第4話 集められた冒険者たち
月日が経ち、アルウィンは12歳となっていた。
成長期に入り、彼の身長はかなり伸びている。
アルウィンは、ギルドから緊急依頼の招集を受けて領都である隣町ブダルファルへ赴いていた。
今回の依頼は極秘任務。
早朝、村に早馬が駆けてきてアルウィンを含む上位冒険者の村人4人がこの街へ連れてこられたのだ。
4人のうち最年少のアルウィンがギルドの扉を開けると、そこにあったのは人の群れ。
押し合い圧し合い、ごった返す冒険者たちだった。
「緊急依頼って何だよ!」
「まだ酔いが覚めてねぇんだよ……早く帰りたいんだが」
「暑苦しいわ!早く依頼内容を教えやがれ!」
「皆さん落ち着いて……!!
落ち着いてお待ちください!」
「落ち着いていられっかよ!何が始まるんだ!」
文句を放つ冒険者たちと、それをどうにか宥めようとするギルド職員の姿。
───わざわざこんな朝から、何が始まるんだろう。
そうアルウィンが思っていると、教会の鐘がゴーンゴーンと9回打たれ、朝9時の音を告げる。
いつも以上に大きな声で響き渡る鐘の音に、文句を垂れていた冒険者たちの声が止まった。
そしてその一瞬の間に、ギルドの二階席からただならぬ気配が立ち込めたのである。
「「!?」」
アルウィンの周囲には、その気配に警戒し武器を手にする者、全く気が付かぬ者、鐘の音が大きすぎてそれどころでない者など様々だった。
当のアルウィンはその気配に顔が綻び、満面の笑みを浮かべている。
しかし他の同郷の者は、気配に気が付いた時には冷や汗やら、苦笑いやらを浮かべていた。
その気配が段々と、彼らに近付いてくる。
「聞けィ!」
その気配の主は、その覇気を含めた声だけで辺りを静寂に包み込んでいた。
7フィートはある、巨大な体躯。
少し焼けた褐色の肌。
顔を走る、大きくて深い傷跡。
只者では無い。
それは、声と姿を感じ取った途端に誰でも解ったことだった。
この場にいる最強の存在は、この男である、と。
「私はこの地の領主、辺境伯のジルヴェスタ・ゴットフリードであるッ!」
空気をピリつかせる、圧倒的な声。
気が付いた時には、誰も余計なことを口出せないような張り詰めた空間となっていた。
そう。この男は領主のジルヴェスタ・ゴットフリード。
シュネル流の中では序列2位、剣での技術ならばオルブルよりも下がるが、総合的な武であればこの男に軍配が上がるだろうと目される男である。
ジルヴェスタのギラギラと輝く眼が、アルウィンの眼を真っ直ぐに捉えていた。
途端、彼の瞳は少しだけ優しい眼差しを送る。
ジルヴェスタは、オトゥリアとアルウィンのような
オトゥリアと別れる前までは、よく彼らと遊んでくれた子供の扱いの上手い領主でもあるのだ。剣の手解きもある程度してくれた領主ジルヴェスタは、立場が違えど、アルウィンやオトゥリアにとっては気前の良い近所のおじさんのような存在であった。
しかしアルウィンをちらりと一瞥したすぐ後には、和んでいた眼が虎のような鋭さを持つ色を取り戻していた。
「私がそなたら冒険者を呼び寄せたのは、シャティヨン辺境伯領との領境付近に潜伏しているヤノシック大盗賊団の討伐作戦に力を貸してほしいためであるッ!」
「ええっ!?」という余計な声は、一切入らない。
鋭い声の後に訪れたのは静寂、さながらそれは道場のようだった。
「奴らはゲリラ戦を展開してくることが予想されるッ!我々はそなたら冒険者の力が必要だ!どうか我々に、力を貸してくれぬかァ!報酬は1人あたり3700ルピナスを保証するッ!」
冒険者ギルドが爆発した。
誰しもがそう形容したくなるような程に、響く歓声は凄まじいものであった。
盗賊討伐のために大規模に招集されることは幾度とあれど、報奨金が3000ルピナス台というのは破格そのものである。
ここにいる冒険者全員が、ゴットフリードの声に心を震わせているのだ。
「それでは、今から出撃をするッ!ヴェンデル、前へ!」
すると、ジルヴェスタの後ろから現れた甲冑を身に纏った男が恭しく礼をする。
───この人のことは知らない。だけど、ジルヴェスタおじさん並に強い気配を感じる……
アルウィンはヴェンデルに興味が湧いたのか、観察を続けていた。
身長は実際高いのだろうが、ジルヴェスタの圧倒的な体躯のせいで小柄に見えてしまっている。
魔力感知をかけてみると、シュネル流とは明らかに違う、重心低めにバランスよく流れる魔力回路だった。
恐らくこの副官であるヴェンデルという男は、トル=トゥーガ流の剣士に違いない。
「冒険者は彼に続き、陣に先に向かってくれッ!
