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「……やっぱ飲まなきゃダメ?」

「当然だ」

 とくとくとボトルからグラスに注がれるのは真っ赤な液体。今朝採れたてだと公爵は鼻歌交じりに言いますが、少年はぐっと喉を詰まらせます。

「だって、昨日も飲んだ……」

「傷が治りきるまで毎日飲むんだ」

「うぅ……」

 さあ、と促す公爵に痩せ細っていた時の面影はありません。見た目は人間で言えば二十代で肌もつやつやぷるぷるです。少年を吸血鬼に変えてしまった責任を取らなければなりませんから、血を飲まないという選択肢は完全に消え去りました。

 少年はグラスを手に持つと鼻を摘まんで一気にグラスを呷ります。やけくそです。少年に根付いた倫理観はなかなか消えず、人間から直接吸血することができないので、こうして血を摂取することにしたのでした。そして口直しは人間用の食事です。

「食事が終われば夜会だ。服も誂えておいた。お前のお披露目会だからな」

 お披露目会というものは本当は存在しませんが、公爵は少年が可愛くて仕方がないため皆に自慢して回りたいのです。少年は生まれたてほやほやの下級の吸血鬼。主である公爵がついてこいというのですから、ついていくしかありません。

 ただ目を細めて微笑む公爵を見て、少年は満更でもないと、はにかむように笑うのでした。




END

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人間に恋をした吸血鬼のお話 珈琲きの子 @kinokoooooffee

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