キラキラ
Rie🌸
第1話 疲れを癒すショートケーキ
子どもの頃からクリスマスイブは街中がキラキラしていて、ショーウインドウに飾られるクリスマスケーキに目を奪われた。
私の名前は越前奈々子。もうすぐ三十路。
鏡を見ながら髪をお団子にまとめている。
(同級生は結婚して子供も生まれてる。だけど、羨ましいとは思わないのよね。)
私はケーキショップの店員として働いてる。
子どものころから、大好きだったケーキに囲まれて働けるなんて、夢のような職場だ。
店のエプロンをつけて、注文された真っ赤なイチゴがのったショートケーキと紅茶を注文席へと運ぶ。
「お客様。ご注文のショートケーキと紅茶でございます。」
営業スマイルも忘れずに口にした。
すると、前髪が長く目元が見にくいが、高校生くらいの若い青年がか細い声で応対した。
「ありが...とうございます。」
ちらと、テーブルを見ると問題集が置かれている。
(受験生?随分顔色が悪いわね)
そう思ったのもつかの間、ドサッと倒れる音がした。
周囲の客がキャーとざわめく。
奈々子は倒れた青年に駈け寄った。
「大丈夫ですか?」
「すいませ」
良かった。意識があるわ。
騒ぎを聞きつけて、厨房から「どうした?」と店長兼パティシエの沢渡さんが近寄ってきた。
「具合が悪くなったみたいで」
少し考えこんでから、沢渡さんは大きな手で青年の額に触れた。
「熱はねえな。奈々子。スタッフルームで休ませてやってくれ。ホールは何とか回る。」
沢渡さんは人情味が熱いところがある。
私は「はい」と笑みを浮かべた。
◇◇◇
金子歩は大学受験を控えていた。
歩の家は母子家庭で、母親はここまで自分を育ててくれた。
大学に行って良い会社に就職して、母親を楽にしてあげたい。
奨学金制度を希望してるため、寝る魔も惜しんで勉強していた。
髪を切るのも忘れて、一心不乱に勉学に励んでいると、母の妙子が声をかけた。
「歩、たまには甘いものでも食べて息抜きをしてきなさい」
「でも、」
困ったように笑った母は、自分に2000円札を持たせる。
部屋を出ていく母親の後ろ姿に困惑した。
鞄に勉強道具を入れて、勉強が出来そうな店を探した。
そうすると、街角に昭和レトロなケーキショップを見つけた。
<パティスリー虹>
歩は店内に入って、ショートケーキを注文した。
店員がショートケーキを運んだところで、歩の視界がぐらりと揺れた。
◇◇◇◇
パチと瞼を開けると、歩は知らない場所のソファで寝かされていた。
慌てて起きると、近くには先ほどの店員がいた。
「あら、気が付いたのね。良かったわ」
女性店員は安堵の表情を浮かべる。
「すいません。僕、迷惑を」
慌てて謝罪すると、奈々子は歩の頭に軽くデコピンをした。
「君、まだ未成年でしょ?もっと大人を頼りなさい」
彼女は面を食らっている僕を後目に、注文したショートケーキと紅茶を置いた。
「食べなさい。うちのケーキは特別よ。疲れなんて吹っ飛ぶわ」
そう言って笑う彼女はキラキラした笑顔でまぶしかった。
僕はフォークでイチゴと生クリームがたっぷりついてるスポンジケーキを切り分けて、口に運んだ。
イチゴの甘酸っぱさ、生クリームが調和されてスポンジケーキはふわふわだった。
子どもの頃に母さんと二人で作って食べたショートケーキを思い出した。
勉強で疲れた心が癒されていく。
「美味しい」
僕が言葉にすると、彼女は得意気な表情だ。
「でしょ?沢渡さんのケーキはすごいの」
この人は好きなことを話す時の顔が、喜びにあふれていて好ましいと思った。
「あなたの名前聞いてもいいですか?」
僕の質問に彼女は目をキョトンとさせる。
「私?越前奈々子」
(奈々子さん…)
「君の名前は?」
「金子歩です」
奈々子は歩の前髪を左右に分ける。
触れられた手に歩は顔が赤くなる。
「うん!歩くん。前髪を切りなさい。顔が見えたほうがイケメンよ」
そこに店長の沢渡がh知ってきた。
「高校生をナンパするなよ。奈々子」
「してませんよ!」
2人のやりとりに僕は久しぶりに笑顔になれた。
◇◇
数カ月後、季節は春
「今日は新しく入った子を紹介するぞ」
奈々子は誰だろうと朝の朝礼で思った。
入ってきた青年はびっくりするくらいのイケメンであった。
大学生かしら。バイトの女の子がキャーと騒いでいる。
青年は後列の奈々子のところまで、近寄って話しかけた。
「お久しぶりです。奈々子さん。」
「君、もしかして歩くん?」
驚きのあまり目を丸くする奈々子。
彼は前髪を切り、端正な顔立ちが際立った。
そして何よりこの笑顔だ。
すごくキラキラして笑ってる。
春、パティスリー虹に新しい仲間が加入しました。
キラキラ Rie🌸 @gintae
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