臆病者はいないと思うが、いるなら去ってよしッ!
あと、シュネル流剣士はここに残れッ!」
その言葉を切っ掛けに、爆音が冒険者ギルドから湧いていた。
それは無論、戦闘ヘ向かう冒険者たちの雄叫びである。
300名程の、各地からやってきた凄腕の冒険者たち。
それが、1つの塊のようになって副官ヴェンデルに率いられていく。
2分も経てば、冒険者ギルドにいた群衆の殆どは外へと出ていっていた。
残ったシュネル流剣士の冒険者は、アルウィン以外に5名。ズィーア村から同行しているレリウス、エウセビウに、この街ブダルファルに住むテオドール、パムフィル、そして紅一点のルクサンドラ。皆が近隣に住んでいる知り合いだ。
「来てくれたのは6人か。そこそこいるな」
ジルヴェスタは周りを見渡し、「広いところで話しても無駄だからこっちへ来い」と言う。
アルウィン達が連れられたのは、ギルドの会議室だった。
「ジルヴェスタおじさん、なんでオレたちシュネル流剣士がここに呼ばれているんだ?」
6人分の代弁をするアルウィンの声。
すると、ジルヴェスタは地図を広げ、こう呟いた。
「お前らの腕を見込んで特別任務を授けるからだ」
ケケッとアルウィンに悪戯っぽく笑うジルヴェスタ。
「しかし領主様、特別任務とは?」
アルウィン達6人の中では1番年長者となるテオドールがそう問う。
「お前らの任務はな、遊撃、そして奇襲だ」
途端、息を呑む音が部屋に響いた。
広げられた地図には、確かに奇襲部隊と書かれた駒が森の外側後方へ配置されている。
「お前ら1つの部隊とする。正確には5人組では無いが……テオドールを伍長とし、連携して盗賊団の首領ヤノシックの首を取って来い」
「しかし、アルウィンはまだ子供ですわ!」
女剣士ルクサンドラはアルウィンを見て、そう叫んでいた。
「まあ、確かにアル坊はガキだ。だが、剣の腕はお前らと同格、いやもう越されているやも知れん」
「解りましたわ。そう仰られるのであれば、異論はございません」
ルクサンドラがレリウス、エウセビウ、テオドール、パムフィルをじっくりと見つめる。
皆、同様に強い瞳。
ルクサンドラの雲一つない空色の眼は、最後にアルウィンを捉えていた。
「オレは大丈夫だよ、ルクサンドラさん」
その声に、アルウィンの気持ちを感じたのであろう。
ルクサンドラは突っかかっていたものがストンと落ちたかのように、晴れやかな顔そのものであった。
一方のアルウィンはというと。
───やった、初めての対人戦闘、それも死闘ってやつだよね。漸くこの剣の真価を発揮できるんだ!
目は輝き、期待に胸を膨らませていた。解禁された真剣での対人戦闘への期待は計り知れない。
そんな表情のアルウィンをちらりと見たジルヴェスタは、僅かに苦笑いを浮かべていた。
「それでは、本題に入らせてもらおう」
シュネル流剣士6名の目線が、一斉にジルヴェスタを捉えたのだった。
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