願い事
魔人むにまい
願い事
ある静かな夜、海辺の小さな町に住む少年、海斗(かいと)は、浜辺に座って星空を見上げていた。彼の前には、小さな灯籠が一つ、ぽつんと浮かんでいる。その灯籠は、海斗が先週、海の中で拾ったものだった。中には小さな紙が入っており、そこには「お願いをひとつだけ叶えます」と書かれていた。
「願い事か……」海斗はしばらくその言葉を反芻してみた。彼はあまり欲深い子ではなかった。だが、何か一つだけ、心から願いたくなるようなことがあった。
「僕、あの子ともっと話がしたいな」海斗は思いながら、灯籠を海に向けて放った。波に揺れながら、灯籠はゆっくりと遠くへと流れていく。
次の日、海斗はいつものように学校へ向かう途中、町の広場で見かける女の子、由希(ゆき)に声をかけられた。
「海斗、ちょっといい?」彼女は少し照れくさそうに言った。
海斗は驚いた。由希は、いつも遠くから見ているだけで、話すことがなかったからだ。
「え? うん、何?」海斗は少し焦りながら答える。
「実は……昨日、海の近くで灯籠を見つけたんだ。中にあった紙に書かれていたのは、『お願いをひとつだけ叶えます』って。あれ、君が放った灯籠じゃない?」
海斗は一瞬言葉を失った。彼が放った灯籠が、由希に届いていたなんて。
「まさか……そんなことが……」海斗はうろたえたが、すぐに冷静を取り戻して言った。「じゃあ、君も……願い事を?」
「うん」由希は頷いた。「実は、君ともっと話がしたかったんだ」
その瞬間、海斗の心は温かくなった。彼が灯籠に込めた願いが、無意識に相手の心にも届いていたのだ。
「僕もだよ」海斗は素直に答えた。
二人はそれから、たくさんの時間を一緒に過ごすようになった。お互いに、たくさんのことを話し、笑い合い、心が通じ合うことを感じた。
それから数ヶ月後、海斗はまた浜辺に座りながら思った。あの時、灯籠に込めたのは「もっと話がしたい」という、ただ一つの素朴な願いだった。しかし、それは彼の人生にとって、何より大きな意味を持つものとなった。
灯籠は今も、遠くの海の向こうで揺れているのだろうか。
願い事 魔人むにまい @munimarin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。願い事の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます