ヨモスエソワカ、ヨモスエソワカ。

DITinoue(上楽竜文)

悲鳴

「おい……。おい、なあ、何してんだ? なあ、変な冗談止めろよ。今日エイプリルフールでも何でもないぞ。さすがに冗談じゃないって。な? なあ、なぁ……?」


 心臓の拍動が、大きく速くなる。まるで、汚物を吐き出すポンプのように。

 答えは返ってこない。

 コンプレックスだった大きな胸に、両手をクロスして俯いているだけ。


「この前は、ごめんって。俺が悪かった。支えて無しで何も出来ないくせに、なあ、ホント、最低だよな。カッとなりすぎた。なあ、許してくれよ、許して……」


 激しく息を切らし、ビリビリ痺れた手で、俯いた彼女の頭を触った。

 動きは無かった。

「ええ……?」

 膝から崩れ落ちるように座り込み、躊躇いながら彼女の顔を覗く。

 見開かれた目は、真っ白。

 絶叫していたのだろうか。大きく開かれた口からはダラリと舌が垂れていて、ポタリ、ポタリと血液がそこを伝って落ちている。

「……ふみ?」

 開いている窓から、乾いた風が吹き込んで室内をかき回す。


「なあ、本当かよ。おい、さすがに、ここまでしなくていいだろうよ、なあ、もう一回さ、また……」


 細い首を縛る、お気に入りのバンドのタオルの結び目を、何度も手が絡まりながらほどいた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 前に倒れてきた彼女を、俺は力の限りに抱きしめた。

 ちょうどいい具合にふっくらしていた彼女は、肋骨の感触が伝わるくらいになっていた。


「うわあああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 温度は無い。

 反応もない。


 狭い玄関に、猛獣の遠吠えみたいな、俺の声だけが、おんおんとこだましていた。

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