら


ナナシさんの姿に変わる。


「うるさいな〜」


そう言ってシュロクはふっとロウソクの火を消した。


「それで注文は?」


何も無かったかのように灯に問いかけるシュロク。


何を考えているのか全く分からない。


それのせいか余計に不気味に思えてしまう。


「本物で偽物の火のロウソク」


「あとボタン1つで形を変えたいんだってさ」


淡々と答える灯。


「作れなくは無いけど〜...」


「何か問題でもあるわけ?」


「手紙の送り主って子供?」


何でそんなことを聞くのだろうか。


黙ってさっさと作ればこんな不気味なところから出られるのに。


そう思っていると


「朔斗くん、こっちにもこっちの事情があってね?」


と不気味な笑顔を見せてくる。


「事情...ってなんすか?」


「うーん...」


「例えば手紙の送り主が元フェリスキャリーの社員とか?」


『元』フェリスキャリーの社員?


元ってことは辞めたのか?


それとも辞めさせられたとか?


そんなことを考えながら横目で灯を見る。


と、


「何?」


と言われる。


気づかれてしまった。


「シュロクまだ?」


そして早くよこせと言わんばかりにロウソクを催促する灯。


さっき作れないみたいの言ってなかったっけ...


「あーあ、もう少し話したかったのに」


そう言いながらもシュロクはどこから出したのか分からないロウソクを灯に渡す。


見た感じ、普通のロウソク。


だが、小さい。


とてつもなく小さかった。


「朔斗くん見ててねこれは────」


そう言ってシュロクがロウソクのボタンを押そうとした時だった。


「じゃあ次行こっか」


と言って灯が俺とシュロクを引き離す。


どうなるか気になってたのに...




「はいこれ、読んで」


そう言いながら灯は俺に手紙を渡すも、


手紙は所々凍りついていた。


パキパキという音と共に手紙を開く。


「『この年でサンタというものに物を望むという行為をお許しください。本当にサンタがいるなら冷たいけど溶けなくて固形化と液体化を簡単に出来る水晶をください。嘘でも玩具でもいいので、僕の願いを叶えてくれませんか?』」


なんか学者みたいな願い事だな...


そんなことを考えていると灯が急に


「その人学者さんだよ」


と呟くように言う。


やっぱり灯も心読めるんじゃ...


というか大の大人がサンタに頼むのはちょっと嫌だな。


そう思いながら顔を歪ませる。


「読んだら早く行くよ」


「ちゃんと掴んでて」


そう言いながら灯は俺の手を握る。


さっきまで腕を引っ張っていたのに


急に手を掴むのは心臓に悪いからやめて欲しい。


そうして灯は溶けかけの雪だるまのキーホルダーがついた鍵を扉に差し込んだ。


「あ、朔斗の格好、寒いかも」


そう灯が言うが。


どうやら遅かったようだ。


扉を開けたと同時に先の空気が俺にまとわりつく。


「待っててもいいけど...」


そんなことを呟きながらシュロクを見る灯。


「あー、やっぱ今の無し」


俺が答える前にそんなことを言ってしまう。


多分、


シュロクが俺に何かしそうだと思ったのだろう。


「じゃあシュロクまたいつか」


そう言って灯はシュロクの目の前でドアを閉めた。


その瞬間、


俺と灯は地獄のような寒さの空間に取り残される。


「あったあった」


そう言いながら灯は1つの大きな氷柱の傷がついている場所を押し込む。


と、その穴から小さな氷が出てきた。


「それは...?」


俺がそう聞くと


「ずっと前から用意してきた氷」


「これをこうして..」


そう言いながら灯は氷を取り出す。


というか『ずっと前から』って、


この手紙を予想してたってことか?


「完成!」


そう言われ、目の前で見せられる。


が、何一つ変わっていないように見えた。


「何が変わったわけ?」


そう俺が聞くと


「学者さんに渡す時に一緒に見せてあげる」


「だからお楽しみに!」


そう言って灯は人差し指を唇に当てた。


段々、灯の雰囲気が戻ってきた気がする。


戻ってきたって言ったら何だか悪い気もするが、


それ以外に言いようがなかった。


「これ、最後に手紙ね」


そう言って灯は俺に手紙を渡す。


「『サンタさんお願いです。どーーーーしても僕はスライムが見てみたいんです!!あの漫画とかに出てくる魔物の方です!1度でいいから見てみたいんです。我儘を言えばファンタジー世界の魔物を飼いたいです...


無理なのは分かってます!ですが少しだけでも夢を見たいんです...』」


スライム?


これなら創造獣園に行けば良さそうだけど...


「うーん...」


そんな声を残した後、


灯は雫型のキーホルダーがついた鍵で扉を開けた。


「行こっか」


先程と同じ言葉なのにも関わらず、


灯はどうやら乗り気では無さそうだった。

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