第3話 悪の組織動く

薄暗い部屋に一人極悪な顔をした威厳たっぷりの軍服に似た服を着るオッサンが高そうな椅子に座っていた。

「ムハハハハ、ここは異世界か。どうやら勇者召喚なるものに巻き込まれたようだな。

我らは勇者ではなく悪なのにな、愉快なことだ」


「そうですなゴクアーク様」

そう相槌をするのはその偉そうなオッサンの前に下肢づく一人の若者。

イケメンと言うには普通過ぎる顔につきに親近感すら覚えるほどである。


でも、来ている鎧は仰々しい。

黒に統一された蛇腹状で一目で禍々しいと思えるほどである。


「ならば、ワルモーンよ。せっかくの異世界だ、周囲を制圧し侵略を開始せよ」

と大げさに腕を掲げ虚空を指さすノリノリのいかついオッサン。


「お任せを。すでに周辺調査は、ネット、トレインの両名にさせております。

その情報が入り次第、行動を開始いたします」


「ムハハハハハハハッ、流石に行動が早いな。どうせヒーローどもも来ているのだろう?

宿敵どもの状況も確認しておくようにな。我らは悪の組織、ヒーローどもをどんな手を使っても駆逐するものだ。

なんせ我らは悪なのだからな、手段を吟味せずとも好い。どんな外道で卑怯な手段も構わんからな、便利な物だ悪とは」


「そうですな、それに比べ正義は制限が多いですな。やり方を間違えれば称賛は非難に変わる。

それを我々悪の集団は、気にする必要がないのが楽ですな」


「まったくだ、ムハハハハハハハ」


「では、ゴクアーク様失礼します」

ワルモーンは立ち上がり一礼し、部屋を後にする。


組織本部内の廊下を歩くワルモーンは、向いから来る悪の大幹部の一人アクラーツと合う。

彼女は、マントに身を包み三角形のマスクをかぶり、歩いている。


「あら、ワルモーン君。戻ったばかりなのにどこ行くの?」

まるで近所のおばさんが近所の子供に優しく声をかけるように話しかける。


「あのですね、アクラーツ様。その口調どうにかなりませんか。

一応組織内ですし、威厳とかが保てなくなりそうなので・・・」

ワルモーンは恐縮しながらも注意した。


「ごめんね~、ついいつもの癖が出ちゃってね。でもね、キミとは昔からの顔見知りだしね。別にいいでしょ」

といかついマスクからは想像できない話し方をする。

もう威厳とかへったくれもない状態だ。


「もういいです。ちなみに周辺調査に出かけます。違う世界に来たからには状況確認が最優先です。

組織の人間に危害が加えられることは避けないといけませんから」


「もう、相変わらず真面目なんだから。ちなみに一人で行くの?」


「そうですよ、力試しの兼ねているので」


「それなら私も行きたい」

と彼女の後ろから軽装であり暗めの色合いでまとめたカジュアル服装の女の子が現れる。

顔はお面をつけているが言葉使いは、軽い。


「遊びに行くのではないのだが・・・」

静かな口調でたしなめるように言うワルモーン。

その言葉は、まるで妹に説教するような兄のような感じもする。


「そんなことわかってる。キミはくそが付くほど真面目たモノ。ホント悪の幹部に見えないくらい」

と、ワルモーンを下から覗き込むように見つめている。


「まあ、仲がいいわね。相変わらずに。どう?ワルモーン君、この子、嫁にもらう気はない?」

悪びれた感じもなく、ごく自然にアクラーツは言ってきたのだ。

その言葉に仮面の上から頬を自身の両手で押さえ、くねくねと体を動かすカジュアル服装の女の子。


「こいつがもう少し落ち着いたら考えてもいいですが、この調子では危なっかしくて仕方ありません」

と、ワルモーンは社交辞令として処理していく。

この手の冗談は全て社交辞令扱いにするワルモーンにとって、相手の言い分は本気に受け取らないのだ。

特に、アクラーツの言葉はその手のものが多いので余計かもしれない。


「何でよ、私これでも一人前のレディだもん」

とすねたような立ち振る舞いをするカジュアル服装の女の子。


「一人前のレディはそんなにコロコロと感情的にならない」


「もう、冷たいわよワルモーン君。そんな事ばかりするからこの子のコードネームがシンラーツなんてつけられるのよ」

アクラーツが軽い口調で言う。


実際、自分の娘につけるコードネームに対して納得している親もどうかと思う。

だが悪の組織の人間として悪そうな名前を付けないといけないから面倒である。


「それは、オレが決めることじゃないですよ。悪そうな名前つけないといけないだけでしょう」


「そうね、そうよね。でももっとひねってもいいと思うのよ、単純なつけ方しかしないから困るのよ」

と顎に手を添える。


「それは、そちらでモメてください。組織の問題ではないです、ご家族内の問題ですよ」

ワルモーンは、そう答えた。


「その逃げ方はズルいわよ、ワルモーン君。キミは真面目過ぎるし、不器用なのはよくわかっているわ。

それでもきちんと答えてほしいわ」

と、まるで子供を諭すような口ぶりで言葉を紡いていく。

子供を心配する親のように優しく、そして鋭く。


「オレの答えは変わりません。それにオレの身の上もご存じのはずです。なぜオレが正義を憎むのか、悪に固執するのか。

 オレはまだ自身の中の答えにたどり着いていない、だからこそコードネームについてまで考えが回りません」

と、棒読みのようなセリフを吐く。

その言葉には抑揚はなく、いやあるのだが押さえつけるようにつないでいた。

溢れ出そうな怒りを目の前にいる人にぶつけない様にするために。


「そうね、ちょっとイジメ過ぎたわね。ごめんなさいね、でもキミが心配なのはわかってね」


「そうだよ、ワルモーン君。キミは目を離すとすぐに無茶ばかりするじゃない、心配されたくなければもう少し落ち着いてよ」

と、怒った口調で話すシンラーツ。

その声色は怒るというよりも心配がにじんでいた。


「悪かったなシンラーツ。アクラーツ様も申し訳ありません」

と頭をさげるワルモーン。


「昔みたいにおばちゃんでもいいのよ、ワルモーン君」

と口調が明るくなり、からかい始める。


「あのそれは、組織内ではどうかと思います」

と慌てる。


「それはまずいよ、アクラーツ様。ワルモーン君は真面目過ぎるし、不器用なんだからうまくかわせないよ」

と助け船を出す。

流石にやりすぎていると娘の目線でもそう感じてだろう。


「そっか、じゃあ。これから周辺調査なのよね。キミはやりすぎるからこの子を連れてってね。お目付け役として」


「ですが、危険です。何があるかわかりません」


「いいのよ、この子も自分の身は守れるし。それにこの子が危なくなようなことはしなくなるでしょう」

事実上の足かせである。

ワルモーンが無茶をしないようにするためのブレーキに娘をしているのだ。


それを聞いたワルモーンは小さく嘆息して、

「そうですね、一人では出来ることも限られます。彼女についてきてもらうとします」

と言うとシンラーツは飛び跳ねるように喜び、アクラーツは安心したように仮面の奥で目じりを緩める。


「じゃあ、行こうワルモーン君」

と言うとワルモーンの手を掴み、引っ張るように本部の入り口に向かうシンラーツ。


二人の姿を見送るアクラーツは、

「早く帰ってくるのよ、夜更かしとかしないでね」

と、子供を送り出す親のような口調になっていた。




ここは、悪の組織ギャクゾークの本部。

正義の戦隊ヒーローの敵役たちの根城である。


彼ら、悪の組織ギャクゾークは、本部ごと異世界に飛ばされた。


彼ら、悪の組織ギャクゾークは、本部ごと異世界に飛ばされた。

異世界の勇者召喚に巻き込まれたのだ。

異世界からの度重なる勇者召喚により時空に歪みが生じ、開くべきゲートが過剰に開いてしまったのだ。


都合よく人を呼び出しまくり、そのツケが出たのだ。

それに関係ない者たちが巻き込まれるのはいい迷惑だと思う。


今回は、いくつもの国が同時に異世界召喚の儀式を行ったためにさらに過剰にゲートが開き、

目標の人物以外も呼び寄せることになってしまったのだ。





〇これは正義に人生を歪められ、悪を気取ったいい人たちが、悪いことしているつもりで周囲に感謝されるコメディーである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る