第4話 悪者の周辺調査

ワルモーンとシンラーツは悪の組織の本部を出て、周辺を調査し始めた。

本部は、山のふもとにあった。元の世界でも似たようなところにあったので二人は妙な親近感を覚えていた。

本部はもともと光学迷彩と自然の迷彩を掛け合わせており、とても見つけにくくなっている。


なので、外からの侵入者は皆無に等しい。

それに、組織の主力はほぼ本部にいるので戦力的にも問題はない。

それに、エネルギーも特殊なものを使っているので問題はない。

あるとすれば食料くらいになるが、ひと月分の備蓄もあるので緊急性はまだ低い。

見事なまで用意周到である。


なので二人にとって、悪の組織は頼もしい限りでもある。

さらに先行で周辺調査に出ているエンザーイ・ツインズのネットとトレインからの情報では近くに村がいくつかあることがわかっている。

彼らは、ある程度の簡易的な地図を製作し、調査情報を逐一、本部に送ってきている。


もう、軍隊顔負けである。


二人は、送られてきた情報を元に一番近くにある村に向かうことにした。

ワルモーンは、周辺の調査と正義の者を探しに

シンラーツは、二人きりの状況を楽しむために


目的は全く違うが、大丈夫だろうか。

もう不安要素しかない二人が動き出していた。


道なりに歩く二人は野生動物?に襲われる馬車に遭遇する。

異世界での定番の移動手段。

それが片輪が壊され、乗り手とその主らしい人が道の脇にある岩陰に逃げ込んでいた。

襲い掛かるは、でかいイノシシもどきが十頭ほど。

でかいイノシシもどきは、一メートルほどの大きさだ。

その中の一匹がやたらとでかい。高さが二メートルあり、軽ワゴン並みだ。

象かカバなのかと思ってしまうほどである。


牙もでかい、規格外である。

その状況を確認しても二人は気にすることなく進む。

ワルモーンの右横にはシンラーツがいて、何事も無いように話しかけていた。


ちょうど野生動物?たちが道をふさぐような形である。

単純な獣たちの後ろに迫るワルモーンは、左腕を軽く正面から左側に振る。


すると、あら不思議。野生動物?たちは吹き飛ばされているではありませんか。

吹き飛ばされた野生動物?たちは道の側面にある岩壁に激突し、ご臨終となり、

唯一それを免れた二メートル級イノシシもどきが、ワルモーンたちに狙いを変える。


そして、岩陰に隠れていた二人にはおびえる表情が消え、代わりに驚愕が刻み付けられることとなる。

二メートル級イノシシもどきは前足で地面を削ような仕草をして、ワルモーンたちに狙い定め走り出す。


それを確認したシンラーツは、向かってくる二メートル級イノシシもどきに突進する。

そして、細い刃の剣で二メートル級イノシシもどきの眉間を貫く。

細い刃は勢いそのままに柄まで突き刺さり、二メートル級イノシシもどきの突進を細い体のシンラーツが止める。


ありえない光景が目の前でくり広がられている。

乗り手とその主は、あまりにも常識外れに唖然していた。

騎士らしき人が、腕の一振りでイノシシもどきの集団を岩壁まで吹き飛ばし、一番でかいイノシシもどきを小柄の女性が力で押し切っている。彼らは信じてもらえないような事を軽くこなしている二人に驚くばかりだ。


さらに驚くことに一番でかいイノシシもどきは、その場でズンという低い音ともに倒れたのだ。

小柄の女性がいつも間にか手にしていた細い剣を軽く振り、剣についた血を振り払っている。


つまり、小柄の女性は、一番でかいイノシシもどきを力で止めたばかりか仕留めていたのだ。


乗り手とその主は我に返り、慌てて二人に近づき礼を言っていた。

それに対して

ワルモーンは「(歩くのに)邪魔だったからだ」といい

シンラーツは「(デートの)邪魔だったから」と言い、気にしなくてもいいと言っていたが

乗り手とその主は、二人に礼がしたい譲らなかった。


さらに名前を尋ねられ

ワルモーンは「オレは悪の組織の幹部であるワルモーンだ」といい

シンラーツは「私は、冒険者のシンラーツだよ」と言い、マスクを取り満面の笑みを浮かべる。


ただでさえ厳つい風貌のワルモーンはいい印象を持たれにくいのでシンラーツがフォローに走る。

怪しさ全開なのでシンラーツは、自身の顔をさらし安心感を出させる。

さらに、異世界では定番の冒険者を名乗ることでいろいろとごまかそうとしていた。


なんせ不器用大爆発のワルモーンにはできない芸当なのでシンラーツが頑張るのだ。

話しをして何とか誤魔化したシンラーツ。


ワルモーンに馬車を直させ、お礼がしたいという二人と目的地の村まで向かうことになったのだが、その前に

イノシシもどきの死体をどうするか考えることになった。


どうやら食べてもおいしいことが、乗り手とその主からの話で分かり、取り合えず一番でかい奴はワルモーンが担ぎ、

残りはシンラーツが本部に転送した。

そして、「気にしないでね」と満面の笑みを浮かべるシンラーツ。

顔は、少しボーイッシュな感じだが、かわいい部類である。


ワルモーンは、相変わらず怪しさ全開のマスクのままだ。

それに、「オレは、悪者だ。悪人だ」と言う始末。


慌てて、シンラーツがフォローに走る。

彼は、昔、歪んだ正義を語る貴族に家族やら仲間やらを奪われてから正義を名乗る人を毛嫌いしてしまった。

なので自身は正義の逆である悪を語るようになってしまったのだと。


根はくそ真面目の良い人なんだけど、捻くれてしまったのだ、と説明すると割とあっさり信じてくれたのだ。

乗り手とその主は、「よくある話ですね」と言っていた。


そしてこのありえない状況に乗り手とその主はさらに驚き、「一生分を今ここで驚いた気分だ」と言う始末である。


異世界に来たばかりでさっそく常識と考え方をぶち抜く二人。


二人の旅は、旅の初めどころではない。

家の玄関を一歩踏み出したくらいなのだ。





〇これは正義に人生を歪められ、悪を気取ったいい人たちが、悪いことしているつもりで周囲に感謝されるコメディーである。

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