第7話 日記
私が無責任に転科をすすめたせいで、麻帆も両親も惑わせてしまった。
妹とはいえ、自分とは違う人の人生に関わる事を、軽々しく口にしてはいけないんだな、と感じた。責任が取れないんだから。
情に流されず、もっとちゃんと麻帆の気持ちを考えるべきだった。
けれど、今の私なら責任が取れる。
麻帆の望む選択をして、私が頑張ればいい。
まずは調理科への転科希望を学校に届けておく。定員に空きが出れば、問題なく転科できるはず。
定員に空きが出るかどうかは賭けになる。出なかったら普通科の商業コースに転科する。もちろん、これも先生に伝えておかないといけない。
受験をして、調理科の一年生からやり直すのは、私が三年間麻帆の体に入っていられるならば、してもかまわない。けれど、何の保証もない状態で、麻帆が一番避けたいと思っているだろう再受験をする決断は下せなかった。
ある日突然麻帆が目覚めて、私が消えてしまったら。説明もできないままに、一歳下の子たちと同じクラスで勉強をしないといけない。それは可哀想だ。
麻帆の戸惑いが小さく、受け入れやすそうな進路を選択したい。
そのためには、麻帆の希望に近い方がいいだろう。
それと、私が消えた時のために、毎日日記を書くことにした。
誰と会って、どんな話をしたのか。覚えておいた方がいい出来事は、必ず書き記す。
特筆すべき出来事がなくても、何をしたか程度は書く。
そして、私が何を考えて、その行動を起こしたのかも書いておくことにした。
記憶の共有ができれば一番早いんだけど、可能かどうかわからない。
解離性同一性障害――多重人格について書かれている本を読んでみて、ケースバイケースだと認識した。
別の人格の記憶はない例もあれば、共有されている例もある。
しかし、私には私にしか持ちえない記憶を持っている。麻帆が生まれた時のことや、19年間の私自身の人生の記憶、看護について。
だから解離性同一性障害ではないと判断した。
記憶についても、共有できない可能性を考え、日記をというシンプルな方法で残す事に決めた。
始業式の後、進路について先生に伝えた。
転科する生徒は毎年数人出るらしく、珍しい事ではないと聞かされた。
その上で、考え直すつもりはないかと再確認された。
ないと答えると、だからといって看護教科の勉強をしなくていいわけではないよと念押しされた。
二年生に進級するため、どの教科も赤点を取らないようにと念押しされて、転科について了解する返事をもらえた。
転科については決まるまで誰にも言わないようにとも言われた。
あとは私が勉強を頑張らないといけない。
一度通った学年とはいえ、油断はできない。忘れていることもあるだろうし、教科書の内容が代わっている可能性もある。
いつ麻帆が戻ってきても大丈夫なようにしておこう。
私は麻帆が戻ってくると信じているから。
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